第248話 牛一頭=鶏一万四千四百羽
早速このカニが食えるか、ガロンさんへ聞きに行こうとしたが、誰かに袖を掴まれる。
その手は力強く、容易に振り解けそうにない。
「ショータ様。それよりも納品を……」
メルタさんだった。
絶対に逃がしませんよとばかりに袖が握りしめられる。
ちょ、引っ張る力が強いよ。
某芸人ですら両袖を引きちぎってタダのノースリーブにしただけなのに、片方だけ袖無しじゃよりワイルドになってしまう。
「分かりました。どこへ出せばいいんですか?」
「はい、この台へお願いします」
カニを解体している台とは別の、結構デカめの解体台にメルタさん(と俺)が向かう。
相変わらず彼女が俺の袖を放そうとしないからだ。
もっとも、クロゲワ・ギューはシャーロットが持っているから、俺が行ったところで意味は無いのだが。
「あの……そろそろ袖を……」
「……」
未だ袖は掴まれたままである。
しかも時折、不意打ちのように引っ張るため、いつ片スリーブにされるか分かったもんじゃない。
超ワイルド芸人化する前に、出来れば早く放してほしい。
そんな俺の不安など知った事か、とばかりにシャーロットはニヤニヤしながらカニの解体を眺めている。
あんニャロウ、こっちの状況を分かったうえで無視してるな?
そんなに俺の「超ワイルドだろう?」を見たいのか。
グイッ。
今度は袖ではなく腕が引っ張られた。
多分メルタさんとしては「さっさと出しなさい」程度に引っ張っただけだろう。
だが俺には「出さないならお前の左腕を、査定してやろうか?」としか思えない強さだった。
「しゃ、シャーロットさん? そろそろ納品をしませんか?」
「……分かった」
ようやくクロゲワ・ギューが解体台に提出され、俺の腕と袖は解放された。
多分、あと一分遅かったら、俺の左腕が袖ごとあの上に乗っていただろう。
「この量だと、そうですね……金貨五十枚といった所ですかね?」
「分かりました。その金額で結構です」
この会話。前者がメルタさん、後者が解体係である。
デキル受付嬢は買取業務であっても有能なようで、彼女が一目見ただけで査定が終了した。
肉だけで金貨五十枚。
魔石と討伐証明部位である角も納品して、更に金貨二枚。
ガロンさんから受け取っている分も合わせれば、金貨七十二枚となる。
シャーロットと二人で山分けしても、金貨三十六枚。昨日の報酬も合わせれば、金貨四十枚だ。
ガロンさんの串焼きサンドが何個食べられるんだ? 銀貨一枚で五個だから……二万個?
コッコゥが絶滅しそうだ。いや、その前に食い切れないか。
コッコゥの討伐依頼(肉込み)だと……一万四千四百羽分だ。
こっちでも絶滅確定だな。
この世界に来た時は無一文だったことを思えば、結構な金持ちになった気がする。
この金があれば、ケモ耳やシッポもオサワリOKな奴隷だって……イエ、何でもないです。
「では代金になります」
買取カウンターで、金貨の入った袋を受け取る。
厳密には大金貨六枚と金貨十二枚の入った袋だ。
金貨十枚で大金貨一枚らしい。
ちなみにその上にミスリル貨、大ミスリル貨となっていくと、シャーロットが教えてくれた。
まぁそんなの使うのは国家間のやり取り位らしいけどな。
一応その場で確認もする。
買取カウンター自体ちょっと離れたところにあるうえ、確認してる間に他の奴らから見られることが無いよう、周囲には衝立も置かれているので安心して確認ができる。
ひーふーみー……うん、間違いなくあるな。
シャーロットにも確認してもらい、半分こした。
無事買取も終了し、アレク君達三人と合流する。
彼らも水蜘蛛、もといカニが食えるのか興味があるようだ。
勿論さっきのカニはシャーロットの巾着袋に入っている。
あ、マジックバッグといえば……
「なぁ、マジックバッグって結構高いのか?」
「まぁ、それなりだな。なんだ? お前に渡したヤツの代金は要らないぞ?」
機先を制されたか。
マジックバッグは、俺が持ってるヤツですら多分金貨以上が必要で、ちょっと会っただけの奴にポンと渡せるような物じゃない筈だ。
変なキノコの対価だったとはいえ貰い過ぎだろうから、この機会に少しでも返金しようとしたら、先に断られたか。
「あのフリューにその価値は十分にある。気にせず持っていろ」
「分かった」
彼女の寛大さに感謝しよう。
17/10/04 表現の重複を訂正
今だ彼女は俺の袖を放そうとしないからだ。
→相変わらず彼女が俺の袖を放そうとしないからだ。




