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第296話 ロケットさん

「調査依頼……ですか」

「……?」

「はい、ウルザラ村の森で正体不明のモンスターが出現したそうです」


 バーベキューも終わり、まったりと飲み会に移行した頃合いで、メルタさんに調査依頼の説明をしてもらう。

 俺やクレアが説明しても良かったのだが、折角ギルドの受付嬢が来ているチャンスを逃すこともない。

 クレアのパーティーメンバーであるアレク君やベルは勿論、合同で受けるであろうシャーロットにも同席してもらう。


 メルタさんの説明が終わり、改めて三人と依頼を受けるかを相談したが、全員一致で受注することになった。

 俺達というか俺はトマトの為。

 アレク君達「麗しき暁の旅団」――うん、『暁組』でいいな――暁組は自分たちの育った村の為。

 思いは違えど目的は同じだった。


 じっくり話し合い出した結論をメルタさんに伝えると、「はいはいー。じゃあ、あした手続きしますー」とメルタさんは軽い感じだった。

 俺達が話し合ってる間、メルタさんはガロンさん達(飲み会)のテーブルに行っていたせいか。


 一応、俺達の返事を聞くまでは飲まずに話だけしていたようだが、匂いに当てられたのだろう半分出来上がってるようだ。

 まぁ今の彼女の役目は依頼の説明であって、手続きをするのは明日でもいい。

 第一、今からではギルドだってやってないしな。


 飲み会のテーブルでは昔話に花が咲いていた。

 驚いたのはフランさんがガロンさんとタメ口で話している事か。

 まぁ彼女は俺よりも年上らしいし、案外ガロンさんと似たような年なのかもしれない。

 あるいは実はガロンさんが見た目よりもずっと若いとか?

 ……まさかね。


 とはいえ、見た目中学生な彼女がジョッキ片手に髭もじゃのオッサンとだべっているのは違和感しか湧かない。

 湧かないが、そういうものだと受け入れるしかない。

 なんせ自称五百歳が目の前にいる訳だしな。


 そんな自称五百歳なシャーロットは話し合いに参加しつつ、そのくせ横目で飲み会のテーブルをチラチラと見ている。

 あれだな……師匠として弟子たちの話し合いを監督しなくてはならないが、その本心はエールの方にあるとみた。


 コッソリ彼女の脇腹に肘打ちをいれ、注意を促す。

 オブザーバー的な立場とはいえ、気もそぞろで参加されてもお互いの為にならないしな。

 その際、肘打ちの角度がずれて褐色スライムさんに当たってしまったのはワザとではない。

 ワザとではないのだから、そこまで睨むのは勘弁してほしい。


「いや、肘の入れ方が下から上って、明らかに狙っていたからな?」

「ちっ、バレたか」


 報復はエルボードロップだった。

 とても痛かったです。




 話し合いを済ませ部屋へ戻る。

 飲んでないのに酔いつぶれてしまったメルタさんは、先日の反省を踏まえたのか、マデリーネさんと一緒に泊まるようだ。

 代わりにガロンさんが空いている客室で寝るんだとか。


 ガロンさんがメルタさんを、なんとかキャリーで担いで行く姿を見届けながら、階段を上がる。

 おんぶやお姫様抱っこで連れて行くのは意外と腰に負担がかかるからな。

 オッサンであろうガロンさんの為を思い、教えておいたのだ。


 部屋に戻り、ようやく一息つける。

 宿に戻って直ぐギルド、ギルドから戻ってきたら即バーベキュー。

 装備は宿に戻った時に外してはいたが、落ち着く暇もなかったからな。


 宿だし一日置きでしか泊っていないような部屋だが、自室は自室。

 やはり落ち着けるのである。


 ――コンコン


 自室に戻り、まったりとしていると、ドアがノックされる。

 今までならシャーロット辺りが大浴場を使わせろと押しかけて来たのだろうが、バックドアは廊下にドアを開けた状態で出してある。

 飛空艇に用があるなら、そっちに向かうはずだ。


 となると、俺に用事か?

 シャンプーでも切れてたかな? と思いながらもドアを開ける。

 そこには予想通りシャーロットの姿があった。


 ただしその髪はしっとりしており、明らかに風呂上がりのようだ……つまり風呂以外の用があるって事か。

 立ち話もなんだし、廊下に突っ立っていては身体も冷えるだろうと部屋へ招き入れる。


「話というのは、彼女の事だ」

「彼女?」

「夕方、空から降って来た彼女の事だ」


 あぁ、ロケットさんね。

 そうだった、そうだった。

 調査依頼で町を離れる間、彼女の事をガロンさんに頼んでおかないとか。


「彼女の事はガロンさん達に任せればいいんじゃないのか?」

「そうではない。彼女の正体の事だ」

「……それは話してもいい内容なのか?」


 鑑定スキルを持つ者の義務として、プライバシーの保護は遵守しなくてはならない。

 なのに第三者である俺に話すって事は、それどころではないってことだ。


「まぁお前にも無関係ではないだろうからな」

「そうなのか?」


 俺に関係があるってことは……彼女は迷い人ってことか?

 あの泡は転移してきた時に、ソイツを守るための泡だったのかね。

 となると俺はかなり運がいい様だ。

 だって、場合によっては全裸でこの世界に放り出されるんだからな。


「……まさか、まだ気付いていないのか?」

「いや、気付いてるって。彼女も迷い人だって事だろ?」

「迷い人は迷い人だが……」

「違うのか?」

「……彼女は勇者だ。いや、勇者というべきか」

「…………は? 勇者? え? だって勇者って男だろ?」


 封印の水晶の中にいた時じっくり眺めてたけど、あのロケットさんのロケット部を見落とすはずないだろ?

 実際、あのロケット部をみて、真っ先に飛空艇に置いてきた勇者入り水晶は除外した訳だし。


「あぁ……私もずっと勇者は男だと思ってた」

「だったら何で?」

「彼女が姿を偽っていられたのは、これがあったからだろう」


 そういってシャーロットは勇者が身に付けていた胸当てを取り出した。

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