第284話 係留装置の間違った使い方
俺とアレク君の二人は操縦室にいる。
この作戦を実行するにあたり一番の難点になりそうなのは、操縦とアレの操作とを同時にこなす必要がある事だ。
せめて操縦だけでもアレク君に任せることが出来れば、アレの操作に専念できるのに……と、思っていたが、救いの手は意外にもすぐそばにあった。
念のためと、近くを飛んでいたタンポポに、アレク君を操縦士に出来ないか聞いてみたら、躁舵輪に案内された。
なぜに躁舵輪? 操縦するからか?
良く分からんが、タンポポのやる事だからと、素直に躁舵輪を握る。
『MP2を消費して「機能:ピンチヒッター」を解放しますか? MP50/55』
ピンチヒッター?
ピンチヒッターって、野球の代打のことだっけ?
もしかして、ぶっ倒れたシャーロットの代わりにスカルドラゴンの相手をしてくれるとか?
まぁいい。タンポポが「コレだ」と教えてくれたのだから、きっと役に立つ機能なのだろう。
YESボタンの陰に隠れるタンポポごと、ムニョっと押す。
『代行する権限と期限、代行者を指定してください。 残5』
『権限▽×期限▽×代行者▽=消費MP』
ウィンドウがこんな表示に切り変わる。
権限の横にある▽マークが気になったので触ってみると、プルダウンメニューの様にズラズラと指定できる権限が表示される。
操縦(2)
船内調整(2)
上限解放(10)
種類追加(10)
魔力供給(2)
……
この辺の権限類はシャーロットを副船長にした時に見たな。
各権限の横にある数字は、消費MPか?
同様に期限は1時間(1)~、一日(10)~。
長時間での割引はあるようだ。
そして代行者。
この選択肢は「船員(1)」と「客員(2)」の二つしかなかった。
試しに「権限:操縦(2)」「期限:1時間(1)」「代行者:客員(2)」としてみたら消費MPは4となったので、横の数字=消費MPであっているようだ。
そのまま代行者をアレク君に指名する。
MPが消費され、アレク君の胸元にバッジのような物が現れる。
バッジには『操縦 代行者 59:59』と書かれているから、これが代行者の証ってことか。
突然現れたバッジにアレク君が驚いているので、ピンチヒッターとして飛空艇の操縦士にしたことを説明する。
初めは戸惑っていたようだが、この状況もあってか何とか引き受けてくれた。
ただし、操縦は操縦でもアレの操縦の方だけどね。
うっかりアレの操作も操縦に含まれることも話してしまい、結局そっちを担当してもらうことになったのだ。
アレク君は躁舵輪を握り、アレの操作。
俺はキャプテンシートで、飛空艇の操縦。
分担が決まり、シャーロット達を看護しているベルにも、スカルドラゴンを退治する事、その際船内が揺れることを告げておく。
彼女も状況が分からないままだと、不安に思うだろうからな。
準備が整い、あとは突撃あるのみ。
覚悟を決め、船内放送でカウントダウンを始める。
『いくぞ……3・2・1、発進!』
俺の合図と共に、安全圏にいた飛空艇は急降下を開始する。
ぐんぐん迫って来る地表、そしてその中央には居座ったままのスカルドラゴン。
ヤツも飛空艇が突っ込んで来るのを待ち構えていたようで、直ぐに迎撃の水弾が飛んでくる。
細かい水弾は強化外壁の防御力で凌ぐ。
デカそうなヤツだけ操縦アシスト任せで回避する。
気分はさながら戦闘機乗りか。
突撃してくる飛空艇にスカルドラゴンも焦って来たのか、大き目の水弾が次々に放たれる。
アレク君も船視点で見えているのだろう、焦った声があがる。
いや、大丈夫だ。
俺はダンデライオン号を信じている。
そしてダンデライオン号も、俺の期待に応えるかのように、華麗な曲芸飛行を披露してくれる。
あ、でもバレルロールは勘弁してください。
見事スカルドラゴンの迎撃を躱しきり(ダンデれもん様が)、地上スレスレで船首を上げる。
この距離なら外しようがない。
だが、それはスカルドラゴンも同じ事だ。
ヤツは大きく口を開ける。
まさかブレスか?
そのブレスが放たれるよりも早く、左舷前方から射出される光のアンカー。
それはスカルドラゴンの首をぶち抜き、頭蓋骨が宙を舞う。
勝っ……駄目だ、ヤツはまだ生きている。
頭蓋骨だけになっても、眼窩の奥の光は消えていない。
最後っ屁とばかりに解き放たれる水のビーム。
マズイ、このままだと船尾に当たる!
が、その瞬間、船体が大きく旋回し水ビームを躱す。
操縦アシストが避けたのか?
違う、アンカーだ!
伸びるの任せたままの光のチェーンがロックされ、その反動で船尾が流れたんだ。
船尾だけが旋回していく様は、まるでドリフトしているかのようだ。
二本同時に射出していたら、こうはいかなかっただろう。
初めてだからと片側しか使わなかったことが幸いした様だ。
スカルドラゴンもまさか飛空艇がドリフトするとは思いもよらなかったらしく、大口を開けたままだ。
骨だけのはずなのに、その顔に驚愕の表情を感じ取れた。
顎が外れるとは正にこの事だろう。
その大口目掛けて、アレク君は容赦なくもう一本の光のアンカーを撃ち込む。
そのアンカーは狙いたがわず頭蓋骨をぶち抜き、その魔石を砕く。
スカルドラゴンの声なき叫びが聞こえたような気がした。




