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第391話 パイモンという人物

 オレの名はパイ。

 かつては四天王筆頭のパイモンと名乗っていた頃もあったが、今は『新月亭』料理長のパイだ。

 まぁ雇われだけどな。


 あの頃のオレは若かった。

 ちょっと腕っぷしが強いからって調子に乗ってたら、いつの間にか四天王なんて呼ばれるようになってたんだよな。

 四天王なんて聞くと偉そうに聞こえるだろうが、オレにとっちゃ殴る相手には事欠かない気楽な立場だった。


 そんな四天王の座に居座って何年かした頃だろうか。

 人族との戦争が勃発したのだ。

 前々からキナ臭かったし、覚悟はしていたからその辺はいい。

 むしろ今度の作戦には勇者が参戦すると聞き、楽しみなほどだ。


 勇者ってのは人族で一番つえぇヤツだ。

 最近じゃオレが名乗るだけで相手が逃げるようになってたからな。

 そんな奴を相手に出来るなんて、ワクワクが止まらなかった。


 もっとも、フタを開けてみれば、期待外れだったがな。

 戦場は海の上だし、オレの役目は新しく入った四天王(シャーロット)の護衛。

 これはこれで悪くないが、やっぱ殴り合わないと面白くない。

 せめて勇者ってヤツを見たかったが、オレが見たのは封印魔法で氷漬けにされた姿だけだった。


 その姿を見たのも一瞬で、そのすぐ後に海が荒れだし、更に海底から巨大な山が現れた。

 何事かと思ったが、すぐに原因が分かった。

 シャーロットの魔法だ。

 ヤツがこの大惨事を引き起こしたのだ。


 荒れ狂う波に船が激しく揺さぶられ、立つ事すら儘ならなかった。

 これほどの魔法をたった一人で引き起こした事に驚くが、それどころじゃない。

 なんとかシャーロットに魔法を止めるように叫んだが、ヤツはヤツでパニックになっている。


 ダメだ。魔法は止まらない。

 こうなったら身の安全の確保の方が大事だ。

 オレの経験上、この手の魔法で一番安全なのは術者の周辺だ。

 術者を守る結界がどうのとか、ハルファスが小難しいことを言ってた気もするが、そんなのはどうでもいい。

 オレはシャーロットにしがみ付き、なんとか生き残ることが出来た。





 それからも大変だった。

 魔王となったシャーロットの護衛をしながら王都に戻ったんだが、とにかく食いもんが無かった。

 それもそうだろう。

 今まで海だった場所が、いきなり山になったんだ。

 巨大な津波が起こって周辺の町や村は壊滅。

 農地だった場所も土砂やらなんやらで、ろくすっぽ残っちゃいなかった。

 どうにか無事な森を見つけることが出来たのは餓死寸前だった。


 だが森に入ってしまえば何とでもなる。

 必死の思いで食べられるものを探しまくったせいか、オレに『調理』スキルが目覚めたらしい。

 コイツのお陰で食えるものが見つかり、何とか食つなぐことが出来た。


 しかもフリューまで見つけられたのは不幸中の幸いだったな。

 いやあのキノコを見つけたせいで破産するまで飲み倒されたんだから、不幸でしかなかったか。


 その後、シャーロットの戴冠式を見届けたオレは、四天王を辞めることにした。

 シャーロットの魔法を見て、自身の強さの限界を悟ったからだ。

 多少腕っぷしが強い程度じゃ、アイツには勝てない。


 だからといってオレの頭のデキでは、魔法使いにはなれっこない。

 強さを求める事に虚しさを感じたオレは、新たに手に入れたスキルを活かそうと思ったのだ。

 シャーロット――本当ならシャルロット陛下と呼ぶんだろうが、オレの中じゃアイツはシャーロットのままだ――は残って自分を助けて欲しいと言われたんだが、断った。

 アイツと一緒に居るとオレ自身の弱さを思い出してしまうからだ。





 四天王を辞めた後は、料理の武者修行だとあちこち渡り歩いた。

 魔王国だけでなく、人族の国まで足を延ばしたこともあったな。

 その国ではオレと同じ『調理』スキルを持った奴を弟子にしたこともあった。


 武者修行の旅だが、良かった事もあったが失敗したこともあった。

 今にして思えば、酔った勢いであの魔道具を使ったのは惜しかった気もする。

 あのショーユとかいう飲みもんは調味料として使うべきだったと後悔した。


 そうやって長い間放浪の日々を送っていたオレも、とうとうこの宿に腰を落ち着けることにした。

 なんせここのオーナーのセルジュはオレの料理にベタ惚れみたいだからな。

 料理長なんて立場まで用意して、オレの好き勝手にできるようにしてくれたオーナーには感謝しかない。


 困った事といえば、セルジュのプロポーズが少々面倒な位か。

 さすがにあそこまで露骨にアピールされればなんとなく分かる。

 奴には感謝はしているが、それとこれとは別だ。

 まぁあまりにもしつこいようならブッ飛ばせばいいか。


 そんな雇われ料理長の日々を過ごすオレに、珍客が訪れた。

 それも二人もだ。


 一人は『変人』フォラス。

 こんな辺境に居ても噂が流れてくるほどの『変人』だ。

 チラッと聞いたら、自分の名前を騙るヤツを捕まえるため、よく知られたフォラスではなくエジンソンと名乗ってるらしい。


 宿帳にはフォーラス・アルバート・エジンソンとある。

 偽名かと思ったら、本名だそうだ。

 フォーラスがいつしかフォラスになったらしい。


 そしてもう一人が『魔王』シャーロットだ。

 ただアイツはしばらく前に魔王を引退し、それ以降ぱったり噂を聞かなくなった。

 そのせいか死亡説すら流れたほどだが、どうやらガセネタだったみたいだ。


 むしろあの頃の彼女を思い出させるほどだ。

 思わず「シャーロット」と、あの頃の呼び名で呼んでしまった位、当時と瓜二つである。

 もしかして魔王になると年を取らないのだろうか?

 最近肌にハリが無くなり、年齢を感じるようになったせいか、そんな事を思ってしまう。

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