第353話 ミネストローネ
「ま、まぁタダの予想だろ? あれはきっと、太陽石とやらによく似てるだけの別モンだろ」
「そ、そうっスね。あんなサイズの太陽石なんかある訳が無いっス」
シュリの予想が本当だとしたら、飛空艇どころの騒ぎじゃなくなる。
二人してこの件は気付かなかった事にした。
「で、お前の好奇心は満足できたのか?」
「えーっと、そうっスね。満足したっス」
「そうか。一応ここは立ち入り禁止にしてる区域だし、満足したなら、もう入らないようにな」
「勿論っス。もう誰にも触らせないっス」
シュリには立ち入り禁止の区画に入った罰として、彼女のロケットさんを揉んだと説明したせいか、船内ルールを破ったら、俺に揉まれると思われたようだ。
誤解を解こうかとも思ったが、よくよく考えたらその通りなので、甘んじてその誤解を受け入れる俺。
セクハラ野郎と罵りたければ罵るがいい。
だが、その程度で俺のスライムさんへの欲求は止まらないのだよ。
「ショータさん……なんか変な顔してるっスよ? 悪いもんでも食ったっスか?」
「まだ朝食すら食ってねぇよ……」
「そういや、まだ朝飯前だったっスね」
「その前に朝練があるらしいぞ」
「御飯食べてっからじゃダメっスかね? お腹空いたッスよ」
「その辺はシャーロットと相談するんだな」
「うぅ……聞いてくれるっスかね」
「俺よりはマシだろ……多分」
俺が提案したんじゃアイツはきっと却下する。
でもシュリだったら、ウッカリ封印してしまった負い目もあるし、通るんじゃないかな。
「今日の朝練は無しにしようと思う」
「あ、はい。じゃあ朝食の準備をしますね」
「あぁ、頼む」
シュリが提案する前に、シャーロットの方から朝練無しと告げられた。
なんでも今日は森に入るので、ここで体力を消耗する必要は無い、とのことだ。
たしかに森の中を歩くのは、キチンと舗装された道に比べてずっと疲れる。
しかも例のモンスターを追うとなれば予想以上にしんどいだろう。
「今朝のメニューはトマトスープにしてみました」
「野菜に味が染みてて美味いっス」
「このパンもニンニクが効いてて美味しいな」
「焼きたてのパンを更に焼くなんて、冒涜もいいとこだと思ったけど結構いけるわね」
昨日の内から仕込んでいたらしいトマトスープには、交換で手に入れた野菜がたっぷり入っていた。
コッコゥの肉も少しだが入ってるし、トマトスープというかミネストローネだな。
スープに加え、今朝は飛空艇から手に入れた小麦粉を使って、パンまで焼いてあった。
備え付けの石窯で焼いたというパンは、焼きたてのいい香りがしている。
それだけでも美味しそうなのに、更に一工夫してもらった。
アレク君がバゲットみたいなパンを焼いていたので、スライスして軽く焼き目をつけて貰った。
出来ればこれにガーリックバターを塗りたかったけど、ニンニクをこすりつけるだけでも結構違った。
「パンは何度か焼いていましたが、トーストと言いましたっけ? 更に焼いて食べる発想は無かったです」
「迷い人も居ただろうに、なんで無かったんだろうな」
この世界のパンの食べ方は、そのまま食べるかスープに漬けて食べるだけだ。
トーストという発想すらなかった。
基本的に硬いパンが主なせいか、焼いてさらに硬くしたいとは思わなかったのかね。
あるいは、これも例の迷い人の怨念のせいなのか?
「そのうちフレンチトーストもやってみたいな」
「あー、おいしそうっすねぇ」
「卵はあるから、あとは牛乳だけだな」
「また何か美味しそうな話をしているわね」
「このトーストの発展形の話だよ」
「牛乳ですか……まぁマウルーに戻ったら手に入れてみます」
バターがあるんだから牛乳は存在している。
アレク君に心当たりは無い様だが、ガロンさんに聞けばきっと手に入る筈だ。
牛乳が手に入るようになれば、料理の幅はさらに広がるだろう。
それに卵と牛乳があればプリンが出来る、とシュリは言っている。
卵を溶いたのを蒸せばいいだけだと思っていたのだが、違ってたらしい。
「それじゃ出汁抜きの茶碗蒸しっスよ」と言われてショックだった。
「あたしも碌に料理したことないっスけど、プリンの作り方ぐらいは覚えてるっスよ」
「おぉ、俺なんてプッチ〇プリンで十分なヤツだったから、作り方が分かるなら助かる」
「あれって正しくはゼリーっスよ……」
「マジか……」
18/01/16
スラムさん→スライムさん




