第261話 別ルート
メルタさんはギルドの職員に引き渡されると、その職員を伴うかのようにスタスタと二階に消えて行った。
きっとベテランな彼女にしか出来ないような案件が溜まってしまっているのだろう。
二階へと向かう彼女の姿は、キリッとした表情といいピシッと歩く姿といい、まさにデキル受付嬢! って感じだった。
そんな彼女に、「頑張ってください」と心の中で敬礼する。
さて、用も無いのにギルドに来てしまった訳だが、来たからには依頼でも確認しておくか。
塩の採取のついでに出来そうな依頼があれば、受けておくのもアリだろう。
というか、依頼をやって時間を潰す必要があるのだ。
採取だけなら日帰りでも出来るが、それだとガロンさんに「日帰りで戻ってこれる場所にあるのか?」と訝しまれる。
前回、甕の塩を持って行った時は一日置いて持って行った訳だし、今回も一泊する必要がある。
かといって、絶景とはいえ塩の平原にずっといるのもな。
あそこって塩以外何もないのだ。
ただただ塩が広がるだけで、遊べる場所も無ければモンスターがいる訳でもない。
案外、直ぐに飽きる可能性もある。
そんな空いた時間を潰す為にも依頼を受けておいた方がいい訳だ。
依頼か……昨日のクロゲワ・ギュ―のお陰で、しばらく困らない程度に稼げはしたが、冒険者をやめるつもりはない。
身を守れる程度の強さは必要だし、その為にも冒険者を続けていく方がいい筈だ。
まぁ、基本方針は『命を大事に』だけどな。
間違っても『ガンガン行こうぜ』ではない。
ガンガン行った結果、トロールに殺されそうになった訳だしな。
ハイリスクハイリターンなんて流行らないのだ。
とはいえ、いつまでも薬草採取ばかりしているつもりもない。
次のランクになれば、ダンジョンに入る事が出来るようになるからだ。
ダンジョン。
ファンタジーの定番であり、一攫千金を夢見る者たちが挑む場所。
飛空艇もダンジョンらしいが、ソレとコレとは別だろう。
そして、この町のダンジョンには、俺の着ている皮鎧の素材でもある地竜とやらがいるらしい。
竜か……やはり一度は挑んでみたいものである。
飛竜は碌に姿を見る事も出来ず、逃げ出したしな。
その為にも、一歩づつ進んでいかなくては。
依頼の貼られた掲示板の前に移動する。
多少混んではいるが、掲示板が見えない程でもない。
この前のランペーロ十頭納品のお陰か、絡んでくるような連中もいない。
もう新人冒険者への洗礼を受けることは無いのだろうか。
「ショータか。残念ながら、面白そうな依頼はなさそうだ」
「そうか……クレア達が受けたカニ、もとい水蜘蛛の依頼でもあれば受けてみたかったんだけどな」
「あれは昨日限定の依頼らしいな」
昨日依頼を受けた連中が張り切り過ぎたようで、その日だけで大量発生した筈の水蜘蛛が、絶滅の危機に瀕しているんだとか。
今では勝手に狩らないようにとの張り紙まで出されている始末だ。
こんな事なら、昨日のカニをもっと貰っておくんだったな。
目ぼしい依頼も無いので、いつもの薬草採取を一つだけ受けておく。
ランクが上がっても、やることは一緒なのか。
かといってゴブリンの討伐とかはシャーロットが嫌がる訳で、おのずと選択肢が限られてくる。
「ダンジョンに入れるようになれば、そこ限定の薬草採取の依頼が出来るようになるな」
おい、まさかダンジョンでも薬草採取しかしないつもりなのか?
ダンジョンに行っても採取限定のままだったら、彼女とのパーティーを見直すべきか。
塩の採取に行く筈の俺が薬草採取の依頼を受けているのを見て、クレアが不思議そうな顔をしている。
まぁ確かにあの場所を知らなければ仕方ない。
なんか秘密の洞窟の奥でコッソリ掘ってるとか、勘違いしてるみたいだし。
敢えてその勘違いを訂正していないのは、あの光景を前情報なしで見てもらいたい。
そんなサプライズを企画している俺であった。
が、一応クレアにも、似たような量の採取依頼を受けておくように伝える。
これを黙っておくと、あとで確実に恨まれる。
要らぬトラブルは、未然に防ぐのが賢いやり方ってヤツだ。
依頼の受注も済ませた俺達は、一路南門を目指す。
ギルドの場所が中央よりも南側にあるせいか、北門周りよりは例の墓標に近いし。
馬車でしか出入りしたことのない南門を徒歩でくぐると、そのまま壁に沿って西へ歩く。
壁の端で北へと進路を変え、そのまま草原を突っ切るように墓標を目指す。
先導は俺だ。
アレク君達は墓標の場所をそもそも知らないし、シャーロットは当てにならない。
時折見かけるコッコゥを狩りながら、一行は進む。
……あれ? この辺だったよな?
いつもは北側からしか来ないからか、少々? 多少? 結構? 迷ってしまう。
いや、その分コッコゥを狩れたから結果オーライのはずだ。
その内の一羽はメスだったらしく、近くの巣には卵まであったしな。
計四個の卵を手に入れることが出来た俺達は、遂に墓標へと到着する。
時刻はお昼近いになってはいたがな。
周りに誰も居なければ、どこでも良かった事に気が付いたのは到着した後だった。




