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第281話 塩から現れしモノ

 空の青と、ソレを映す水面の青。

 その中にあってこそ、初めてわかったであろう白く盛り上がった、小さな丘のような場所。

 たぶんだが、ココこそが目的地だろう。


 丘と言ってもそれほど大きくはない。

 なんとなく、昨夜の塩釜焼きを思わせるような形状だ。

 大きさは全然違うけどな。


 サイズはそうだな……呼び出してはいないが、飛空艇と同じぐらいか?

 高さは見上げる程度だから……五メートルもあればいい所だろう。

 そんな塩の丘から、少し離れたところに俺達はいる。


「……で、どうする?」

「あからさまに怪しいわよね」

「そうだな」

……(コクコク)


 ほぼ真っ平らな塩の平原に、ポツンとある塩の丘。

 しかも、そこから何かが呼んでいるのだ。

 どう考えても罠としか思えない。


「俺としては、見なかった事にして帰ることを提案するんだが……」

「アタシもそうしたいところだけど、あの様子を見るとね……」

「そうだな」

……(コクコク)


 四人の目がを見つめる。

 この丘を見つけてから、なぜかアレク君が放心したままなのだ。

 明らかに、彼と関係する何かがありそうだ。


 となると、このまま帰りますとはいくまい。

 これがゲームなら、イベント発生ってヤツだろうしな。

 ならば精々用心して、イベントに挑むしかあるまい。


 俺達は塩の丘から十分離れると、装備を身に付け始める。

 アレク君は放心しっぱなしだったが、俺のチョップで正気を取り戻した様だ。

 装備が整うと、何かが起こる前提で作戦を練り始めた。




 俺は一人、ソコへ慎重に近付く。

 フォーメーションを考えると、俺が適任らしい。

 もしくは一番戦力にならないともいう。


 俺の後ろでは、四人がそれぞれ武器を構えており、何かあったら速攻で叩きのめす算段になっている。

 アレク君達だけならともかく、シャーロットも控えている。

 ワイルド・ボアすら一撃の彼女がいれば、ボス戦が発生したとしても何とかなるだろう。

 ソレを信じて、俺は俺の役割を果たそう。


 逃げ腰のまま、塩の丘に近付いていく。

 彼女の実力は信じているが、絶対はないしな。

 ゆっくりとした歩みだが、誰も文句は出なかった。


 あと5m……3・2・1……ゼロ……。

 何も起きぬまま、俺は塩の丘に辿り着いた……着いてしまった。

 絶対何か起きると思っていたのに、拍子抜けとはこの事か。

 目の前に迫った塩の丘をペチペチと叩きながら、ホッと息を吐く。


 あ、やべっ。これってフラグじゃ……


 ――――ピシッ


 誰もが緊張し、息を呑んでいたせいか、やけにハッキリと聞こえる。

 気のせいだと思いたかったが、目の前に広がったひび割れは、無情にもどんどん広がっていく。


「ショータ!! 戻れ!!」


 シャーロットの声が聞こえる。

 そうだ、急いで戻らないと……。


 慌てて引き返そうとする俺。

 元々逃げる体勢は出来ている。

 あとは一歩を踏み出すだけ……。


 だが、ひび割れの先から覗く赤い光に気を取られ、その一歩が踏み出せなかった。

 さながら卵から雛が孵化するかのように、ヒビは広がっていく。

 やがて塩の丘全体にヒビが行き渡ると、ソイツはゆっくりとその姿を現した。




 俺が小学生の頃、両親に連れられて恐竜展なるものに行った事がある。

 その恐竜展の目玉展示に、恐竜の全身骨格というのがあった。


 当時小学生だった俺を丸飲み出来そうなぐらい大きな頭蓋骨。

 ソコから伸びる太い首の骨。

 あばら骨に覆われた部分は、部屋一つ入りそうなぐらい大きかったな。


 そんな記憶がよみがえる。

 あれ? これってもしかして走馬燈?


 パラパラと降って来る塩の塊が、ヘルメットに当たる音で我にかえる。

 だがその時、丁度正面にあった頭蓋骨の目の部分に赤い光が宿っているのを見つけてしまう。

 あぁ、さっき見た赤い光は、これか……。


「ショータ!!」


 今度はクレアの声がした。

 次の瞬間、俺は何かに正面から吹っ飛ばされる。

 てっきり目の前のヤツがやったのかと思ったが、そうじゃなかった。


 エアハンマーだ。

 何度か吹っ飛ばされたことがあるから分かった。

 クレアが咄嗟に放ったエアハンマーのお陰で、ゴロゴロと転がりはしたが、なんとか安全圏まで退避できたようだ。


「すまん、助かった」

「礼なんか後よ! それよりサッサと立って構えなさい!」


 そうだ、悠長に礼なんか言ってる場合じゃない。

 慌てて起き上がると、ヤツの全体像が見えて来た。


 走馬燈で見た恐竜の骨格標本がそのまま動き出したような巨体。

 頭蓋骨からは赤い光が漏れている。

 いまだ胴体の部分は塩の丘に埋まったままだが、それも時間の問題だろう。


「あれはスカルドラゴンだな」

「スカルドラゴン?」

「あぁ……竜種が死んで骨になり、それがアンデッド化した状態だ」


 塩に包まれてたくせにアンデッド化するなよ……。

 それともこの世界じゃ、塩に除霊効果はないのか?


「……ヤバいのか?」

「あぁ……想定よりもかなり悪い……パターンDでいくぞ」


 俺達の想定じゃ、骨は骨でも、ワイルド・ボアとかその辺のが埋まってると思ってたからな。

 いざ蓋を開けてみたらスカルドラゴンなんて大物が、出てくるとは思っていなかったのだ。


 一応想定として、パターンAは話の分かる奴が現れ、戦闘無しで終了。

 パターンBはシャーロット抜きで勝てそうな相手。

 パターンCで彼女と共闘。

 足手まといな俺達を抜きにして戦うのが、パターンDだ。


「……勝てそうか?」

「何とかな……想定外ではあるが、パターンEまでは必要ないだろう」


 パターンEは全力で逃げる案だ。

 さすがのシャーロットでも、飛竜のような勝てない相手とは、逃げる事しか出来ないしな。


「そうか……だが、気を付けてくれ」

「あぁ、分かってる。動きは遅い様だし、じっくりと相手を…………」


 動き始めたスカルドラゴンを見つめ、そんな軽口を言っていたシャーロットだったが、突如彼女の動きが止まる。

 何事かと振り向くと、彼女が膝から崩れ落ちていくところだった。


「シャーロット?!」

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