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第401話 塩とポケット

「ショータさん。そろそろ食事の時間だそうです」

「ん……そうか……」


 シュリの膝枕という至福の時間は、アレク君によって終わりを告げられた。

 残念ではあるが、朝食は大事だ。


「まぁこんな膝枕でよければ、偶にはやってあげるっスよ」

「そ、そうか」

「ただし……」


 そういってシュリはニヤッとして見せる。

 分かってる。世の中ギブアンドテイクだ。

 JK(なりそこない)の膝枕には対価が必要だ。

 それも現金ではなく現物が。


「まぁほどほどにな」

「分かってるっスよ。ブツは山分けっス」


 俺としても彼女のMPで米や醤油が手に入るなら大歓迎だ。

 その分、他の機能に使えるからな。

 シュリも自分用だけならそれほど持ち出さないだろう。


 そんな密約を交わした俺達は連れ立って食堂へ向かう。

 今朝のメニューはパンとスープ、あとは茹でたイモ。


 どこかで見た覚えのあるメニューだと思ったら、初めて泊ったあの宿屋のメニューだ。

 なんでもこの辺では一般的な朝のメニューらしい。

 あの時の微妙な味を思い出し、膝枕で上がってたテンションがだだ下がりする。


 うーん……シャーロットには悪いが、パイさんの腕前は大した事ないのかもしれない。

 あの塩を卸したのは失敗だったかな。

 そんな失礼なことを考えながらスープを頂く。


 ……前言撤回。

 あんな宿のマズい飯と比べる事自体間違ってた。

 スープはもちろん、茹でたイモにもほんのり塩味が効いている。

 それもショッパイと感じるほどではなく、ほんのりとした塩加減である。


 塩気が全くないと食が進まないが、しょっぱ過ぎても同じことである。

 それがこの朝食には無い。

 お代わりしたくなる、そんな匙加減なのだ。


 やべぇ……俺の中の料理人ランキングじゃガロンさんがトップだったのに、パイさんはそれを上回って来た。

 以前にダメダメだった味を知ってるからこそ、その思いは強くなる。

 

 そしてパイさんがこのメニューを選んだ理由が分かった。

 食べなれたメニューだからこそ、塩加減の差が分かる。

 

「どうだい? アンタの持って来た塩なら、いつものメニューもここまで変わるんだぜ」


 パイさんが現れて自慢げに胸を張る。

 それに合わせて拝スライムさんが揺れる。

 相変わらず拝みたくなるお姿である。


「凄いですね。正直、塩が変わった程度でここまで違いが出るとは思いませんでした」

「元々シンプルな味だからな。違いを出すならこのメニューが一番分かり易いんだ」

「そうですね」

「あとはコイツを使ってみるか? 本当は別料金を取るんだが、今回は特別にタダでいい」


 そういってパイさんが出したのは器に入った白っぽいもの。


「これは?」

「バターだ。これにも例の塩を使ってる」


 今朝作ったばかりのフレッシュバターらしい。

 確かに茹でたイモにはバターがよく合うだろう。

 その組み合わせを知ってるものなら、別料金だろうと払うに違いない。


 実際美味かった。

 絶妙な塩加減とはいえ、所詮は茹でたイモ。

 結構デカいサイズもあって食い切れるか微妙だったが、バターの援軍によりもう一個貰う程だった。


「それでだな……ショータにちょっと相談があるんだが……」


 追加のイモを持って来たパイさんは、そのまま俺達のテーブルにつくと、そう切り出した。


「相談……ですか?」

「あぁ、例の塩の事だ。シャーロットに聞いたんだが、ショータはこの塩がどこで手に入るかも知ってるらしいな」


 チラッとシャーロットを見ると、スマンと両手をあわせている。

 多分昨日の飲み会で漏らしたのだろう。

 古い友人とはいえ、セキュリティが甘過ぎじゃないのか?


「ま、まぁ知ってると言えば知ってますが……」

「それを教えてもらう事は可能か?」

「それは……」


 ストレートな問い掛けに言いよどんでしまう。

 以前にもガロンさんに教えようとしたことはあるし、パイさんにだって教えていいとは思う。

 ガロンさんに教えなかったのは、単に行けると思えなかったからだしな。

 シャーロットが一枚かんでいる以上、何らかの手段で塩の平原へ行く方法があるのだろう。

 さすがにダンデライオン号頼りとは思いたくない。


 チョイチョイとシャーロットを呼び寄せ、その辺を相談する。

 彼女の当てとは転移陣のようだ。

 山脈間を一瞬で移動できる転移陣を、塩の平原にも設置する魂胆らしい。


 あれ? 転移陣って秘密の存在じゃ無かった?

 輸送自体は国で管理するだろうし、その辺は何とでも誤魔化せる?

 まぁシャーロットがそう言うんなら信じるか。 


 それにタナムという町はマウルー以上に塩が手に入りにくいらしい。

 魔の山が出来る以前ならともかく、今は内陸部の最奥に当たる場所だ。

 手に入る塩と言えば質の悪い岩塩か、バカ高い輸送費をかけた海辺からの塩、それも混ぜ物でカサ増したものばかりだ。

 人の営みに欠かせないものだけに、供給を止める訳にもいかず、マズかろうと渋々使うほかなかった。


 そこに塩の平原の登場である。

 しかも懸念だった輸送手段も転移陣があればクリアできる。

 元魔王国の王様(自称)だったシャーロットしても、是非確保したいルートのようだ。


 その辺の事情を聴き、俺は情報の開示を決めた。

 もちろん対価は貰うし、情報の出所は秘密にしてもらう。

 その辺はシャーロットとパイさんの二人が保証してくれるらしい。

 一介の冒険者(元魔王様)料理長(元四天王筆頭)の保証がどの程度のものかは怪しいものだがな。


 それともう一つ。

 マウルーにも格安で塩を卸してもらう事も約束してもらう。

 このルートが出来れば、一々俺が塩を取りに行かなくても良くなるしな。


 塩の平原の存在が明るみに出る訳だが、それは問題ない。

 あんな量の塩なんて、俺個人では絶対に捌き切れないからだ。


 まぁあれだな。

 俺のポケットには大きすぎらぁ、ってヤツだ。

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