第341話 紅の瞳
あの映画の最後の台詞。
確かに名前は、より名はの方がタイトルにあってるよな。
(初めてあの映画を見た人の感想)
トマトケチャップへと至る道の第一歩、トマトジュースは完成した。
だが、問題はこれからだ。
「で、だ。シュリはトマトケチャップの作り方って知ってるか?」
「あたしっスか?」
「ケチャップのレシピが残っていない以上、知ってそうなのは俺かお前ぐらいだろ?」
「確かにそうかもしれないっスけど……」
「で、知ってるのか?」
「知ってたら、とっくに言ってるっスよ……」
「だよなぁ……」
頼みの綱のシュリも俺と大して変わらないようだ。
完全なノーヒントとなった今、頼りになるのはただ一人。
「じゃあ、あとはアレク君に任せよう!」
「そうっスね!」
「えぇ! ボクですか?!」
はっはっはっ。
このメンツの中で正解を導けるとしたら、アレク君ぐらいしかいないからな。
なに、味見とアシスタントぐらいはやるから。な? 後はキミだけが頼りなんだよ。
「むー……分かりました。ボクとしても新しいソースには興味ありますし、やってみます」
「おー、任せたぞ!」
「味見なら任せとくっス」
「私も協力してやろう」
「………」
「アタシだけ仲間外れはイヤよ!」
味見と聞いてシャーロットとベルが参戦を表明してきたが、正直戦力になるかは怪しい。
二人共食べるのは達者だが、どれも美味い美味いとしか言わないからなぁ……あ、ベルは言ってないか。
更に戦力にならなそうなクレアまで来られても、過剰戦力どころか頭数にしかならないだろう。
「とりあえず、今の状態からどうしたらいいですかね?」
「うーん……まずはもっとドロッとしてた筈だな」
「そうっスね。あとはもう少し甘みがあった気がするッス」
「ドロッと、と甘みですか……」
正直、トマトケチャップ単体の味すら怪しい俺である。
だが俺にも記憶力というのは存在している。
今こそ、その記憶を呼び覚ます時!!
唸れ! 我が記憶力!!
だめだ……俺、ケチャップそんなに使わない派だった。
イヤイヤ、諦めたらそこで試合終了だ。
それでも少しは使っていたんだ。
その時の記憶よ! 甦れ!
……違う、アメリカンドッグの甘い衣は関係ない。
フランクフルトってコッチにもあるのかなぁ……ってそうじゃない!
大事なのは、そこにかかってた赤いブツだ。
茹でたてのソーセージも美味しかったよなぁ……だから!!
かかってたブツの味はこの際忘れよう。
コッチでも見つかればいいが、見つからなかった時が最悪だし。
それよりも肝心のトマトケチャップの味だ。
よし! ソーセージの記憶と共に、朧気ながらも少しは思い出して来た。
あの味は……
「そうだ! 香辛料だ! 香辛料の味がした!!」
「香辛料……ですか……」
「あとは……玉ねぎ! たぶん、あの甘みは玉ねぎな気がする!」
「玉ねぎはありますけど、香辛料は……黒胡椒と……ボクが持ってるのが少しだけです」
アレク君が手持ちの香辛料やハーブ類を見せてくれた。
うーん……確かに試すには心許ないな……まぁ最悪、この場で出来なくてもいいか。
むしろ一発で完成する方がおかしいんだしな。
あのガロンさんだって、とんかつソースを作るのに試行錯誤を繰り返してたんだし。
それでも始めることが肝心だ。
やらないよりはやった方がいい。
失敗は成功の母って言うしな。
「とりあえず、トマトジュースは煮詰めてみます」
「そうだな。あとは一杯あるんだし、幾つかに分けて、それぞれに香辛料を混ぜてみるのがイイか」
「あぁ確かにその方が良さそうですね」
トマトジュースだけなら大量にあるんだしな。
だからといって試飲していい道理はないのだが……
「シャーロット……あとベルもか……二人共、試食係と言い張るなら、加工前のトマトジュースを飲むのは止めような」
「こ、これはだな……そ、そう、変化する前の味を確かめているのだ」
「……」
それは一理あるかもしれんが、その為にコップ一杯用意するのは、いくら何でも違うだろう。
「アレク君……どうやら試作はアイツ等が飲み干す前に終わらせる必要があるようだ」
「みたいですね……」
幸いというかなんというか、ベルが率先してトマトをミキサーにかけているので、ジュース自体は減ってはいない。
その代わりにトマトの山が切り崩されていくだけだ。
「あたしもあっちに参加したいっス」
「ダメだ。お前まで参加したら、トマトがすぐ無くなる」
「むぅ~」
確実に戦力外となったシャーロットとベルは放置だ。
もうアイツ等には完成したとしても食わせてやらん。
「ショータさん、こんな感じでどうでしょう?」
「もうちょっとドロッとしてたよな?」
「うーん、そうっスねぇ」
「そうですか……いや、あとはスパイスを混ぜ合わせた後、煮詰めてみます」
「その辺は任せる。俺もシュリも完成形を知ってるだけだし」
「当てにならなくて申し訳ないっス」
シュリ……当てにならないってのは、そこの飲んだくれの事を言うんだぞ。
あのヤロウ、トマトジュースだけでは飽き足らず、ビールとブレンドまで始めてるし。
「うむ。この赤い感じ。そうだな……レッドアイとでも名付けよう!」
ついでにどうでもいい呟き。
ソフト〇ンクの正月CM(犬がスキージャンプするヤツ)
あれって、その場のノリでルールを無視しますって事じゃね?




