第369話 メンテナンス中
『ただいまメンテナンス中です
終了までお待ちください
終了予定まで 23:56:04』
思わずウィンドウを二度見したけど、終了予定がカウントダウンされてるだけだった。
つまりこれがゼロになるまで、飛空艇本体はもちろん、バックドア機能も使えないって事らしい。
時間を見る限り、メンテナンスには丸一日掛かるようだが、これが長いか短いかは少々意見が割れるだろう。
先程確認した船の損傷状況に加え、船に使われている材料を考えれば「たった一日」で済むのか、と驚くべきだろう。
だがこれまで散々飛空艇の住環境に慣れてしまった俺にとって「たった一日」でも使えないという状況は長く感じる。
「ショータ。バックドアが現れない様だが、何かあったのか?」
「あぁ、その事で相談がある」
シャーロット達にも事情を説明する。
バックドアが使えない事で一番困るのは、安全な寝床の確保だろう。
次点で風呂あたりか?
まぁ風呂人な俺とはいえ、一日入らない程度なら我慢は出来る。
スーパー風呂人3なシャーロットにとっては死活問題だろうけどな。
それよりも安全な寝床が確保できない方が問題だろう。
これまでは飛空艇(バックドアを含む)か宿といった安全な場所でしか寝た事がない。
見張りで夜明かしはしたが、あの時はずっと起きていたからな。
この森は比較的安全らしいが、それでも脅威がない訳ではない。
そんな森の中で野営をしなくてはならないという。
どう考えても、バックドア無しでは安眠を確保することは出来ないだろう。
いや、いっそ野営しないで村に戻った方がいいのではないか?
森での一泊に同意したのは、バックドアが使える前提だからこそだ。
その前提が、メンテ中というアクシデントによって崩れた以上、村を目指すべきだろう。
「その『めんて中』とやらによって飛空艇の機能が使えないのは分かったが、それだけでは野営を取りやめたりはしないぞ」
「なんでだよ。安全な寝床が確保できないなら、安全な場所まで移動するべきだろ?」
「この場所が危険な場所ならば、な。ハイドレイクもメタルイーターもいなくなった以上、この森に危険はないと判断できる」
「危険はないって……」
森の奥には大型の肉食獣もいるんだろ?
ソイツ等がこの水場を使っていないと、どうやって断言する気だ?
あぁ、襲って来たら返り討ちにするのね。
そうですね。お前のジツリキなら十分可能ですね。
俺だったら、丸かじりされて『スタッフが美味しく頂きました』されそうだけど。
「それにこの程度の野営ぐらい普通にこなせないと、この先やっていけないぞ?」
「この先?」
「あぁ、例えば護衛任務だって、そのうち依頼として受けることもあるだろう。その時もお前はバックドアを使うつもりか?」
「それは……」
シャーロットの言う事は正しい。
依頼を貼り出した掲示板には、数日かかるような護衛依頼もあった。
もしそういった依頼を受けた場合、バックドアを使う事は出来ないだろう。
そうなれば当然、普通の野営で夜を越すことになる。
その時に備えよ、と言いたいのだ。
だがな……世の中、正論ばかりでは成り立たない。
問題を先送りにする。それもまた人の姿なのだ。
って事で、何とかなりませんか? ダンデれもん様。
『MP1を消費し「メンテナンス時間短縮(十分)」を使用しますか? MP25/55』
……?
なんか思ってたのと違うのが出たな。
まぁ消費MPも1だし、試しに使ってみるか。
……メンテ時間が十分短縮されただけだったのは予想通り。
繰り返し使えるのも、お湯張りや望遠鏡と同様。
要はMPを使えばメンテ時間を短くできる、そのまんまな機能のようだ。
どちらかというとメンテ中でもバックドアが使えるような機能が出てこないかと期待したんだが、実際出て来たのはメンテ時間の短縮の方だった。
メンテ中は完全に立ち入り禁止になるって事かね。
メンテ中に入れないのは残念だが、短縮できるだけでもマシなのだろう。
しかもMP1で十分間の短縮ってのは、コスパ的にはいい方なのだろう。
もし仮に、一般的な飛空艇がアレ程の損傷の修復を、しかもニ十四時間以内に行おうとすれば、どれほどの費用と人員が必要なのか、俺には想像もつかない。
それをたったの十分とはいえ、更に短縮させようというのだ。
いうなれば工期の迫った工事に対し、札束で頬を叩いて職人を動かすようなモノだろう。
もしくはよくあるスタミナ制のスマホゲーで、課金してスタミナを回復するような物か。
その札束や課金部分が、勝手に回復する俺のMP、それもMP消費も1で済むのなら安いものだ。
……俺のMPが潤沢にあればの話だがな!
残存MPが25程度では、四時間しか短縮できない。
MPが満タンだったとしても九時間である。
既に夕暮れは差し迫っており、今から十五~二十時間後にバックドアが使用可能になったとしても、なんの役にも立たない。
安全な寝床が必要なのは、いつなのか? 今でしょ!
……スマン、何となくやってみたかっただけだ。
とにかく、どんなにコスパが良かろうと、今すぐ使えなければ意味は無い。
かといって村に戻る案も却下された。
周りを見れば、アレク君達はもちろん、シュリまでテキパキとテントの設営を始めている。
どうやら外堀は完全に埋め立てられたようである。
観念した俺は、テント用のロープが絡まり、身動きが取れないでもがくシュリを助けに向かうのだった。




