第381話 緊急救命球
投稿開始、一周年!!
「話はそれだけなのか? 必要ならマウルーで降ろすことも出来るぞ?」
シャーロットに付き合うのは俺とシュリ辺りが居れば十分だろう。
わざわざクレア達三人まで付いてくる必要は無い筈だ。
三人を降ろすぐらいの時間は取れるだろうし、一応聞くだけ聞いてみる。
「別にいいわよ。アタシ達もそのタナムって所に行ってみたいし、それにアタシ達だけ戻っても色々と変に思われるでしょ?」
戻る時間の矛盾はシャーロットにも指摘されていたが、三人だけが戻っても「なんで三人だけ?」と不自然に思われるか。
不自然どころか、下手をすれば俺達を見捨てて来たとか、変な勘繰りされそうだ。
だったら一緒に行った方がいいだろう。
彼女達もウルザラ村かマウルーしか知らないらしいし、行ったことのない町、それも外国のとなれば行ってみたくなるのだろう。
しかも疲れる徒歩や金のかかる馬車ではなく、交通費タダの飛空艇でだ。
こんな機会、逃すはずない。
その辺はショータサマサマよね。
そんな事をクレアと話していると、飛空艇が上昇し始めた。
地図で確認するとマウルーは既に通り過ぎ、魔の山に入ったようだ。
一応これまでは飛竜の襲撃を警戒し低空で飛んでいたのだが、さすがに山越えともなれば高度を上げなくてはならない。
新幹線並みの速度だったせいか、座っているシートに体が押し付けられるようなGを感じた。
とはいえ船視点でも山が迫って来てるのは分かってたし、地図でもそろそろだなと確認できていた。
なので俺に問題は無かったのだが、クレアの方はそうはいかなかったようだ。
彼女にとってみれば不意打ちに近い形で、飛空艇が上昇した訳だ。
飛空艇は当然船首を前にして進んでいる。
で、飛空艇の場合、上昇するには船首を上げる必要がある。
突っ立っていた彼女は、その結果バランスを崩す。
丁度俺の正面、操舵輪に寄り掛かるように立っていたのもマズかった。
バランスを崩したクレアは、俺に飛びこむように倒れ込み丁度俺の――
――ヒザと正面衝突した。
キャプテンシートに座っていた俺のヒザに、クレアの顔面が飛び込んできた形だ。
幸い、鼻血ブーにはならなかったが大分痛そうだ。
ゴロゴロとのたうち回る彼女に俺は何が出来ようか。
黙って見守る事しか出来ない俺は無力だ。
「黙って見てないで『治癒』の魔法ぐらい掛けなさいよ!」
「あ、そうだった」
せっかく覚えた便利魔法だ。
こんな時こそ使うべきだろう。
「『癒……』」
ってちょっと待て。俺のMP、まだろくすっぽ回復してないんじゃないのか?
そんな状態で魔法なんか使って、MP切れにならないか?
シャーロットの話じゃ、MP切れのペナルティは自身の昏倒らしい。
召喚中に昏倒した場合、飛空艇ごと消えたりしないよな?
眠っていても消えないのはこれまでの実績で分かっている。
だが、睡眠と昏倒では違う気もする。
うっかり使って昏倒、さらに飛空艇消失では中にいる奴らを危険にさらすことになる。
ステータスを確認すると、残りMPは12。
ふぅ、どうやら杞憂だったようだ。
よくよく考えたら、MPがすっからかんだったのは朝のことだった。
あれから数時間は過ぎているおかげか、多少は回復していたようだ。
これならクレアに『治癒』の魔法をかけても大丈夫だろう。
「すまん、待たせたな。『癒せ』ってあれ?」
「もうとっくに自分で治したわよ!」
「そ、そうか……」
俺が残りMPに悩んでいる間に、自力で治したらしい。
それでも誤解がないよう、MPがなかったことを伝えておく。
MPあるくせに傍観していたと思われ、後で恨まれるのは勘弁だからな。
「まぁそういう事情ならいいわよ。飛空艇が消えたら困るのはアタシ達も一緒だし」
「そう言ってもらえると助かる」
「でも飛空艇が消えたとしても、例の球があるから大丈夫じゃないの?」
「例の球?」
「ほら、シュリさんが全裸で降りてきたアレよ」
「あぁ、『|緊急救命球《エマージェンシーボール』の事か」
たしかにアレなら安全に地上に降りることができるだろう。
懸念事項だった全裸落下は、シュリに掛かってた封印魔法のせいらしいし。
普通に落ちる分には、身に着けた物ごと落ちるみたいだ。
どうでもいいが、普通に落ちるって何だろうな……落ちてる時点で普通じゃないよな。
あぁ、スカイダイビングがあるか。
あれなら普通に落ちるって表現になる……のか?
まぁいいや。
スカイダイビングなんてする予定なんてないしな。
言っとくがフラグじゃないからな?
だいたいパラシュートもないような世界じゃ、スカイダイビングなんて無理。
地面に叩き付けられてご臨終の未来しかない。
いくら魔法がある世界だろうと、ソレでなんでも出来る訳じゃないのはシャーロットが飛竜から逃げたことでも分かる。
もっとも飛竜を倒すことと、空から安全に降りてくるのはだいぶ違うだろうけどな。
って緊急救命球こそ、空から安全に降りてくる機能だった。
つまりスカイダイビングは可能なのか……いや、しないけど。
毎日投稿は結構大変でしたが、ようやく一年経ちました。
ショータたちの物語はまだまだ続くと思いますので、よろしくお付き合いください。




