第36話 猫耳
さて、シャーロットは何とか撃退できた。これでゆっくり服を探せるな。と思ったら店員がニヤニヤしながら近づいてきた。
「やぁお兄さん。にゃかにゃかいいものを見させてもらったにゃ」
この ―キャラ付けの為かあざとい口調の― 店員は猫族の獣人だ。ただしオス。
ムサイおっさんじゃないだけマシだが、それでも男の頭にネコミミが生えてるなんて誰得だよ。異世界に来て初めて出会った獣人がコイツだったから、なかったことにしようとしたんだった。
「くくく…、『貴女の為ならばきっと手に入れて見せましょう!』キラーンだって、キラーンはないにゃ~」
コイツしっかり見てやがったな。まだ笑ってやがる。そのネコミミと尻尾を引き抜いてやろうか。
「にゃんか嫌にゃ予感を感じたにゃ!危険が危ないにゃ!」
急にジト目で睨みだした。おっと殺気が漏れてたようだ。
「スマンスマン、ちょっと、そのネコミミと尻尾を引き抜いてやろうかと思ってただけだ」
「ギニャー、ここに殺猫鬼がいるにゃ~。にゃにも買わにゃいなら、さっさとでていくにゃ~」
「服を買いに来たんだにゃ~、さっさと見せるんだにゃ~」
いかん、口調がうつってしまった。
「わかったにゃ~、こっちにゃ~。この辺のが安くて、お兄さんにもおススメにゃ~」
どうやら懐具合はバレバレのようだ。まぁ安く済むなら、それに越したことはない。何着かある古着から、着られそうなものを探す。
うーん、丁度良さそうなのがないな。こんな派手なピンク色のシャツなんか、どっかの夫婦以外着ないだろ。服は着られればいい派の俺でも、この色はないな。ないない。
お、これなんか良さそう。サイズもぴったりだし、手触りもいい。色合いはちょっと緑っぽい。要するに今着てる奴(薄茶色)の色違いだな。流行ってるのか?コレ。
あとはズボンと下着だ。ズボンはすぐに見つかった。色は黒。厚手で丈夫そうだ。下着はトランクスっぽいのがあった。縦じまのガラパンなのが気に入らないが、これしかなかったから、仕方ない。つかどうやって染めたんだ?
「えーっと、シャツが銀貨1枚と大銅貨6枚で、ズボンが銀貨1枚と大銅貨8枚、下着が大銅貨9枚だから……う~、よくわかんにゃいから銀貨4枚でいいにゃ!」
随分などんぶり勘定だけど、いいのかよ…。本当は銀貨4枚と大銅貨3枚なんだけど…。申し訳ない気持ちになり、正しい金額を告げようとしたが、店員のネコミミが目に入り、まっいいやと黙っておくことにした。
「はいよ、銀貨4枚」
「あ、ズボンが銀貨1枚と大銅貨3枚の間違いだったにゃ!でも面倒だから銀貨4枚のままでいいにゃ!」
なっ。呆気に取られてるスキに、銀貨が素早く奪われる。
「おい、流石に大銅貨5枚も違うのに銀貨4枚のままってのはおかしくないか?」
「にゃ~、よくわかんにゃいにゃ!」
と、テヘペロのポーズ。誰が伝えやがった!ネコミミヤロウのテヘペロなんて誰も求めちゃいねぇよ!
「ないぃぃ!?」
「じゃ、じゃあコレもあげるにゃ。さっきの娘が落としてったヤツにゃ!」
おいぃぃ!?他人の落とし物を勝手に別の奴に渡すなよ!
「うちは買取もしてるにゃ!あの娘が置いてった、コレをミャーが買い取って、それをお兄さんに売っただけにゃ!ミャーは悪くにゃいにゃ!」
「ぐ、妙な理論武装を。だが買取同意契約がされてない以上、ソレは彼女のものだ!」
「にゃ?カイトリドーイってなんにゃ?」
「この品物を売りますよって確認のことだ!」
「知らにゃいにゃ!売りますにゃ。買いますにゃ。それだけで十分だにゃ!買取してる店に来て、品物を置いてった。十分売る意思はあったはずにゃ!」
ぐぬぬ。どうやら口約束だけで売り買いが成立するようだ。俺の塩もそうだったな。こんな奴に口喧嘩で負けるのも悔しいが、そういうルールなら仕方ない。ここは俺が折れよう。駄洒落じゃないよ。
それに石鹸を渡すときに会うんだ。その時に渡せばいい。『お嬢さん、コレ落としましたよ』『まぁなんて親切な人、ポッ』うん、そうだ、そうしよう。
「毎度ありにゃ~」




