第336話 調査開始
たぶん、ここが例の姿が見えないモンスターが現れた畑だろう。
何かを掘り返されたような畑。
小さい芋が残っている所をみると、ジャガイモ畑か。
荒らされたままで残っているのは、再度現れるのを警戒しているかららしい。
たしかに折角畑を直しても、即荒らされたんじゃやってられないよな。
そして森に目を向けると、そこだけぽっかりと口を開けたような感じになっている。
ここからソイツは現れ、そして去っていったのだろうか。
「……マズいです。父さんが言ってた通り、大型のモンスターで間違いない様です」
「みたいだな。知識の無い俺でも、アレを見れば想像がつく」
俺の背丈よりも高い位置の枝が折れている。
明らかに、この高さまで届く何かが通ったって事だろう。
それも足跡の感じからすると、四足歩行のが、らしい。
ワイルド・ボアやランペーロ……いやコレはクロゲワ・ギュークラスなのか?
あのサイズが姿を見せずに森の中を闊歩している姿を想像してみる……森でクマに出会ったどころじゃないな。
絶対に会いたくはないのだが、調査依頼となればこちらから出向いてでも出会う必要がある。
……帰っちゃダメかな? ダメ? たしかに依頼失敗はマズいよな。
帰りたい気持ちを抑え、荒らされた畑を一通りみたが、新しい発見は無かった。
このあと俺達が取れる選択肢は三つあるとシャーロットは言う。
一つ目はココで待ち伏せ。
一度来たなら、味をしめてもう一度来る可能性はある。
餌と罠を用意して待つのは十分な選択肢であろう。
強いて言えば、あのサイズに通用する罠の用意が手間って事か。
二つ目は別の場所での待ち伏せ。
多少の賢さがあれば、同じ場所を繰り返し荒らすことはしない。
ただし、じゃあどこで待ち伏せるか? がポイントとなる。
見当違いの場所で待っていても意味は無いからな。
三つ目は森に入り、ソイツの追跡をする。
この森では見たこともないような足跡なので、追跡自体は難しくはない。
難点としては、森の中に入る以上、姿の見えないソイツとの遭遇戦が予想されることか。
よほどの幸運が無い限り、向こうからの不意打ちによる先制攻撃だろう。
「シャーロットの魔法で探せたりしないのか?」
「探査魔法はその都度使う魔法だからな……常に使い続けるのは消耗しすぎてしまうだろう」
未知のモンスターに対する切り札であるシャーロットを、ソイツを探す為に使うのはマズいのは確かだ。
かといって、残りの俺達で姿すら見えない敵を探せるか、っていうのもちょっと厳しい。
アレク君やクレアはともかく、俺・シュリ・ベルに森の中に潜む敵を探す能力はない。
少なくとも俺には無理。
「まぁ初日だし、無理はしない方がいいか」
「それもそうだな。とりあえずココを中心に結界具でも何本か打ち込んでおくか」
「結界具?」
「なによ、わざわざこの為に用意したのに、もう忘れたの? ……これの事よ」
クレアが俺が下げていたマジックバッグを奪うと、勝手に中から大工さんが持っていそうな道具袋を取り出した。
アレは確かクレアがこの調査依頼の為にって買って来た、十本買うと付いてくる結界具を入れる専用の袋だ。
結界具ってのは魔力を込めると、しばらく魔物を寄せ付けなくなる魔道具だ。
それを使って例のモンスターを村に近づけないようにして、先ずは未知の敵で怯える村人を安心させようって事らしい。
「でも、その結界具が効かない可能性もあるんだよな?」
「否定はできないな……」
「まぁ気休めよ、気休め。この村じゃ結界具なんてものすらないんだから、ちゃんと対策をしてますって所を見せれば気は紛れるのよ」
せっかく買って来た訳だし使ってみよう、って事で手分けして杭を打ち込んでいく。
一本で大銀貨二枚もしただけあって効果範囲が結構広く、十本全部打ち込むと森に面した畑の大部分をカバーできた。
しかもサービスなのか、初めから一日分の魔力まで込められていたのは地味に助かった。
俺みたいにMPが少ないと、結界具の起動すらままならないからな。
そしてワザと作った結界具の穴になる所に、シャーロットが魔法で落とし穴を作り、その上に餌となるイモを転がしておく。
こんなミエミエの罠に引っかかるとは思えないが、やらないよりはマシと思おう。
そうやって見えない敵との戦いの準備を終えれば、時刻は丁度昼飯時となった。
というか、した。
でないと俺の腹の虫の声がうるさくて仕方なかったのだ。
塀の近くにシャーロット謹製の土壁を作ってもらい、そこにバックドアを召喚する。
更に船内風景を外部と同期させるようにすれば、外からはドアしか見えない見張り台の完成である。
展望デッキで森を眺めつつ、アレク君の用意してくれた昼食に舌鼓をうつ。
こうしていると調査依頼に来たことを忘れてしまいそうだ。
いや、むしろ忘れて帰りたい。
ダメ? ダメだった。




