第263話 タンポポ
飛空艇の操縦はシャーロット(操縦アシスト付き)に任せ、クレア君達を監禁場所、もとい窓の無い部屋へと案内する。
といっても、この飛空艇に窓の無い部屋は割と少ない。
上層部で窓が無いのはミニキッチンと脱衣所だけだ。
まさか移動中、脱衣所にあるマッサージチェアーに掛かっててもらうわけにもいくまい。
しかもアレは一台しかないから、三人で順番に使って貰う事になる。
もちろんこんな場所に入って貰う事はしない。
中層部の客室や食堂にも小さいが丸窓はあるし、操縦室なんか論外だ。
下層部もカーゴルームにはやっぱり丸窓があり、外の景色を見ることが出来る。
無いのは、機関部と倉庫位か。
とはいえ、彼らに籠ってもらう部屋は既に見繕ってあるため、特に気にすることもなく、そのドアを開いた。
「じゃあ、三人ともこの厨房に居るように。というか、昼食の準備を頼む」
「はい、任せてください!」「仕方ないわね」「………」
先程狩ったコッコゥを渡すと、三人は早速捌き始める。
といっても、解体機能を使ってあっという間に終わったけどな。
若干、クレアの目が呆れているように見えたのは、気のせいだろう。
解体の終わったブロック肉から、皮を剥ぎ始めた二人。
その間に、アレク君は他の食材の下拵えにかかるようだ。
「一時間ぐらいで到着する予定だから、到着したら昼飯にしよう」
「分かりました」
「それと、もしかしたら急に揺れる可能性もあるから、その辺は気を付けるようにな」
「ハイ!」
操縦アシストがあるとはいえ、シャーロットの操縦だからな……火と刃物の取り扱いには十分注意してもらわないとな。
料理をひっくり返してダメになる程度ならまだしも、火事や流血沙汰は勘弁だ。
まぁそんな俺の心配も杞憂のようだけどな。
アレク君は、慣れない筈の厨房に加え足元が揺れるような環境下でも、生き生きと作業している。
そんな彼を、皮剥ぎを終えた二人がサポートに入る。
どうやら俺の出る幕はなさそうだ。
ここは彼らに任せるとしよう。
厨房のドアをそっと閉じた俺は、多少の寂寥感を感じながらその場を後にした。
クレアに扱き使われる前に、逃げたともいう。
不意に一人になってしまった俺は、ジッと食堂の壁(船尾側)を眺めている。
変な絵や地図が飾っているわけでもなく、ただただ平らな壁がそこにはある。
右(左舷側)を見る。
湾曲した壁には丸窓が付いている。
湾曲しているのは飛空艇の形状にそっているからだろう。
左(右舷側)を見る。
といっても、左舷側と変わらない湾曲した壁がそこにはある。
後ろ(船首側)を見る。
平らな壁があり、出入り口である中央のドアを挟んで、ライブキッチンとバーカウンターが鎮座している。
もう一度正面(船尾側)の壁を見る。
やはりが平らな壁ある。
そう、平らな壁だ。
クレアに向かって言ってはいけないワード、第一位だろう。
……ではなく、飛空艇の形状を考えるならば、この壁はかなりおかしい。
船首にある操縦室の形状を思い出す。
あの部屋は、ラグビーボールの先端の様に湾曲して、骨組みが組まれていた。
ならば、この船尾側の壁だって同様に湾曲していてもいい筈。
だが、実際は平らなままだ。
後ろを振り返る。
船首側の壁は平らだ。
何故なら、その先には客室と厨房があるからな。
湾曲していたら、その先の部屋の壁がおかしくなる。
もう一度、目の前の壁を今度は『概観視』を使って観察する。
すると向かって右側の方に、妙な違和感を感じた。
……同じだ。
この部分だけ床下収納の時みたいに、壁の模様に継ぎ目があるのだ。
やはり、この壁の先には何かある。
そう確信した俺は、継ぎ目に指を這わせる。
『MP1を消費し「区画:テラス」を解放しますか? MP54/55』
当然YES。
『「中層部区画」が全て解放されたことにより、「スキル:飛空艇召喚」がレベルアップしました』
『「スキル:飛空艇召喚」がLV5となったことで「機能:ガイドフェアリー」が解放されました』
そんなスキルアップを告げるウィンドウから、光の玉が飛び出す。
<ハジメマシテ マスター>
思わずガッツポーズをしてしまった。
だってガイドだよ? ガイド。
これで手探りだった飛空艇の能力も、少しは分かるようになるはず。
……なるよね?
<ハジメマシテ マスター>
<ハジメマシテ マスター>
<ハジメマシテ マスター>
あー、はいはい。
浮かれるあまり、ガイドフェアリーとやらの事を忘れてた。
スマンスマン。
謝るように、そっと触れてみる。
ほんのりとした温かさを感じる。
「よろしく頼むよ」
<マスター、ナマエ>
「ナマエ? あぁ俺はショータ。この船の船長だ」
<ショータ、センチョー>
「あぁそうだ。お前に名前はあるのか?」
<ナマエ、ナイ>
ダンデライオン号とは違うのか。だったら……
「お前の名前はそうだな……よし、タンポポだ」
<タンポポ、タンポポ>
光の玉、もといタンポポは嬉しそうに俺の周りをグルグル回る。
飛空艇の名前がダンデライオン号なら、そのガイドフェアリーの名前は『タンポポ』にしたくなるよな。
光の玉だって、なんとなく綿毛の部分にも視えるし。




