第315話 魔法少女シュリ
「つまり、周りの女性が皆アレを付ければ、相対的に自分も大きい方の仲間入りになる筈だと」
「その通りだ!」
「……なんでそんな発想になったかは聞きませんが、とりあえず却下です」
「なんだと!?」
フランさんが新たに開発した胸当てには例の勇者の鎧と同様、マジックバッグが施されていた。
一瞬、あの胸当ての仕様、というか勇者の性別って実は公然の秘密だったのか? とも思ったが、そうでもなかった。
シュリにもコッソリ聞いてみたけど、
(勇者が仲間割れで殺されたなんて大スキャンダルっスからねぇ。全力で隠蔽したらしいっスよ)
(となると、勇者は女だってのはバレてないってことか)
と、いう事だった。
もっとも、彼女は昨日まで五百年も封印されてたわけだし、その後誰かがバラしてる可能性もあるので、油断はできない。
それにシャーロットの様に五百年以上生き続けている長寿の者が、当たり前のように存在する世界だ。
当時の勇者を見た事がある奴が、彼女以外に居ても不思議ではない。
あるいは姿図が残ってるかもしれん。
「という事で、お前にその装備はマズいのだ」
「そうっスか……で、本当の所は?」
「そのオッパイを隠すなんて、とんでもない! ……あっ?!」
「ふっふー、そうっスかー。ショータさんはコレがお気に入りの様っスね~」
シュリは見せつけるようにロケットさんをユサユサと揺らしてみせる。
くっ……見せつけやがって……揉んでやろうか?
「くっ……こんなモノ! こんなモノー!」
「おひょはぁ、ってフランさんが釣れてもしょうがないっスよ~」
俺の代わりにフランさんがロケットさんを揉みしだいている。
くっ……見せつけやがって……いいぞもっとやれ。
暫く揉みしだいて満足したのか、フランさんはスッキリとした顔で奥の工房へ去っていった。
何しに来たんだ? あぁナニしにきたのね。
マルクさんがお詫びにとマジックバッグ付き皮鎧を渡そうとしてくれたが、丁重にお断りし店を後にした。
代わりになんでこんなのを開発したのか聞いてみたけど、実にくだらない理由だった。
昨日の焼肉パーティーの事で、周りの女性陣がデカいのばっかだったのが原因らしい。
確かにフランさんが勝てそうなのは、あの中じゃクレアとマロンちゃん位だったからなぁ……
いや、マデリーネさんも結構なモノをお持ちだったし、ガロンさんの妹のパインさんもなかなかのものだった。
となるばマロンちゃんの将来性は約束されているようなものだ。
たぶん十年もしないうちに追い越されることは間違いない。
そんな危機感を覚えた彼女は、何をトチ狂ったのかデカい女性がデカくないようにする手段を思い付く。
それが魔法の胸当て計画だ。
ぱっと見デカいのが居なくなれば、自分が比較されることはない。
そんな妄執から、マジックバッグの技法を防具に付与することに成功したという。
むしろその執念を、自分を大きくする方に向けるべきだったんじゃないのかね。
とはいえ、妙な防具が出来てしまったのだが、量産化にはコストがかかり過ぎるだろうし、市販されることはないのだけは朗報といえる。
マルクさんに紹介してもらった、別の防具屋でシュリの装備を整える。
こちらの店は魔法使い系の装備を専門にしているらしく、いかにもなローブや杖が並べてあった。
出て来た店主も、これまたいかにもな白髪の爺さんに、シュリは大興奮だった。
「おぉ~、ダンブ〇ドア校長っすよ。あたしも魔法学校に行きたいっス」
「確かに似ているけど、声がナミ〇イじゃないから別人だろ」
「それもそうっスね」
そもそもあれは向こうの世界の映画の中の話であって、こっちの世界とは何の関係もないからな。
店主が「これはニワ卜コの杖といってですな」って、どっかで見た事のある杖を持ち出して来てたけど、関係ない筈だ……ないよね?
「そんな変な杖より、魔法少女になれるのが欲しいっス」
「魔法……少女? お主にはちーっと厳しい気もするがのう」
「そうっスか……ちょっと憧れてたけど、厳しいなら諦めるっス」
たぶん店主が厳しいって言ったのは、お前の才能じゃなくて年れ……イエナンデモナイデス。
あと変なエイリアンに、契約を迫られても了承するなよ。
それでもこの店が気に入ったのか、三角帽子にローブとしゃくれた杖を買い、恰好だけは魔女っぽくなった。
この格好で薬草を大鍋で煮込んでると、どっかのCMになりそうだ。




