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第404話 引継ぎ

「それじゃあ、お世話になりました」

「オレの方こそ世話になった気もするが……まぁいいか。気を付けてな」


 チェックアウトを済ませ、新月亭を後にしようとした所、パイさんが見送りに来てくれた。

 白いエプロンをつけたままなのは、俺達の出発を聞き、慌てて来た為だろう。

 豪快美人のパイさんにしては少々可愛らしいデザインのような気もするが、実はああ見えてフリフリ系が好きとか?

 今度ハート形のエプロンとか渡してみようかね。


「お前も達者でな」

「あぁ、シャーロットも……まぁ元気でな」


 そんな俺の思いをよそにガッチリと固い握手を交わす二人。

 湿っぽくならないのは昨日散々飲んで騒ぎまくったからだろうか。


 まぁ今生の別れって訳でもないしな。

 居場所も分かってるんだし、会いたくなれば直ぐに来れるだろう。






「ショータ。ちょっといいか?」


 握手を交わした後も、シャーロットと二三言葉を交わしてたようだが、それも終わったらしい。

 パイさんに呼ばれ、そのまま建物の裏手っぽいところに連れてかれる。

 なんだろう? 塩の平原の情報で何か分からない事でもあったのかな?

 それとも告白? まさか校舎裏のお礼参りって奴じゃないよな?


 とりあえず無難な所を狙ってこちらから聞いてみるかね。


「なにか不明な点でもありましたか?」

「いや、今は料理長のパイじゃなくて、ただのパイモンとして話がしたい」


 そういってパイさんはエプロンを外す。

 外した時に拝スライムさんがブルンと揺れるが、パイさんいやパイモンさんのマジな雰囲気が、それを見つめることを許さない。


「先ずはシャーロットを連れて来てくれたことに感謝を」

「はぁ」

「暫くアイツの情報が入ってこなかったし、入ってくる情報も死んだとかっていい話じゃ無かったんでな。ちょっと心配してたんだ」

「そうでしたか」


 良く分からないが、シャーロットを連れて来たことで、パイモンさんの心配事が一つ無くなったらしい。


「それとアイツが色々と世話になってるらしいな。代わりに礼を」

「いや、どっちかっていうと俺の方が彼女に迷惑かけてますし」

「仲間ってのは互いに迷惑かけるもんだ。アイツとはいい仲間でいてやってくれ」

「ハイ」

「いい返事だ。それとな――」


 パイモンさんからシャーロットの事を少しだけ教えてもらう。

 それはかつての仲間からの引継ぎ。

 魔王となる前の彼女と、なった後の彼女。

 シャーロットから聞いたことの繰り返しの部分もあったが、そうでない部分もある。

 目指すものが違ったため袂を分かちはしたが、仲間であった事に変わりはない。

 シャーロットを心配するパイモンさんの気持ちが少しだけ伝わった気がする。


「あとな……これはオレ個人の願いというか頼み事なんだが……」


 そういってパイモンさんは頭をボリボリと掻く。

 「うー」とか「あー」とか視線がウロウロする。

 やがて言いたいことが纏まったのか、ジッと俺の目を見つめてくる。


「シャーロットを……頼む」


 その目はかつての仲間を心配している訳ではなく、大切な古い友人を俺に託す。

 そんな目をしていた。


「分かりました」


 俺は右手を差し出す。


「任せた」


 パイモンさんがその手を掴む。


 かつての仲間から今の仲間へ。

 その引継ぎは今、完了した。





「じゃあな。何かあったら……いや、何もなくても訪ねて来いよ!」


 握手を解いたパイモンさんは、俺の肩をバシバシと叩く。

 本人としては軽く叩いているつもりなんだろうが、鎧越しでも結構痛い。

 確認はしてないけど、HPも削られてるんじゃないか?


 死因が肩たたきになってはたまらないので、そそくさと逃げるように皆の所へ戻る。

 パイモンさんはエプロンを身に着けると、そのまま厨房へと戻って行った。

 分かれは済ませているし、夜の仕込みもあるそうだ。


 シャーロットには「何を話してたんだ?」とコッソリ聞かれたが、あれは俺とパイモンさんとの内緒話なので、「お前の苦手な食材の話だよ」と誤魔化しておいた。

 一応、引継ぎ項目の中にあったので嘘ではない。


 ちなみにシャーロットの苦手な食材は……いや、今はやめておこう。

 後でコッソリ混ぜてやろうなんて思ってもいないのだ。





 新月亭を後にした俺達はすぐに発ったりせず、タナムの中をうろつくことにした。

 昨日もうろついたのだが、時間帯が違うせいか街並みが違うように感じる。


 いや、実際違うのだろう。

 昨日は見なかった露天商が店を広げて客の呼び込みをしているし、串焼きを扱う屋台も忙しそうに仕込みをしている。

 もう少しすれば、この通りも活気に満ちてくるだろう。


 少しずつ変わっていく街を眺めながら、目的もなく歩く。

 それは観光というよりも、時間つぶしの意味合いの方が強いだろう。

 予定としては昼位まで、こうして街をぶらつくつもりだ。


 本当は街ブラせずともマウルーに戻れるのだが、飛空艇の移動速度を考えれば、今からタナムを出発しても昼位には着いてしまう。

 マウルーを出たのが五日ぐらい前なので、もう少し時間を潰しておきたい。


 外にでて狩りをするのでもいいが、すぐに獲物が見つかるとも限らない。

 だったらってことで、タナムの町を観光することにしたのだ。

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