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第289話 握手

「――といったところだな」


 シャーロットの独白が終わった。

 彼女が元魔王だとか、勇者が封印された事だとか色々あったが……


「シャーロット……お前、いくら何でも五百歳もサバ読むのはやり過ぎじゃないのか?」

「私の過去を聞いた感想がソレか……」


 いや、内心じゃ彼女の五百歳ネタは散々いじってたけど、てっきりハッタリかジョークだと思ってた。

 だって目の前の人物が、江戸時代より昔から生きてるんだぜ?

 普通に考えれば、タダの冗談だと思うだろ?


「まぁ魔族は人族と比べて、はるかに長い寿命だからな」

「でたな。ファンタジーの定番め」

「迷い人は大抵そう言うな」

「そうか」


 ちなみに人族よりも長い寿命を持つ種族を総称して魔族と呼ぶらしい。

 魔王国を建国した人も、互いの寿命のサイクルの違いで国を分けたんだとか。

 確かに隣人がずっと年を取らないってのも、変な風に感じるだろうな……サザ〇さん一家は別にして。

 もしかして、サザ〇さん達って魔族なのか?


 なお、シャーロットは魔族の中でも、エルフ族に属している。

 やっぱあの耳はエルフだったか。


「肌が褐色なのはダークエルフだからなのか?」

「ダークエルフ? いや、これは遡上士として船上で生活していたらこうなった」


 ……日焼けか!

 いや、遡上士だったのは五百年以上昔の話だ。

 それとも寿命が長い=代謝が遅い、つまり日焼けがずっと治らない状態とか?


「まぁお前が五百歳超えのおばあちゃんなのは置いといて……」

「おばあちゃんいうな」

「オバチャンよりはマシだろ?」

「……そうだな」


 なんかオバチャンってのは、女性の中で最強の存在な気がするんだよな。

 彼女もオバチャンの押しの強さには敵わないだろう。


「で、だ。お前はこの勇者を見て気を失ったって事?」

「……そうだ。まさかこんな所で出会うとは思わなかったからな」

「元とはいえ魔王だったから、勇者に対する恐怖みたいなのがあるのか?」

「それはないな。魔王になったのは勇者が封印されてからだし、それ以前は勇者なんて聞いたこともなかったからな」

「じゃあなんで気絶したんだ?」

「まぁなんというか……過去の過ちを掘り返されたというか……」


 あー、あれか。己の黒歴史を暴露されて羞恥心で気絶したって事か。

 元魔王のくせに、メンタル弱いな。

 まぁウッカリ山生やした上、自分も危うく死にかけたなら、その辺の恐怖も蘇るのかね。


「そうすると、このままコレをココに置いておくと、気まずいのか?」

「そうだな……出来れば降ろすとかしてもらえるとありがたい」


 降ろすのはなぁ……一応同郷の人だし、出来れば復活させてあげたい。


「封印を解くのは可能か? 今は戦争しているわけじゃ無いし、勇者がいたとしても攻めてこないだろ?」

「術自体が偶然の産物で生まれたらしいからなぁ」

「そうなのか……」


 ハルファスってヤツが開発したらしいけど、封印だけで開封することは考えてなかったそうだ。

 というか、ぶっちゃけ成功するとも思ってなかったらしい。

 試すにも勇者専用の魔法だから、ぶっつけ本番でやる以外なかったしね。


 上手く行けばよし。上手く行かなくてもシャーロットの遡上魔法で追い返す予定だったそうだ。

 そんな穴だらけな作戦で勝つつもりって、その作戦を立てたヤツは阿呆なのか?


「一応聞いておくけど、ハルファスってヤツは存命なのか?」

「いや……残念ながら……」

「そうか……いや、すまん」


 封印魔法を開発した奴なら、開封する魔法も開発できるかと思ったけど、その本人がいないんじゃな。

 シャーロットの様子からすると、死んだかボケたか出て行ったかといった所か。

 いずれにしろ、ソイツの所に持ち込むのは出来無そうだ。


「とりあえず、目につかないように、後で布でもかぶせておくか」

「そうしてもらえると助かる」

「気にすんな。生きてるか死んでるかも分からん奴より、お前の方が大事だ」


 同郷らしき人とはいえ、縁もゆかりもないヤツだしな。

 つい回収してしまったが、厄介ごとしか呼び込まない気もするし。

 そんな奴よりは、いつも世話になってるシャーロットに、天秤が傾くのは当然だろう。


「ショータは私が元魔王でも平気なのか?」

「んー……シャロはシャロだろ? 風呂とビールをこよなく愛する」

「お前の中の私はソレなのか……」


 正直、魔王だ勇者だって言われても、俺にはピンとこない。

 わーすごいねぇ、程度だ。

 むしろ彼女の強さと妙な知識も、彼女が魔王だったなら多少は納得できそうだ。 


「まぁ、強いて言えばお前の権力で俺を守ってほしい位か?」

「いや、私は国を離れるとき、その手の立場は放棄してきたのだ。でないと場合によっては国が割れる事になるからな」

「じゃあ、お前は俺の相棒のシャロだ。それだけで十分だよ」


 そういって右手を差し出す。

 この世界にも握手の習慣はある。

 ただ触れ合うと鑑定される可能性があるから、よっぽど信用してる相手としかしない。

 そんな握手をシャーロットと交わす。


「あぁ、これからもよろしく、ショウ」

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