第26話 宿屋
「これで5羽目か。日も暮れてきたし、引き上げるか」
あれからコッコゥ探しは順調だった。所々ある岩や木に登り、上からみれば黒いのがあちこちにいるのがわかった。
あとはそっと近寄って、槍を突き出す。うまくすれば一撃で倒せる。ただ攻撃が外れたりして、反撃さを喰らう場面もあった。それでも嘴を盾でいなし、槍を刺す。防御をしっかりすれば、恐れることはなかった。
(弓でもあれば、近付く前に一撃加えられるかなぁ)
だが弓は結構値段がかかる。マルクさんの店でも銀貨5枚位はした。更に矢は消耗品だ。回収はできるけど全部じゃない。
まぁ弓じゃなくてもいい。なにか遠隔攻撃の手段があると、もうちょっと安全に狩れるかなってだけだし。
なにか考えてみるか。手っ取り早いのは石だな。何処にでもあるし、何よりタダだ。
でもさっき試してみたけどダメージが今一つだった。強めに投げても多少ひるむ程度だった。
投げナイフとか?予算がないな。手入れもあるし、無くす場合もある。
もっと低予算でかつ有効打を与えられる遠隔武器が欲しい。
まぁ明日だな。これ以上獲れても、持ちきれない。買っておいたロープでコッコゥを縛り、町の方に歩いていく。
門では特に問題はなく、ギルド証をみせてそのまま入れた。ついでに井戸で水筒に水を入れておいた。 ギルドにたどり着く。夕暮れ時だけあって結構混んでる。大人しく並んで待つ。日本人だしな。あ、元か。
絡まれることもなく、換金を済ませる。人が多いし、テンプレ発生するかなぁと警戒してたが、すでに絡まれてた新人がいたらしい。そしてあっさり返り討ちにして喝采を浴びてたそうだ。
結局コッコゥ5羽で銀貨3枚になった。血抜きしてた分割り増しされたようだ。忠告感謝だな。
多少懐のあったまった俺は、今夜の宿を探そうと通りを歩く。一応ギルドでおススメの宿は聞いておいた。1泊朝夕食事付きで大銅貨5枚。格安らしい。
おススメの宿屋の前に辿り着く。おお、デカい。3階建てかな。木造だけど新築っぽく、しっかりしたつくりだ。
ん?向かいにも宿屋があるな。こっちは石造りの2階建て。なんかこじんまりしてて、こっちの宿屋に比べると、ぶっちゃけみすぼらしい。なんか人形持った幼女が道端で落書きしてるし。
気にせず、おススメの宿屋に入る。入るとき幼女に睨まれた。なんかしたか?おれ。
ロビーには受付の男性が一人、イスに座ってるだけだった。なんだろ?雰囲気がどっかで見たことあるような無いような。
あぁ、コンビニのバイトが持ってる雰囲気にそっくりなんだ。あのやる気のなさそうな目付きなんか特に。
「いらっしゃいやせぇー、お泊りッスかー?(ちっ、ヤロウかよ)」
なんか心の声が漏れてるー。
「ええと、ギルドで聞いてきたんですけど、この宿1泊食事付きで大銅貨5枚で泊まれるって本当ですか?」
「えぇー、それ3泊からなんスけどー。1泊だけだと大銅貨8枚ッスねぇー」
まじか!どうすべ。連泊してもいいけど3泊はなぁ。いいや1泊で。
「じゃあ1泊でお願いします」
前金制らしく大銅貨8枚を男に渡す。宿帳への記載はないようだ。
「まいどー。じゃあ部屋は2階ッスー。上がって左側の部屋ッスよー」
え?カギは?カギは無いの?
「あ、そのプランは大部屋プランッスよー。みんなして雑魚寝ッスー」
まじか!!貴重品とかどうしてんだ?
「ちなみに個室プランは1泊だと銀貨2枚からッスよー」
まじか!!!なんか騙された気がする。
「あとメシは1階の食堂ッスよー、夜は日没からで、朝は日が昇ってからッスよー。開いてる時間は食堂の蠟燭が消えるまでッス」
うーん開いてる時間がわからんな。なるべく早めに食べるとしよう。
「じゃぁごゆっくりー」
そういってヒラヒラと手を振るヤロウ。ヤロウで十分だな。案内もしないらしい。結局座ったままだったし。
まぁいい。日本のホテルなら考えられないが、こっちじゃこれが当たり前なのかもだし。
2階への階段を上がる。途中踊り場で受付を見たら、ヤロウが大銅貨を一枚自分のポケットに入れるのが見えた。
一瞬ブチ切れそうになったが、チップ制度を思い出す。あれはあのクソヤロウへのチップ分なんだと、そう思うことにした。揉め事は面倒だし。
後で聞いたら、そんな制度はなく単に騙されただけだった。ぶん殴るべきだった。




