第30話 朝チュン
チュンチュン、チチチ。
ん?朝か、何時の間にか寝てしまってたようだ。まさか異世界に来て朝チュンを迎えるとはな。違うか。違うな。大体周りはムサイ連中ばっかだ。冗談じゃない。
寝ぼけ眼のままで裏庭にでて、井戸の冷たい水で顔を洗う。しゃっきりしたけど、手拭いを忘れたことに気が付く。まぁいいか、ほっときゃ乾くだろ。おぉ、丁度夜明けだ。
うん、今日もいい天気になりそうだ。
二日連続で朝日が昇るのを眺めてた。早起きは三文の徳という。狙って起きたわけでもないが、なんかいいことした気分になる。すっかり昇った朝日を見ながら異世界生活3日目のスタートを切る。そして気付く、朝飯の時間を過ぎていたことに。
慌てて食堂に向かう。すでに満席に近い。所々空いているのに座らないのはなぜだろうか?誰も俺と目を合わせないのもなぜだろうか?
俺の顔を見る→目をそらす、このパターンだ。中には顔を赤くしてる奴もいる。俺のイケメンパワーが異世界に来て、ついに目覚めたのだろうか?野郎はお断りだが、中には女性もいる。ここはひとつカッコイイポーズでも、とってみるべきだろうか?荒ぶる鷹のポーズを構えはじめた時、後ろから肩を叩かれる。
「ようボウズ、昨日はいい夢見られたか?」
振り向けば昨日の嘆きの兄ちゃん。ボウズっていうなよ、大して年変わらないだろ。多分。俺が若く見られてるだけか?昨日も少年扱いされたし。いや、あれは527さ・・・ゲフンゲフン、いえ何でもないです。カノジョハ、ジュウナナサイデス。
「空いてる席には座るなよ、ありゃ個室の連中が座る席だ」
俺の狼狽に気付かず、ヤツの解説が始まった。なんでも個室と大部屋の差別化として、夕食時は時間帯をずらし、優先的にいい食事が選択できる。朝食時は時間は一緒になるが、待たずに座れるといったことで、図られているんだとか。食事も大部屋よりも一品多い。
さすが情報屋。俺が疑問に思ったことを解説してくれるとは、いい仕事してる。だが、こいつでも目を逸らしてる理由はわからないようだ。ヤツも目を逸らしてるしな。
昨日から思ってたが、この宿は個室と大部屋の差別がひどい。サービス業である以上仕方ないといえば仕方ないが、それでも露骨すぎる。メシも微妙だしな。ギルドのおススメだったけど、宿を変えるかね。まぁ今日の稼ぎ次第か。頑張ろう。
気合も新たに飯を食う。メニューは昨日の夜と一緒だ。つか、昨日の残りじゃね?これはダメだな。ダメダメだ。
俺は食に拘りは無い方だけど、それでも同じメニューが続くのは許せない。特に微妙な味なら、なおさらだ。ただしカレーは除く。カレーは翌日の方が美味いしな。
うん、この宿は無理。多分二度と泊まらない。ちらっと見たけど、個室の食事も美味そうじゃなかったし。個室のレベルも推して知るべしだ。さらば受付のクソヤロウ。去り際に一発殴っとこう。
食器を返却し、食堂を出る。出ようとしたところで人にぶつかる。誰だ!お前もぶん殴ってやろうか?
「おっと、すまない。あ、キミは昨日の・・・」
シャーロットだった。何か話しかけたそうにモジモジしてる。彼女は目を逸らさないな。顔は赤いけど。まさか本当に俺のイケメンパワーが発動中?
「昨日のことなんだが・・・」
昨日?なんのことだろう?まさか魔銀貨が贋金だったんで、金を返せとか?よし、しらばっくれよう。もう使い切ってるし。
「え?何のことでしょう?人違いでは?」
「え、たしかに昨日とは顔が違うな・・・」
顔が違うってなんだよ。俺はアン〇ンマンか。あいつは顔が変わっても同じ顔か。
戸惑ってるスキに、俺は逃げ出す。大部屋に戻って荷物を背負い、夜逃げの準備は完了だ。いや、朝だから朝逃げか。皮鎧は身に着けたままだしな。
そのまま宿を出た。前金制で助かった。受付のクソヤロウを殴り忘れたことに気が付いたのは、ギルドについた後だった。




