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第364話 ハマル

「ごめんなさい。ボクがもっと早くに言っておけば」

「いや、そもそもコイツが変な風に扉にハマらなければ良かっただけだし、気にしないでくれ」


 アレク君は申し訳なさそうにしているが、彼が悪いわけでは無いのだ。

 俺が言ったように、白トカゲのヤツが挟まらなければこんな騒ぎにはならなかった。

 それに、よくよく扉周りを見てみれば、ちゃんとスライドしそうな感じで壁周りにはレールがあったし、ストッパーだって下の方ではあったが、ソコソコ分かり易い場所にあったのだ。

 単純に言えば、気付かない方が悪いってことだ。


「でも、これでハマルも安心してシャワールームに行けるッスね」

「……もしかして、そのハマルってのはソイツの名前なのか?」

「そうっスよ。落とし穴にもハマるし、扉にもハマったっスからね。ハマル、いい名前っス」

「そ、そうか……?」


 それって本人にしてみれば黒歴史じゃね? 思うのは俺だけか?

 名付けられた本人は、その名の意味を理解していないのか、特に気にしている様子もない。

 さらにいえばシャーロット達も、それは変だと言い出さない。

 もしかして俺の方がおかしいのだろうか?


 まぁ何となくモヤモヤするってだけなので、特に気にしない事にする。

 代案が出せないなら議論にならないし、代わりの名前もタマゴノキだからタマコと名付けた俺では推して知るべしだろう。

 とりあえず分かったのは、シュリも俺と似たり寄ったりのネーミングセンスってことだな。


「えーと、そのハマルが今回の調査対象だったってことでいいのか? それなら後は村長に報告して終了なんだが……」

「そうね……それでいい筈よ」

「なんか歯切れが悪いな」

「なんていうのかしらね……どうもシックリこないのよ」

「ふむ……そういった違和感は、時として命を救う事もある。話してみろ」


 最後の台詞はシャーロットのものだ。

 俺とクレアの会話の中に彼女が割り込んできたのだ。


「えーっと……あ、分かったわ! じゃない、分かりました。身体の大きさです! ハイドレイクの身体の大きさに対して、森に出来た獣道はもっと大きかった気がするわ」

「身体の大きさ?」


 ハマルの体長はおよそ五メートル。これは頭から尻尾までの長さの事だ。

 あれ? 尻尾まで含めるのは全長だっけ?

 まぁとにかく、頭から尻尾まで五メートルほどある大きなトカゲだ。


 それに対し、足の裏から背中までの高さ、すなわち体高は見上げる程は無く、せいぜい二メートルもないだろう。

 

 一方、森にあった獣道は俺達が普通に歩ける程度には枝が折られていた。

 俺より背の高いベルでも、支障なく歩けていたのだ。

 となると、そこを通ったヤツはそれ位の体格だったことになる。


 クレアの指摘の通り、これでは少々辻褄が合わない。

 念のためとシャーロット経由でハマルに確認を取ったが、先程までのサイズが素の状態、つまり最大らしい。

 サイズダウンのスキルは小さくはなれるが、元の大きさよりも大きくなる訳では無い。


 となると一番可能性が高いのは……


「他に、あの獣道を作ったヤツがいるって事か?」

「それは分からないわ。高い位置で枝が折れていたってだけで、他に怪しい足跡があった訳でもないし」

「怪しい足跡……怪しくない足跡はあったって事か?」

「はい。そのハマルの足跡以外にも、何頭か通ったようです」


 俺の疑問には、アレク君が答えてくれた。

 どうやら俺が気付かなかっただけで、あの獣道には結構な足跡が残されていたらしい。


「でも、その足跡は森でよく見かけるものなんだよな?」

「そうですね。ミニボアや一角鹿だけでした。森の奥には大型の肉食獣がいますが、その足跡では無かったです」


 あの獣道にあった足跡は、ハイドレイクのもの以外は元々森に棲んでいる生物のもの。

 ただしソイツ等の体格では折れた枝の説明がつかない。

 枝を折った犯人に該当しそうな大型肉食獣は、足跡自体がないので除外していい。

 となると、あの獣道を作ったのは一体何者なのか?


 ……うーん、さっぱり分からん。

 ミニボアや一角鹿が、突然変異で大きくなったのか?

 チラッとシャーロットを確認するが、彼女も考え込んでいるだけで明確な答えは出ていない様だ。


「ま、まぁただの気のせいってだけかもしれないっス。もうちょっと楽観的にいくっスよ」

「お前なぁ……俺達が間違った報告して、この村に何かあったらどうするんだ?」


 この場にはウルザラ村出身の三人もいる。

 その三人を前に無責任な言動は慎むべきだろう。


「で、でもあたし達の目的は畑を荒らした犯人の正体であって、獣道を作った犯人を捜すことでは無い筈っスよ。だったらこれで終了でいいんじゃないっスか?」

「そう言われればそうなんだが……」


 モヤモヤが残るのは何か気持ち悪いのだ。

 推理小説で犯人とそのトリックが解説されたんだけど、そのトリックには何となく穴があるような。

 そんなモヤモヤ感があるのだ。


「ショータ。先程クレアにも言ったが、そういった違和感は時として命を救う時もあるのだ。気になるならキチンと調べた方がいい」

「……そうだな。済まないがもう少し付き合ってくれ」

「あ、いや。あたしも選択肢の一つとして帰還を提案しただけっスから。それに村に何かあったらトマトが手に入ら無くなるっスからね。シッカリ調査するっス」


 そうだな。

 トマトの為にも獣道を作った犯人の正体を探ろう。

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