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第312話 シュリの技能

「はい、ではこちらがシュリ様のギルド証になります。併せて『パレシャード』への加入もしておきました」

「おー、これであたしも立派な冒険者っスね~」


 シュリは感慨深げにギルド証を受け取る。

 勇者は国に拘束、もとい雇われてたわけだし、自由気ままな冒険者に憧れでもあったのだろうか。


 いや、自由気ままといえば聞こえはいいが、実際は何の後ろ盾もないタダの根無し草だ。

 国がバックについてる公務員(勇者)のほうがマシだと思うのは、当時の待遇を知らない俺の勝手なんだろう。


「星一の、な。俺達のパーティーに入ったから調査依頼は受けられるみたいだけど、自分が初心者だってことは自覚しておけよ?」

「分かってるっスよ~。あたしも起きたらLV1になってるとは思わなかったっス」


 そうなのだ。シュリに掛けられていた封印魔法にはLVを下げる効果があったのだ。

 五百年間、眠り続けた彼女のLVは初期状態、つまりLV1となり覚えていたスキルもすっかりなくなったらしい。


 とはいえ全く無くなった訳でもない。

 この世界に来た時に覚えていたスキルだけは残っていたのだ。

 勿論、チートスキルもだ。


 彼女はこの世界に来た時、どんな病も治せるような薬を作れるようになることを望んだらしい。

 あえて詳しくは聞かなかったが、彼女の死因は事故ではなく病死のようだ。

 だからこそ、彼女は病を根絶できるようなチートスキルを選んだらしい。


 その結果手に入れたスキルが『薬学大全』という、ありとあらゆる薬学の知識が詰め込まれたスキルだという。

 試しにと、自分用として確保していた薬草を渡してみたら、「あー機材が無いから今すぐは無理っスけど、下級のポーション位は楽勝っスよ」だそうだ。

 シャーロットが言うには、普通に加工して俺達が持っている簡易ポーション程度で、この前採った一芯二葉摘みのならギリ下級を作れるかな? ぐらいだという。


 そう聞くと大したことない気もするが、物知りシャーロットに言わせればとんでもない事らしい。

 しきりにその製法を聞き出そうとしている所を見ると、秘伝とか失伝的なものなのかね。

 そんな事より気になったのは、もっとトンデモ薬の方だ。


 薬と聞いて単純に思いつくのは不老不死に蘇生、あるいは若返り系。

 権力者なら喉から手が出る代物だってあるだろう。

 万が一彼女の能力が知られたら、一介の冒険者風情では守り切れない。


 そう思いシュリに確認してみたが、ノーコメントと言われた。

 出来るとも出来ないとも言わなかった辺りにそのヤバさが窺い知れる。

 ボソッと「出来たとしても、とんでもない材料が必要そうっスよね~」と言ってた辺りが特に。


「よくその能力が勇者だった時、国に利用されなかったな」

「その辺はうまくごまかしてたっスね~。なんか鑑定でも視ることが出来ないらしくて、効果とか自己申告だったっス」

「なるほど……」


 俺の飛空艇召喚も、シャーロットの鑑定では視ることが出来なかった。

 あの部屋で選んだスキルは他人からは視れないスキルなのかね。


 鑑定などにより、そのスキルの事を把握できなければ利用のしようがない。

 嘘発見器的な存在も懸念して、当時シュリが自己申告したスキルは『薬学』、その効果は「自分の目でみた薬の作り方が分かる」としか言わなかった。

 要は現物があれば、その作り方が分かるだけのスキルだ。


 実際、見れば製法は分かったので嘘は言っていない。

 それでも国で秘蔵していた薬の製法が分かるため、非常に重宝された。

 まぁ、例のマヨネーズ事件により、その製法も廃棄されたらしいが。


 食文化の衰退はともかく、医療の発展まで止めてしまうとは、迷い人の執念恐るべし……だな。





 さて、シュリの登録も済ませ依頼も受けた。

 早速目的地のウルザラ村へ出発! といきたいところだが、そうはいかなかった。


「そうか……馬車が手配できなかったか」

「えぇ……早くても明日からって言われたわ」


 シュリの登録をしている間、クレア達には馬車の用意を頼んでいたのだが、ギルドで借りられる分は全て出払っているという。

 この時間からでは乗合馬車もなく、出発は明日に延期するしか無い様だ。


(ねぇ……アンタの飛空艇はダメなの?)

(ダメではないけど、出来れば馬車で出発したい)


 クレア達としては村の異変な訳だし、一刻も早く行きたいのだろう。

 しかし依頼内容はただの調査であって、村の存亡に係るような緊急事態って訳でもない。

 明日出発したっていいんじゃないのか?


(それもそうだけど、何か嫌な予感がするのよ……)

(予感か……)


 これまでゴブリン程度しか現れなかった村に、正体不明のモンスターが現れているという。

 万が一のことを考えれば、早く行くべきなのも分かる。


 分かるけど、じゃあ徒歩で町を出発するのかっていうと、それも違う。

 どう考えたって、馬車で三日かかる道のりを徒歩で行こうとするのには無理がある。

 無理を押し通すには秘策が必要であり、それは飛空艇の存在を知らしめることになる。

 流石にそれは容認できない。


 どうしたものか二人して悩んでしまう。

 無論、アレク君やベル、シュリも頭を捻っている。

 捻っていないのはシャーロット位だ。

 お前も呑気に構えてないで、アイディアの一つでも捻り出してくれ。


「あるにはあるのだが……確認したいことがある」

「確認?」

「そうだ。それが確認できれば、何とかなるだろう」

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