第411話 フロード
「出来たっスよー。これは自信作っスー」
シャーロットの代わりに自慢そうにしているのはシュリだ。
実は彼女も魔法陣に関する知識はあったらしい。
薬学大全の中には魔法陣を使った製薬方法もあり、魔法陣の制作だけならシャーロットとどっこいどっこいの実力の持ち主だったのだ。
更に迷い人の彼女には、完成品のイメージが頭の中にある。
目指すべき形を知っているほうが、知らないまま作るよりも遥かに有利なのは言うまでもないだろう。
その結果、制作のメインとなったのはシュリであり、シャーロットとアレク君はサポートに回ったらしい。
偉そうに自己申告したシャーロットさん、憐れなり。
すこしションボリしているシャーロットはさておき、完成したブツをみる。
ボードそのものは先程と変わりはない。
切り出したままの板で、色塗りさえしていない。
まぁペンキなんて気の利いたものはないし、仕方ないだろう。
変化があったのはボードの両面だ。
片方の面には、複雑な模様とその中心に六角柱がはめ込まれている。
その模様も、よく見ればエジンソンが残したものと同じ模様だと分かる。
なにせ見本が隣に置いたままだしな。
これが浮遊石を稼働させるための魔法陣らしい。
で、シュリの言ってる自信作の部分ってのが、その裏面に描かれた魔法陣の事だろう。
丁度両足が乗るあたりに魔法陣が描かれ、その真ん中、ボードの中心部には黒い石がはめ込まれている。
「こっちの浮かせる部分は分かるけど、反対側のはなんなんだ?」
「コレはっスねー……なんと魔石で浮かせることが出来る様になったっスよ」
「?」
「だからー。こっちの魔法陣で魔石の魔力を浮遊石側に送ってるって構造っス」
そういえばエジンソンは自身の魔力を注いで椅子を浮かせてたな。
それがコイツの場合、魔石をその代用として使ってるって事か。
でも単純に魔石を使った魔道具なら、俺が持ってるランタンの魔道具もそうだよな?
というか、魔道具の大半が魔石を利用したものだろうし、それが自信作ってどういうことだ?
「あ、仰々しいことを言ってた割に大した事ないな、とか思ってるっスね?」
「まぁそうだな」
「ちっちっちー。甘い、甘い、激アマっスよ」
「?」
「この魔法陣はっスねー、なんと使用者の意思を読み取って、魔石からの魔力供給をコントロールしてるっスよ」
「それって他の魔道具でも一緒だろ?」
「違うっスよ。一般的なのはオンオフの切り替えぐらいで、出力の調整が出来たとしても、使う魔石を増やしたりするだけっスから、結構大雑把っスよ」
「これは違うのか?」
「薬を作る時は調整がシビアなものが多いっスからね。魔力の微妙なコントロールが要求される場合もあるっスよ」
「それがこの魔法陣ってことか」
「そうっス。単純に魔石から供給しただけだと、浮力の調整が効かないっスからね。この魔法陣を使って調整が効くようにしたっス」
まぁ起動したとたんに大きく飛び上がるようでは危ないからな。
俺は昔、ヘリコプターのラジコン(屋内用)を買った事がある。
その時は、上昇の加減を間違えて何度も天井にぶつけたっけ。
ぶつかっては墜落を繰り返しまくり、とうとうローター(羽根)が壊れて、結局それっきり遊ばなくなったという苦い思い出がある。
あの時はラジコンが壊れただけで終わったが、今回のは人間が乗るのだ。
安全を考えれば、この処置はありがたいだろう。
「で、この部分に両足をのせて……あとは『浮け』とイメージすれば……この通りっス」
ペタンと床についたままのボードが、シュリが両足をのせた途端に、少しづつだが浮き始める。
それはあの映画さながらの光景だった。
「すげー、まさしくホバーボ〇ドだ」
「でしょー。ただ、まんまじゃ色々マズい気がするんで、あたしはフロート【float】するボード【board】でフロードって名付けてみたっス」
「フロードか。まぁ何でもいいや。早速乗らせて貰ってもいいか?」
「勿論っス……と言いたいとこっスが……」
浮いていたフロードが次第に下がり、遂には床にペタンとついてしまう。
「電池、もとい魔石切れっす」
「えぇー!?」
試運転として、シュリやシャーロットが散々乗りまくってたせいらしい。
魔石自体はシャーロット提供らしいのだが、それでももう少し控えるべきだったんじゃないのか?
ついでに言えば、燃費もかなり悪いそうだ。
今使っているのはゴブリンの魔石らしいが、もって五分だという。
つまりコイツ等はそれが分かる程度には遊んでいたようだ。
「じゃあ魔石を交換すれば……」
「残念っスけど……今のが最後っス」
「はぁ?!」
マジかよ!?
あそこまで期待を高めさせたのに、乗れないのかよ!?
何とかならないのか?!
期待を込めてアレク君を見る……目を逸らされた。
まぁ持ってたとしても、試運転で徴収されてるか。
ならばとクレア、ベルと見ていくが、誰も持っていない。
もちろん俺も持ってない。
ないない尽くしだが、最後の手段がないわけではない。
魔石が無いなら魔力を使えばいい。
元々は魔石なんて使わず、魔力で浮くんだからな。
問題は、どれぐらいの速度でMPが消費されるかだ。
かなり燃費が悪いみたいだから、俺程度のMPではちょっとしか乗れない可能性だってある。
それでも俺は乗りたい。
あの映画の様に、俺も遊びたい。
そう決意し、シュリからフロードを受け取る。
床に置いたフロードに足を乗せ、いざ! って時になってアレク君から待ったがかかった。
なんだ? 魔石の予備でも隠し持ってたのか?
「いえ……魔石は持ってませんが、魔石にすることなら出来るかもしれません」




