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第251話 蟹

話が……進まない……

「…………」俺。

「…………」シャーロット。

「…………」ガロンさん。

「…………」マデリーネさん。

「…………」マロンちゃん。

「…………」アレク君。

「…………」クレア。

「…………」ベル。

「…………」メルタさん。


 皆、黙々とカニを食べている。

 異世界でもカニを食べるときに、無言になる法則は変わらない様だ。


 俺が変な計略を張り巡らさずとも、直ぐに追加のカニは用意していたらしい。

 ガロンさんとアレク君で試食は済ませ、これならイケる、と残りのカニを蒸しているそうだ。


 カニもアレク君達が狩って来た五匹以外にも、解体場に持ち込まれた分を貰って来てあるので、この人数で食べたとしても十分だろう。

 そういえば例のカニ討伐の依頼をこなしたのは彼ら以外にもいたようで、結構な量のカニが打ち捨てられてたな。


 この味を知らなかったとはいえ、勿体ないことをしてたと思う。

 メルタさんなんて、今まで廃棄したカニの数を数え始めたほどだ。


 まぁそんな過去の事は気にしない

 だって今日はカニ食べ放題だからな。




「…………」俺。

「…………」シャーロット。

「…………」マデリーネさん。

「…………」マロンちゃん。

「…………」クレア。

「…………」ベル。

「…………」メルタさん。


 現在、カニ待ちである。

 ガロンさんとアレク君は、その様子見。

 俺達は、まだかまだかとジッと厨房を見つめている。


 食べ放題とはいえ、蒸す時間が必要なことに変わりはない。

 特にこのカニは中型犬位のサイズの為、火が通りにくいのである。

 流石にこのサイズが入る蒸籠だと、今使っている一台しかなく、蒸す時間の方が食べる時間よりも長くなってくるのだ。

 一瞬で蒸しあがる魔法とか無いのかね。


「ある訳ないだろう」

「水やお湯や氷が出せるなら、水蒸気だって出せるんじゃないのか?」


 シャーロットは氷のジョッキを魔法で作っていた。

 ついでにいえば、魔法で出したお湯で湯煎までしてた。


 つまり水を出しつつ、その熱を奪ったり、加熱したりする魔法を使っていたことになる。

 だったらお湯を出すときの温度を、もっと上げれば蒸気になるよな?


「………!」


 なんだその顔は。

 まさか、その発想は無かったとでも言いたいのか?


「……やってみよう」


 シャーロットが手の平を上にしたまま、目を閉じる。

 様々な魔法をポンポン使いまくる彼女でも、やった事のない魔法だとそれなりの集中が必要なようだ。

 何やらブツブツ呟いていると、次の瞬間、その手の平に魔法陣が浮かび上がる。


「あっちぃ!!!」

「おっとスマン」


 シャーロットの手の平の上に蒸気が発生したのはいいが、その蒸気がこっちに流れてきやがった。

 幸い、直ぐに魔法がキャンセルされたので大事には至らなかったが、場合によっては大火傷になる所だった。


 しかしこれで蒸気を魔法で出すことは出来ることが分かった。

 あとは上手い事蒸気を閉じ込めてやればいい筈だ。


「いや……これは使えないな」

「ダメなのか?」

「前にも言わなかったか? 魔法をずっと維持するのは結構な手間なんだぞ?」

「そうだったな」


 冷めた串焼きサンドを温め直すのに魔法で出来ないか聞いたら、ムリだとか言われたな。

 魔法には時間当たりの維持コスト的なものが設定されていて、維持コストゼロな土壁やら氷ジョッキと違い、熱や水をずっと出し続けると結構な維持コストがかかるらしい。


 まぁそのコストを限りなくゼロに出来る方法もあるらしいけどな。

 飛空艇に使われている浮遊石なんて、その最もたるものだ。

 あれは『浮遊』という魔法を、ノーコストで使い続けている訳だしな。

 実際は使用者の魔力の代わりに、周りからエネルギーが供給されているのだ、はシャーロットの話だ。


 まぁとにかく、温める魔法と同じで、ずっと蒸気を出し続けることは無理らしい。

 魔法ってのは、便利なようで便利じゃないな。


 そんな話をしているうちに、お代わりが到着した。




「…………」俺。

「…………」シャーロット。

「…………」ガロンさん。

「…………」マデリーネさん。

「…………」マロンちゃん。

「…………」アレク君。

「…………」クレア。

「…………」ベル。

「…………」メルタさん。


 どうでもいいが、さっきから誰も喋らない。

 きっとこのカニ蒸しには『沈黙』の追加効果があるに違いない。


 例の引き出しの中にあったカニスプーンとハサミは提供済みだ。

 脚がデカすぎてカニスプーンじゃ逆に大変そうだが、みんな身をホジホジするのに夢中になっているようだ。


 多分夕食が終わるまで、こんな様子が続くのだろう。

 

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