第233話 護符
「はい、終わりましたよ」
「「ありがとうございました」」
「いえいえ。これも神様からの御縁ですから。それと祝福を授けた方にお配りしている護符があるのですが、よろしかったらいかがですか?」
「護符……ですか?」
そう言って神父さんは何枚かの護符というか、お札のようなものを俺達に見せてくれた。ちょっと文字が歪な護符もあれば、かなり立派そうに見える護符もある。
どうせ貰うなら立派そうなのがいいか。見せてもらった中で一番それっぽく見えるのを選ぶ。シャーロットも選んだようだが、俺が一番ご利益が無さそうだな、と思った文字が歪なのを選んでいた。
「まぁ護符と言ってもウチの子供たちが作ったので恐縮ですけど……でも一生懸命祈りを込めてありますよ」
「子供たちが作ったのですか?」
「はい。教会に併設されている孤児院の子たちです」
なんだ、子供が作った護符か。まぁオマケで貰える程度だから、気休めにはなるか。ひょっとしたら胸ポケットに入れてた護符が、銃弾を止めることも……ないな。そもそも銃弾が無いだろうし。せめて矢尻だろう。
しかし、孤児院か……教会と言えば孤児院、孤児院と言えば教会、って位テンプレだな。まぁ神様だって人気商売だろうから、この手の人気取り事業には参入するのは自然の流れなのかね。
祝福からの護符の配布で、自然と孤児院の話に持っていく。で、このまま孤児の身の上話とかされれば、喜捨の一つでもしたくなるのが人情か。この神父、やるな。
だが某丸一日やってるボランティア番組をガン無視して生きて来た俺に、そんな手は通用しない。
目の前で死にそうな人がいれば助けようとはするだろうが、ちゃんと使われない募金に寄付するような甘い人間ではないのだ。
「では、これを寄付という事で」
「これは……小麦粉と石鹸ですか。ありがとうございます」
べ、別に孤児たちの身の上話を聞いたからじゃないんだから、勘違いしないでよね!
ただ飛空艇から出て来た小麦粉(10キロ)の処分に困ってただけなんだからね!
あと馬車を借りた時に固形石鹸が賄賂として効果を発揮したし、これは使えるって、飛空艇から五個丸ごと持ち出してたのを思い出しただけなんだからね!
どこの誰に使われるか分からない募金よりかは、使う先が分かってる所に渡す分だけマシか。この場で渡してるのに、あとでコッソリ売られてたら泣く。もっとも、小麦も石鹸もまた手に入るだろうし、俺自身に損は無いからいいが。
「では私からはこれを」
「おお、コッコゥがこんなにも……ありがとうございます!!」
俺に対抗したのか、シャーロットまでコッコゥを寄付する。しかも五羽、それも解体済みのヤツをだ。皮まで剥いてある念の入れように、神父さんの感謝っぷりが凄まじい。
俺の時は普通にお祈りっぽい感謝だったのに、ウコッコゥ五羽だとペコペコと頭を下げている。
ただこの場合、俺は神父さんの態度の違いに怒るべきなのか、相変わらず養鶏場化している巾着袋に驚愕するべきなのか、あるいは剥いだ皮はどこやったのかを問い詰めるべきなのか。
……そうだな。前の二つは今更か。神父さんだって人間だ。貰って嬉しいものとそうでないものでは、受け取った時に差が出るのも仕方ないよな。神父さんなのに肉食っていいのかは知らんが。
シャーロットの巾着袋の中身は、もう気にしないと決めたしな。あの中にフエ〇ミラーがあって密かに量産してるんだろう。……あるの?
フ〇ルミラーはともかく、ひとしきりペコペコしてた頭を戻した神父さんだったが、何事もなかったかのようにエヘンと咳払いすると、孤児院の子たちからもお礼を言わせてくださいと言ってきた。
まぁお礼ぐらいならいいかと、つい頷きそうになる。だが、ちょっと待て。これがタダのお礼で済むと思うか?
俺の、人を信じない心が叫んでいる。答えはNOだ。この神父。お礼と称して孤児院の子供たちに引き合わせ、あわよくば更に搾り取ろうとしてるのではないのか?
孤児院の話を聞いただけでホイホイ小麦粉と石鹸、それにコッコゥを寄付するようなお人好し共だ。だったらケツの毛までむしり取ってやろう、とか考えてるんじゃないのか?
いや、そんな事はない。と俺の、人を信じてもいいじゃないか的な心が囁く。子供たちからお礼を言われるだけだろ? 何をそんなに疑う必要があるのかね?
俺だって子供の頃はサンタさんを信じてた時期もあったのだ。子供の純粋な心に触れて、少しはそんなころの自分を取り戻してもいいのではないのか?
鬩ぎ合う二つの心。教会という神聖な場所に来たせいか、俺の中の天使と悪魔が現れてしまったようだ……なぜ、こんなみみっちい事で現れる? もっと大きな事で出て来て欲しかった。
一人悩む俺。そんな醜い争いに終止符を打つ奴が現れる。というか、問答無用で神父に孤児院へ連行されたし。この神父、見かけの割に押しがつえー。




