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第241話 ショッピング

 塩を採りに行くで思い出した。

 雑貨屋で塩を採掘するためのスコップを買う必要があるんだった。

 それに持ち運びドアの為のベニヤ板もだ。


「シャーロットはこれから……いや、何でもない」

「なんだ?」


 訝しむシャーロットだが、さっきの反応からすると、彼女のこの後の予定は恐らく無い。

 ならこのままデートもどきを続けるのもアリだな。


「俺はこれから雑貨屋で買い物する予定だけど、付いてくるか?」

「雑貨屋というと、あの魔道具を買った店か?」

「あぁ。あそこなら採掘セット位扱ってるだろ」

「……あの店、扱っていたか?」

「知らん。ダメなら他をあたってみるさ」


 要は塩を掘り出すためのアイテムさえ手に入ればいい訳だからな。

 最悪、盾と一緒に手に入れた、この鉈もどきのナイフで切り出してもいい。

 錆びそうだからやらないけどね。


「だが採掘セットなんて何に使うんだ?」

「何にって、そりゃ塩に決まってるだろ」

「なるほど。ガロン殿からの依頼の件か」

「あぁ。今回はたっぷり採ってこないとだから、ちゃんとした道具が必要なんだ」

「確かに、洞窟での採掘には、道具が無いと大変だろうな」


 洞窟? 何をバカなことを……って、シャーロットに塩の平原の話、したっけ?

 たしか彼女に教えたのは、魔の山で塩を手に入れたって事だけだったし、そのあと彼女は魔の山の事に触れて欲しくなさそうな感じだったので、塩の平原の事は言えなかった覚えがある。

 もしかして、彼女は俺が魔の山にある洞窟で、鉱床――いや岩塩だから塩床か?――を見つけたと勘違いしているのか?


 ……よし、塩の平原の事は黙っておこう。

 塩採りに同行させて、あの絶景と、それを作っている物の正体を知った時の反応が楽しみだ。


「そうだな。あの時はまともな道具が無かったからかめ一つ分しか持ち出せなかったけど、ちゃんとした道具があれば、いくらでも持って来れるだろうな」

「それほどなのか?」

「あぁ、多分だがこの町の連中が使ったとしても百年以上はもつ程だろうな」

「そんなになのか?!」


 見渡す限りの塩だったし、厚さもかなりあったから、さほど間違ってはいない筈。


「あの山に、それ程の埋蔵量が……ならば向こうからも調査を……いや、もう……」

「おーい? 置いて行くぞー?」


 なんか、また考え込み始めたし。

 考え込むのはいいが、通りのど真ん中で立ち止まっていると、周りの人に迷惑になる。

 仕方ないのでシャーロットの手を取り、歩き出す。

 彼女は考え込んだままだったが、手を引くと素直に歩きだしたので、そのまま雑貨屋に向かった。




「雑貨屋のくせに採掘セットも置いてないとは……」

「まぁそういうな。その代わり、扱ってる店は教えてくれただろう?」


 シャーロットの手を引いたまま雑貨屋へ行ってみた。

 まぁ途中で気が付いたシャーロットが、慌てて手を振り解いたのはちょっと寂しかったが。


 一応、雑貨屋と名乗るだけあって、塩を入れるのに丁度良さそうな麻袋っぽいのはあった。

 だが肝心のスコップやらツルハシは置いていないという。

 冒険者向けのアイテムを扱ってる割には品揃えが悪い店である。


 まぁネコミミ店主の言い分じゃ、この前売れたばかりで仕入れていないだけらしいが、どこまで本当の事やら……。

 勿論ベニヤ板も扱っていない。

 渋々麻袋だけを買い、他に扱ってそうな店を教えてもらったが、その情報も、


「たぶん武器屋なら扱ってる気がするにゃ~」


 だけだった。実に役に立たない。

 やはり耳と尻尾を引っこ抜くべきだろう。

 猫とはいえ、奴の耳と尻尾を付ければ、もしかしたらタマちゃん懐いてくれるかもしれない。


 ……シャーロットが俺の背後で、祖母直伝チョップの素振りをし出した。

 俺は正気の筈だが、習ったことを早速試したいのだろう。

 練習台にされてはかなわないので、俺はそのうち、考えるのをやめた。




 武器屋といえば、マルクさんとフランさんのドワーフ夫妻が営む武器屋ぐらいしか知らない。

 という事で、三度目の来店である。

 

 いつものようにマルクさんが応対してくれた。

 けれども、この店ではスコップやツルハシ等は扱っていないらしい。

 あのヤロウ、いい加減なことを教えやがったな?

 今度会ったら絶対引っこ抜く。


 だが捨てる神あれば拾う神あり。

 アタシが昔使ってた奴なら、とフランさんが店の奥へ入っていく。


 暫くして戻って来た彼女の手には、スコップやらツルハシ以外にも、大小のハンマーやたがねといった、採掘に必要そうなものが一式揃っていた。

 それらの道具をフランさんは「ほいよ」と無造作に投げ寄こす。


「んぎゃーーーーーーー!!」


 思わず受け取ってしまった後に気が付いたよ。

 またこのパターンかと。


 いかにも重そうなハンマーが見えてたんだから気が付け、俺。

 案の定、持ちきれずに足元へ落としてしまいました。




「すみません。もうちょっと軽い奴はありませんか?」

「なんだ? これ以上軽いのだと、アタシが子供の頃使ってた奴ぐらいしかないぞ?」


 そういってフランさんは再び店の奥へ消えていった。

 ドワーフ基準だと、あれでも軽い方らしい。

 俺の細腕じゃ大ハンマーは勿論、ツルハシすら碌に振るえなかったよ。

 この際おもちゃのシャベルでも十分です。


 ちなみにシャーロットはこのやり取りを、後ろで黙ってみてたようだが、必死になって笑いをこらえている気配がした。

 後で褐色スライム揉みしだきの刑だな。

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