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第244話 人形作り

「で、この金串に、ギザギザを付ければいいのか?」


 フランさんが金串を見ながら聞いてくる。

 コイツはネコミミ店主の雑貨屋へトンボ返りして買い込んだ代物だ。

 フランさんに聞いたら、ウチじゃ扱ってないって言われた為である。


「えぇ、先っちょの部分にこんな感じのを付けてくれませんか?」

「うーん、変な依頼だがまぁいい。やってやる」

「ありがとうございます」


 オーダーは例のごとく丸投げ方式だ。

 俺があれこれ口出すより、お任せにした方が遥かに効率がいい。

 いや、望む形を伝えることが出来るのも、割かし重要なはず。


「あ、それと羊毛っていうか毛皮は扱ってます? 出来れば毛の長いヤツがいいです」

「毛皮? まぁ鎧の裏地代わりに使う事もあるから、あると言えばあるが、毛の長いのか……」


 俺の注文にフランさんが奥の工房から出してくれたのは、コートにも出来そうな見事な毛皮だった。

 これを表地にしてフッサフサの皮鎧を作る予定だったという。

 いや、そんな立派なのじゃなくて、もっと毛玉みたいのなので十分です。


「となると、こんなのしかないぞ?」

「おー、これで十分です」


 フランさんが次に出してきたのは、バオムヴォレとかいうトレントの一種から採れる綿っぽい何かだった。

 通常のトレントなら、頭?の部分に葉っぱが茂っているが、コイツの場合、綿が茂っているそうだ。

 しかも個体によって綿の色も違うらしい。

 俺が着てるような丈夫な服には、その綿から紡ぎ出した糸を使うとかなんとか。


 尚、このバオムヴォレ。

 普通に倒すだけなら綿の部分を燃やせばアッサリ死ぬので、種火の便利魔法が使える奴ならそれほど苦労はしない。


 ただ綿を残したまま倒そうとすると、割と面倒になる。

 攻撃力はそれほどでもないが、幹の部分がやたらと硬く刃が入りにくいのが原因だ。

 あまりの硬さに、綿目的の連中の中には葉っぱならぬ綿を飛ばす攻撃を待って、ひたすら耐える戦法もあるほどだとか。綿を飛ばすって攻撃力有るのか?


 まぁそんな変わり種のトレントの話はどうでもいい。

 大事なのはコイツであの人形が作れるか否かだ。


 フランさんが作ってくれた串を使い、ザクザクと毛玉に刺していく。

 そんな俺を興味深く見つめる、フランさんとマルクさん。あとシャーロット。

 手のひら大サイズの毛玉を楕円形に整えながら、次第に形作られていく人形。


 途中、一度ザクっと自分の指を刺したのはお約束か。

 まぁ、すぐにシャーロットが治療してくれたし、真っ白な毛玉に付いた血も彼女の浄化で驚きの白さになったけどね。


 俺の左指を犠牲にしつつも針を刺し続ける事、数十分。

 遂に目的の人形は完成する。


「……完成だ!」

「「「こ、これは…………タマゴ?」」」


 三人が同じ感想を述べる。

 まぁ真っ白な毛玉だったし、初心者の俺が凝った形状のものなんか作れる筈もない。

 それでもタダのまん丸綿飴にしなかっただけマシだと思う。


「針でつつくだけで出来るのか……」

「あぁ、簡単だろ? あとは作り手のセンスと技術次第だな」


 そう言ってシャーロットにタマゴ人形と針を渡す。

 これで彼女も、あんな顔をしなくなるだろう。

 パンが無ければお菓子を、とはマリーさんが言った事にされてるらしいが、人形が無いなら自分で作ればいい、は俺の言葉にしておこう。


 あの時、俺はシャーロットに「あの人形なら作れる」といってしまった。

 だた、作り方を知ってるだけだったから、ちゃんと出来るか不安だったことは内緒にしておく。

 勝てば官軍なのだ。


 その後は必然的に、人形作り教室が開催される。

 会場は武器屋の工房。

 講師、俺。生徒、シャーロット、フランさん、マルクさん。


 もっとも、マルクさんがやたらと呑み込みが早く、アッサリ講師の座を明け渡したがな。

 それぞれが作り方を習得し終わると、当然のごとくコンテストが開催される。


 といっても、作品の出来はマルクさんがブッチギリで、教えてもいないのに色を使い分けたり、中に芯棒を入れることまで思いついていた。

 次点は当然フランさん。マルクさんに負けて悔しがるかと思ったが、そうでもないのは夫婦の絆というヤツか。

 三位、シャーロット。まぁ俺のに比べれば多少はマシ程度だけどな。

 ビリ、俺。やはり黄色い毛玉を使った『萩〇月』は評価がイマイチのようだ。


 ちなみにシャーロットの作品は、白くて細長いナニカだった。

 俺よりは細くて長い分、手をかけているってことで三位だという。


 だが俺は声を大にして言いたい。

 なんだか良く分からないものよりも、実在しているお菓子の形の方が優れているんじゃないかと!

 まぁこの世界に『萩の〇』はないけどな。

 ついでに言えば、外見は只の黄色い饅頭型スポンジだしな。

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