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第302話 タマゴノキ

「ん? こんな朝早くから出掛けるのか?」

「あ、ガロンさん。おはようございます」

「あぁ、ショータがどうしてもコッコゥの卵が欲しいらしくてな」

「おぅ、オメェらも卵か……まぁ気を付けてな。俺ぁこっちのタマゴとりだ」


 そう言ってガロンさんは小さめの買い物籠を見せてくれた。


「ガロンさんもですか。なら一緒に……って、持ち物はそれだけですか?」

「それだけって……あぁ、ショータにはタマゴノキのことは教えてなかったな」

「「タマゴノキ?」」


 俺だけでなくシャーロットも初耳のようだ。

 話の流れからすると、卵には変わりない様だが。


「あの……俺達も一緒に行ってもいいですか?」

「あぁいいぜ。っつってもすぐそこだけどな」


 ガロンさんは二つ返事で頷くと、裏庭に続くドアを開ける。

 その気楽な様子はまるで家庭菜園の野菜をとりに行くかのようだ。

 慌ててその後を付いていく俺達。


 外に出るとガロンさんは、裏庭にある一本の樹に近付いていく。

 アレがくだんの『タマゴノキ』とやらのようだ。


 え? まさかこの世界じゃタマゴは樹に生るものなのか?

 でもシャーロットの話じゃ卵って飼育しにくかったりで入手しにくいからか、あまり一般的ではないとかって聞いたような……。


 ただその樹にはもっさりと葉っぱがあるだけで、実らしきものはなっていない。

 樹の根元を見てもキノコの様に卵が生えているようにも見えない。

 ひょっとして、あの葉っぱの味がタマゴ味……は流石にイヤだなぁ。


「……今日は調子がよさそうだな。じゃあ頼むぞ……」


 ガロンさんは暫くその樹の葉っぱを眺めていたが、やがて樹の幹に手を当てはじめる。

 それに応えるかのように、葉っぱがわさわさと揺れ始めた。


「……あれは魔力を樹に注いでいるようだな。いや、どちらかと言えば樹が吸っているのか?」

「魔力を?」

「あぁ……おそらくだが、あの樹はトレントの一種だろう」

「へぇー」


 ……って、あれ? トレントってモンスターだよな?

 そんなの自宅の裏庭に生やしてても平気なのか?

 まぁガロンさんが襲われる様子もないし、大丈夫なのだろう。

 俺だって朝練の時に、ランニングであの樹の前走ったけど、襲われなかったしな。


 あぁ、でも朝練を始めるときにガロンさんが樹を弓や魔法の的にするのはダメだって注意をしてたな。

 あれはトレントが混じって生えてるからか。

 そんな事を思い出しているうちに、タマゴノキに変化が現れる。


 もっさりした葉っぱの中に、幾つか白い花が咲き出す。

 と思ったらその花はすぐに萎れ、やがて実を付け始める。

 その実はまるで卵の様に真っ白だった。

 というか、卵そのものだな。


「……今日は五個も付けてくれたんだな。助かったぜ」


 ガロンさんはタマゴノキを労わるよう、その幹をポンポンと叩くと収穫を始めた。

 たぶん取りやすいような位置に調整して実を付けたのだろう。

 五つの実(?)はすぐ手が届くところになっているので、ひょいひょいと収穫していく。


 手早く収穫を終えたガロンさんは、小さな買い物籠を下げたまま、俺達の方へ戻って来た。


「ガロン殿。あの樹は一体……?」

「あぁ、アレがタマゴノキだ。見ての通りトレントの一種だな。師匠の話じゃ『とつぜんへんい?』ってヤツらしい」

「突然変異か……道理で見た事も無かった訳だ」

「昔、俺が冒険者だった頃にアイツを見つけてな……大人しいし魔力を与えればタマゴをつけるんで、拾って来たんだ」

「トレントをテイムした、ということか」


 テイムってのはモンスターを仲間にすることらしい。

 なんでもガロンさんが現役だった頃、森で調理スキルが反応したことがあったらしい。

 その反応先を追って行ったら、タマゴノキを見つけたそうな。

 なんだかんだでソイツを拾って来たガロンさんは、当時定宿だったこの宿の裏庭に植えたんだとか。

 つーか、見つけたから拾ってくるって……混乱とか無かったのか?


「いや……俺にテイムスキルは無いんだがな……なぜか懐かれた」

「……なるほど」

「まぁ今じゃすっかり年老いて、日がな一日あそこで日向ぼっこだけどな」

「…………なるほど」


 トレントって樹だよな?

 なのに人間よりも寿命が短いのか?

 それとも突然変異だからなのか?


「それでもこうして調子のいいときはタマゴをつけてくれるからな。こっちも大事にしてやりたくなるのさ」


 多分、俺達が見ていない時にでも手入れもしているのだろう。

 もっさりとしてはいるが、所々剪定された枝もある。


「あの……その卵って食べられるんですよね?」

「あぁ勿論だ。トンカツや唐揚げにも使ってただろう?」

「そうだったんですか」


 てっきりコッコゥの卵を使ってたのかと思ったら、タマゴノキの卵だったようだ。

 だったら毎朝目玉焼きが出来るよなって思ったのだが、タマゴノキの調子次第だし、人数分手に入る訳でもないから、無理させてまでは出さなかったようだ。

 ちなみに今日はこの卵で唐揚げにするらしい。


「ガロン殿。そのタマゴノキとやらは、増やすことは出来ないのか?」

「……色々試したんだが、ダメだったな。俺もアイツを失うのは忍びねぇから、なんとか子孫だけでも残してやりたかったんだが……」

「単純にそのタマゴを地面に植えればいい訳ではないのか……」

「あぁ。他にもタマゴを収穫せずに熟成させてみたりとか、普通のトレントにタマゴを食わせてみたりしたんだけどな……」

「どれもダメだったってことか……」


 まぁあのタマゴの生り方を見る限り、受精卵ではないだろうしなぁ。

 ……あれ? 実以外で樹を増やす? どっかで聞いた覚えがあるような……

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