第242話 採掘セット
「じゃあ、これを持ってみろ」
「はい」
フランさんが子供の頃使っていたというツルハシを持ってみる。
重量自体は大丈夫だったが、流石に柄が短すぎる。
これじゃ登山に使うピッケルといい勝負だ。
元々体格が小さいフランさんの、更に子供の頃用なのだから仕方ないけどね。
けど、俺がまともに使える道具はこれ以外ないようだし、塩を掘り出すだけだから十分だろう。
フランさんに大銀貨一枚を支払い、採掘セットは手に入れることが出来た。
余談だが、この採掘セット。実はフランさんの初作品らしい。
ドワーフは、自分の道具は自分で作れるようになって、ようやく半人前と認められ、工房に入る事が許される。
「アタシはコレで親父に認められたんだ」
と、ちょっと誇らしげに語ってくれた。
なお、一人前と認められる為には、武器でも防具でも何でもいいから、自分自身の型を作れるようになれたら、だそうだ。
マルクさんはこの辺で鍛冶屋になる事を諦めたらしい。
オリジナルってのは難しいよな。でも、誰かの模倣だけじゃいつまでたっても成長しないのは、どの世界でも一緒か。
俺も、初めてリーダーとしてプロジェクトをキチンと回せたとき、上司から一人前って認められた覚えがある。
まぁ今にして思えばプロジェクトというには大袈裟だった気もするけどな。
ついでに、結構先輩がフォローしてくれてたらしいし。
「そんな大事なモノを俺に売ってしまってもいいんですか?」
「いいんだ。道具ってのは使ってナンボだ。倉庫の奥で眠らせておくより、誰かに使って貰った方がずっとマシだろ?」
「でもいつかフランさんに子供が出来たら、その子に使って貰うとか、あったんじゃないですか?」
「! その手があったか……いや、いい。子供には自分で作るように育てるさ。アタシに出来たんだ。きっと大丈夫だ!」
「分かりました。有難く頂きます」
「あぁ。その代わり大事に使ってくれよ!」
「はい!」
「よし、じゃあマルク。あとは任せたぞ!」
そう言ってフランさんは店の奥へと去って行った。
その去り際、マルクさんに向ける眼差しに、大人の色気が垣間見えた気がする。
きっと今夜はハッスルするんだろう。
採掘セットは無事入手できた。
次の目的地は家具屋さんだが、俺あの店の場所を覚えていないんだよな。
「次はベニヤ板を買いたいんだけど、あの家具屋さんの場所、覚えてるか?」
「あそこか。あの店は……ここからだと、どう行けばいいんだ?」
「え?」
「私が覚えているのは、大通りからあの店までの道だけだ。ここからだと多分遠回りになるぞ?」
左様ですか。
そういえば、あの時も大通りから向かったな。
あの時は既に大通りを歩いていたから気にしなかったが、そんな事情があったのか。
ただ、シャーロットの方向音痴の理由が分かった気がする。
コイツ、頭の中に地図が描けていないタイプだ。
多分自分が行った事のある道しか覚えていないんだろう。
だから誰かに道を教えてもらっても、見当違いの方に行くんだ。
まぁ行ったはずの道すら覚えていない俺が言えた義理じゃないがな。
「まぁ大通りに出れば分かるんなら、多少遠回りでもいいんじゃないか?」
「そうか?」
「今日は休みだしな。急ぐ理由もない。ノンビリ行けばいい」
「それもそうだな」
最短ルートだけが、ルートじゃない。
元々町ブラする予定だったし、多少の遠回りは大歓迎だ。
知らない道って、何かワクワクするよな。
ん? その考えだと、このまま大通りに出るのはおかしいのか?
角があったら曲がるの精神が必要か?
……迷子になるのがオチか。
シャーロットの案内に従って、大通りから家具屋へ向かう。
二度目の来店だが、店主はシャーロットの事を覚えていたようだ。
あの板をもう一枚欲しい、と告げると、直ぐに取って来てくれた。
「お客さん、ついてたね。これが最後の一枚だよ」
「そうですか」
「あぁ。なんか今朝、急に売れまくってな。慌てて工房に注文したところだよ」
さっき見かけたサンドイッチマンが脳裏に浮かぶ。
アイツ等のせいで、危うく俺のベニヤ板が無くなる所だったのか。
サボってる上、俺の買い物まで邪魔するとは、何て奴らだ。
客からドン引きの呪いでもかけてやりたい。
いや、大注目されて、普通の格好で歩けなくなる呪いの方がいいか。
どっちも使えないけど。
サンドイッチマンへの恨みはさておき、銀貨一枚を支払いベニヤ板を手に入れる。
これで今日の予定は完了だ。
あとはこのまま町ブラするぐらいしか残っていないが、目的地がなぁ。
ここにきてガイドブック頼りの弊害が出てしまうとは……
シャーロットも無いだろうし、当てもなくぶらつくしかないのかね。
いや、もしかしたらあるかもしれないし、ダメ元で聞いてみるか。
「ショータ。寄ってみたいところがあるんだが……」
あったようだ。




