第388話 セルジュさんへの頼み事
セルジュさんに制服を勧め俺はフロントを後にし……ちゃまずいだろ。
制服の事に夢中になって、結局起動キーを預けてないからな。
ここまで来た本来の目的を果たさなければ、部屋に戻れない。
「セルジュさん、このカギをエジンソンという人物に渡してもらいたいのですけど、お願いしてもいいですか? 多分この宿に泊まってるはずです」
「エジンソン様? 確かにご宿泊されていますが……事情を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
あれ? ここは「畏まりました」とアッサリ預かってくれるかと思ってたけど、逆に警戒されてる?
って、それもそうか。
同じ宿に泊まっているとはいえ、俺とエジンソンは赤の他人だ。
どこの誰とも分からない俺という不審人物からは、おいそれと荷物を預かる訳にはいかないのだろう。
となれば俺もセルジュさんを見習うとしよう。
俺は懐に仕舞っていたギルド証を取り出し、改めて挨拶する。
「えーと……マウルー所属の冒険者、ショータです」
「ショータ様。確かに……それで、エジンソン様とのご関係は?」
「エジンソンさんとは今日会ったばかりなんですけど――」
エジンソンとの出会いとカギを渡された経緯をセルジュさんに説明する。
とはいえデ〇リアンの話は出来ないので、かなり大雑把にはなったがなんとかセルジュさんに納得してもらった。
ギルド証の提示もその一助になったと思う。
アレを見せてから、セルジュさんの不審人物を見る目も少しは軟化した気がするし。
「なるほど……そのような経緯でカギを……確かにあの方ならやりそうですね」
エジンソンの奇行はセルジュさんも納得のようだ。
もしかしなくても彼は誰にでもあんな感じなのだろう。
「じゃあよろしくお願いします」
「かしこまりました。言伝も必ずお伝えします」
ともあれ、カギを預かって貰う事は出来た。
俺のタイムマシン理論がデタラメだって事も伝えて貰うよう頼んだ。
後はこのままエジンソンとは会わずにこの宿を去るだけである。
ようやく肩の荷が下りたと晴れ晴れした気持ちでいると、ちょうど上階からシャーロット達が降りて来た。
「もう食事の時間か」
「あぁ。早くしないと食べ損なうぞ」
「あの宿じゃないんだから、そんな事はないだろ」
この宿はちゃんと食事が用意されている。
というか、初めて泊ったあの宿がおかしいのだ。
コスト削減するとしても食事ぐらいちゃんとしろよ、と思う。
食堂に向かうと、俺達のテーブルがちゃんとセッティングされていた。
一瞬、エジンソンも食事に来るかと懸念したが、彼の姿は無かった。
たぶんだが、例のデタラメタイムマシン理論に没頭してるのだろう。
まぁもし来たとしても、すぐ逃げるか隠れればいいか。
エジンソンの姿がない事に安心し、席に着く。
丸テーブルにお皿とカトラリーが置かれ、更にはテーブルクロスまで掛けられている。
ここまでサービスが整っていると、もやは宿ではなくホテルと言っていい気がする。
宿とホテルの違いが分からんけどな。
ただ、出て来た食事は正直微妙だった。
いやもちろん美味しいことは美味しいのだ。
何の肉だかは分からないが、程よい焼き加減だし、掛かっているソースも肉の味にマッチしていた。
だがガロンさんのものと比べてしまうと、ほんの少しだけ物足りなさを感じてしまう。
やはりガロンさんの料理が一番なのかね。
と思ってたら、隣にいたアレク君がテーブル下ごしに何やら手渡して来た。
(ショータさん……これを……)
(これは……?)
(この前の塩です。物足りないようでしたら使ってみてください)
塩の平原産の塩のようだ。
どうやら足りないのはこのホテルのシェフの腕ではなく、調味料だったらしい。
きっとシェフが丹精込めて作った料理なのだろうが、できるなら美味しく頂きたい。
ありがたく使わせてもらおう。
(ショータさん。あたしにも)
(あぁ)
隣のシュリにも塩を回してやると、そのまま順繰りに回されていく塩の小瓶。
どうやら全員、物足りなかった様だ。
いや、シャーロットだけはそのまま食べてたな。
魔王国出身の彼女にとって、この味が丁度良かったって事かね。
そうだ、飛空艇の倉庫には山ほど塩は残っている訳だし、このホテルに売るのはどうだろう?
ガロンさんも認めた塩なら、きっとこのホテルも買い取ってくれるのではないか?
というか買い取って貰って、あの倉庫を空けたい。
なるべく見ないようにしているが、やはり一トンは取り過ぎな気がしてきてるのだ。
かといってガロンさんに売りつけようにも、一トンともなると引き取ってはもらえない。
保管場所や買取金額もそうだが、屋台ではそんな大量に使わない。
宿の方も俺達ぐらいしか客はいないし、その俺達もしょっちゅう外泊するため、消費量はさほど多くないようだ。
この前渡した分なら、二週間ぐらいは持つんじゃないかな。
そう考えれば百キロ、いや二百キロぐらいは卸してもいい気もする。
なんなら全部売ったっていい。
無くなったら無くなったで、また取りに行けばいいだけだし。
食事が終わったらセルジュさんに相談してみよう。
「塩……ですか」
「はい、これなんですけど」
食事のあと、シャーロットやアレク君と相談した結果、塩を売ってみることにした。
やはり二人もあの量は取り過ぎだと思ってたようだ。
腐らないとはいえ、売れるなら売った方がいいと推奨された。
この町にも塩問屋はあるだろうし、そもそも断られる可能性もあるが、ダメ元である。
まぁ二人も賛同してくれた訳だし、勝算はあるのだろう。
「失礼……」
そういってセルジュさんは味見用に渡された塩を舐める。
そうだよな。普通味見ぐらいするよな。
勘というかスキルの反応だけで買い取ることを決めたガロンさんの方が異常なんだよな。
「うーん……言われてみれば違うと思いますが……」
「ダメ……ですかね?」
「私には判断がつきません」
「そうですか……」
ダメ元で交渉してみたけど、ダメだったらしい。
まぁそんなこともあるさな。
「……ので、料理長に判断してもらいましょう」
おっと、希望はまだ残ってたようだ。




