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第407話 拘束

 高級レストランでのランチは総額で金貨一枚と、結構な値段だった。

 食事自体の値段で一人大銀貨1.5枚。

 六人分なのでそれだけで大銀貨九枚になる。

 更にサービス料というか、俺達一人一人についてくれた給仕達へのチップで大銀貨一枚。

 しめて金貨一枚となった次第である。


 一人当たりの代金が、ちょっとした魔道具が買えるような豪勢なランチだったが、後悔はない。

 塩の取引によって得た金額が金額だからな。

 少しは皆にも還元するべきだろう。


 とはいえ浪費しまくるのも、ここまでだ。

 江戸っ子は宵越しの銭は持たないらしいが、俺は既にアルカナっ子だからな。

 程々の所で止めることが出来るのだ。


 大通りの露店を眺めながら、魔の山側の門へと向かう。

 徒歩の移動時間を考えれば、遊んでいられる時間も残り少ないのだ。

 ギルドで報告する時間も考えれば、結構ギリギリに思える。


 みんなもそれを分かっているのか、自然と早足になる。

 それでも気になった店の前では足を止める事もある。

 マウルーと似た町とはいえ、国も変わるし場所も変わる。

 同じように見えて、品揃えは違ってくるのだ。


 特に顕著に表れるのが生鮮食品類である。

 山一つ挟んでいるせいか、育つ野菜の品種も違いがある。

 同じ品種でも、育つ地域によって味に違いが出る。

 そういったマウルーでは見られない野菜類を見つけたアレク君が、つい買い込んでしまうのだ。


 無論、それを咎めたりはしない。

 今や彼はこのパーティーの料理長だからな。

 美味いメシの為にも、むしろ推奨したいほどだ。


 そんな風に買い物というか仕入れをしながら、門に辿り着く。

 昼過ぎといった時間帯なので、町を出る人も少ない。

 門番の人も、入る場合はキチンとチェックするが、出る人に関してはスルーしている。

 さすがに怪しげな格好や荷物であれば呼び止められるだろうが、そうでない普通の状態なら素通りの筈だった。


 そう、だったなのだ。

 善良な小市民である俺達なのに、何故か門番に捕まっている。

 もちろん俺に捕まるような心当たりはない。

 シャーロット達も首を傾げているので、誰かがウッカリご禁制の品を持ち出そうとしている訳でもないようだ。


 あまりにも心当たりが無さすぎるので、門番の人に「人違いじゃないですか?」と聞いてみたほどだ。

 だが返って来た答えは「間違いなくお前達だ」とのこと。


 正直、こんな所で足止めをくらうとは思ってもみなかったのだが、強行突破する訳にもいかない。

 そんな事をすれば、濡れ衣が本物になってしまうからな。

 渋々ではあるが、門番さん達の使う休憩室っぽい所で大人しくしている。


 ただ、そこで分かったのは、俺達が何か良からぬことをしたために、拘束された訳ではないって事だ。

 門番さん達も慌ただしく動き回ってはいるが、俺達に対して取り調べといった何らかのアクションがある訳でもない。

 ただ俺達にはここで待つ事しか出来ず、あとは門番さん達の様子から、誰かを呼んでいるっぽい事が分かっただけであった。





 突如、拘束された訳だが、扱いは犯罪者のそれではなく、客人のそれだ。

 お茶っぽいのまで出してくれたので、当初あった緊張感などとうに消えている。

 ぬるくなったお茶のお代わりでも頼もうかと席を立ちあがったとき、ソイツが現れた。


 少し禿げ上がった額にボサボサの白髪頭。

 ヨレヨレの作業着にゴーグルのような物を首に掛けている。

 一見するとどっかの工房の職人のような出で立ちである。


 まぁエジンソンだな。

 俺のいい加減なタイムマシン理論を真に受け、代わりに自動車一台プレゼントするような奇特なヤツだ。

 そのエジンソンは、俺とシュリの顔を見るなり、駆け寄って来た。


「待っておったぞ。ショーとオッパイ美人」

「オッパイ美人じゃないっス。シュリっスよ」

「俺もショーじゃなくてショータな」

「お? おお。そうじゃったそうじゃった。ショータとシュリじゃった」


 俺の名前を忘れるぐらいなら、俺の存在ごと忘れて欲しかった。

 そしてこんな所で待ち伏せなんてしないで欲しかった。


 なんでココにエジンソンが? なんて思わない。

 きっとあんな嘘八百を咎めに来たのだろう。

 そうでなければ、こんな所で俺達を待つ必要なんてないのだから。


 しかもどこで情報を手に入れたのか、先回りまでしているほどだ。

 その執念深さからすると、よっぽど腹に据えかねたのだろう。

 あのニコニコ笑顔の底には、物凄い怒りが煮えたぎっているに違いない。


 となれば、ここはアレの出番だろう。

 覚悟を決め、膝をつく。


「ここでお主らを待っていた「すみませんでしたーー!」のは他でもな……突然なんじゃ?」


 土下座である。

 全身全霊の土下座である。

 今なら焼き鉄板の上でも出来る程で……あ、やっぱそれは無しで。

 さすがに焼き土下座をやる根性は無かった。


 そんな俺の土下座にエジンソンのオッサンは、


「なんじゃ突然床に座りおって……それよりワシの話を聞く方が大事じゃろう」


 であった。

 やはり焼き土下座までやってこそ、真の謝罪だったのか。


 そう……土下座など無意味っ。

 そもそも、謝罪とは相手がそれと分かってもらわなくては駄目っ。

 土下座が謝罪の作法の一つと知らない相手では、あまりにも無力っ。


 だがエジンソンの言う事はもっともだ。

 ここは彼の話をキチンと聴くべきである。

 その上で謝罪するべきだろう。

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