第268話 塩洲
眼下の水鏡に白銀の身体を映しながら、ゆったりと飛空艇は進む。
目指すは水が無い部分、いわゆる洲……いや塩洲だ。
上空からだと、水鏡に映った雲なのか塩洲なのか、見分けがつきにくいけどな。
飛空艇が映り込まなければ塩洲だろう。
ポツンポツンと小さな塩洲は見つかるが、どれも小さい。
一番大きかった塩洲でも四畳半程度だ。
これでは乾いた塩は期待できない。
思っていた以上に、昨日の雨量は多かった様だ。
降下できそうな塩洲が見つからないまま、船は次第に塩の平原の外縁部から中央部へと移動していく。
これはMP10を使ってでも、地図で確認した方が早かったか……そんな後悔が頭をよぎる。
一旦、船を停止させると、船視点を解除しシートにもたれかかる。
ゆっくり飛ばしているとはいえ、探索と操縦の同時進行は、やはり負担が大きい。
シャーロット達にも探索を手伝ってもらうべきか。
そういえば結構な時間飛んでいるが、まだ風呂にいるのかね。
船内マップを確認すると、光点は展望デッキに三つ、こちらに向かってくる光点が一つ。
こちらに向かってくるのはシャーロットだな。
何故か彼女の光点だけは色が変わっており、更に『シャーロット』と光点の上に名前まで付けられていたためである。
何故というか、彼女を副船長にしたからか。
多分、船長である俺も船内マップで見ると、『ショータ』と表示されてそうだ。
「丁度いい場所は見つからない様だな」
「そうだな……難航しているよ……船だけに」
「そう思って三人は展望デッキに行ってもらった」
ドアが開くと同時にシャーロットがそんなことを聞いてきたので、つい軽口で返す……が、スルー。
どうやら言語理解の適用外だった為、彼女には通じなかったようだ……適用外だったんだよ!
スルーといえば、タンポポの存在もスルーされている。
今も俺の周りをフヨフヨしているのに、誰も聞いて来ない所を見ると、俺にしか見えない妖精さんのようだ。
「操縦に探索と大変だっただろう……私が代わるからショウはゆっくり休むといい」
そういって躁舵輪を握るシャーロット。
じゃあ、頼む……とでも返すと思ったか?
コンニャロウ、優しい言葉と態度でカモフラージュしてるが、単に操縦したいだけだろ。
探索なら見張り台でも出来る訳だしな。
ただ正直操縦と探索の両立も大変だったのも事実だ。
ここは彼女の優しさ(?)に甘えさせてもらおう。
「わかった。なら俺は探索を担当しよう。シャロはそのまま操縦を頼む」
「あぁ、任せておけ」
いや、任せるのはお前じゃなく操縦アシストさんです。
あと探索と見せかけて、シャーロットさんの後姿を見ているだけです。
乾かさずに来たせいか、珍しくアップされた髪。
そこから覗く、ほっそいうなじ。
湯上りのせいか、少しだけ赤く染まった褐色の肌。
なにより、後姿のはずなのに左右からチラ見しているスライムさん(着衣)。
眼福です。
勿論直接ガン見するような馬鹿な真似はしない。
船視点から船内情報、更には船内カメラでシャーロットの姿態を観察するのだ。
お、このカメラ。視点移動も可能らしい(MP1)。
ならば真上からの映像に切り替え、あの魅惑の谷間を……
――ピカッ!
「ぎゃー! 目がー! 目がー!」
突然カメラの前に、シャーロットが放ったであろう『フラッシュグレネード』が生み出された。
船視点越しとはいえ、その光量は圧倒的だ。
たまらずシートから転げ落ち、ゴロゴロと床を転がり回る。
気分はどこぞの大佐(二回目)である。
「どうした? 外を探索していたら太陽でも直視したのか?」
「おまっ……いや、そうだな。その通りだ」
いけしゃあしゃあとシャーロットがのたまう。
思わず抗議の声を上げそうになったが、どう弁護しても悪いのは俺だった。
シャーロットにしてみれば、親切心で操縦を交代したのに、その相手から視姦されるとか、たまったものじゃないだろう。
彼女が本気になれば、ワイルド・ボアやクロゲワ・ギューですら一刀両断される。
ならば、ただ眩しいだけの『フラッシュグレネード』だった分だけマシといえよう。
心を入れ替えた俺は、真面目に塩洲の探索を続けるが、やはり成果はあがらない。
シャーロットもアチコチ蛇行するように移動して、探索を助けてくれてたんだけどな。
諦めてMP10を支払うか……。
「うわっ!」
そんな俺の弱気を叱咤するかのように、飛空艇が急旋回する。
船視点まま振り回されたせいで、気持ち悪……ん? あれは……?
「ショータ、大丈夫か? スマン、どうやら何かを避けるために急に舵が切られたようだ」
「そうか……いや、俺の方は大丈夫だ。それより展望デッキの三人の方を確認しないと」
操縦室にいた俺達は、ちょっと驚いた程度で済んだが、展望デッキからでは万が一があり得る。
慌てて船内カメラで展望デッキを確認する。
「……いない」
「いない? まさか?!」
「……振り落とされたのか?」
水面スレスレな超低空飛行しているとはいえ、それでもその高さは数十メートルはある。
そんな展望デッキから落とされたりしたら……
そろそろ「レギュラーキャラを殺しにかかる作者」タグが必要かもしれない。




