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第222話 アレク君風呂人化計画

 大浴場を三人に貸すのはいいが、その前にバックドアの場所を変更しておくか。シャーロットは兎も角、クレアやベルまで俺の部屋に行ったきりは流石にマズいだろうし。

 場所は、そうだな……俺とシャーロットの部屋の間にでも呼び出しておけばいいか。201号室と202号室の間、201.5号室だな。

 いや、若干シャーロット側寄りだから、201 3/4号室か。もっとも、このドアをくぐっても、魔法少年の物語は始まらないがね。


 俺がドアを開けると、三人もゾロゾロと付いてくると、そのまま大浴場に直行するのを見送った。そういえばアレク君は来てないな。彼は風呂人ふろんちゅには目覚めなかったようだ。

 けど、飛空艇の事を打ち明けたのだから、アレク君達三人と一緒に旅をすることもあるだろう。少なくともトマトを手に入れるため、彼らの村へ行くつもりだしな。そんな時、彼一人だけが仲間外れになるのも忍びない。一人の風呂はいいものだが、誰かと入る風呂もまたいいものだと思う。

 ……そうだな。アレク君には悪いが、強制的に風呂人ふろんちゅに目覚めさせるべきだろう。そう勝手に決意し、アレク君の部屋へと向かう。


 住み込みバイトの彼らは、三人で客室の一つを使っている。半分とはいえ男なのに一緒でいいのか? と住み込みを始めた頃、クレアに聞いてみた事があるが、前住んでた部屋でも一緒だったそうで、その辺は大丈夫らしい。

 客は居ないんだし、一人一部屋でもいいと思うけどな。まぁ部屋代をバイト代で相殺してる訳だから、使う部屋は少ない方がいいのか。

 

 そんな彼らの部屋のドアをノックする。するとアレク君が顔を出した。開かれたドアの先から、装備の手入れをしてた様子がチラッと見えた。

 ……そういえば装備の手入れって彼が一手に引き受けてるんだよな。そう表現すると聞こえはいいが、実際の所は部活の先輩が後輩にシューズの手入れをさせてるようなものだ。


 しかも、今日の場合、彼に押し付けて自分達は大浴場でゆったりするつもりなのだ。少しは待遇の改善を要求した方がいい気がする。

 おっと、こんな考えは別パーティーへの過干渉になるんだったな。パーティー結成時に説明を受けた事を思い出した。


 本人が納得して、そのパーティーに参加してる以上、他のパーティーは勿論、ギルドからも極力干渉することは出来ないのだ。パーティーに参加する時は相手をよく見極める様に言われたのは、その辺も含めての忠告らしい。


 まぁそんな事はどうでもいい。今は冒険者同士ではなく、ただの友人として、日ごろの疲れを癒すべく風呂に誘うだけだし。

 俺の誘いに、アレク君は「手入れが終わったら入りに行きます」と至って真面目な回答をする。前回もやんわりと断られたし、やはり彼を風呂人ふろんちゅに目覚めさせるのは厳しいのか?


 いや、そんな事はない筈だ。風呂に入る事自体が嫌ではないのは、この前一緒に入って分かっている。多分彼の性格から考えると、単に遠慮してるだけな気がする。

 となれば、俺のとるべき行動は一つ。アレク君の手を取り、強引に部屋から連れ出す。「え?」とか「手入れがー」とか言ってたけど気にしない。この手の人間は、それらしい理由を付けて結局しないからだ。


 バックドアをくぐり、大浴場へ直行する。なにか忘れてる気もするが、今はアレク君の方が優先だ。おそらく時間を置いたら、逃げ出すだろうからな。

 脱衣場まで連れ込まれて観念したのか、横で渋々脱ぎ始める。相変わらず細い体だ。俺の視線が気になるのか恥ずかしげに両手で身体を隠している。


 俺としては珍しい身体なんだなー程度で、性的に見ることはないから安心してほしい。シャーロットとの混浴という名の禁欲修行の成果か、お相撲さんの胸を見てるような感覚になっているのだ。

 まぁお相撲さんしては華奢過ぎるけどね。お相撲さんって太ってるように見えるけど、中身は筋肉の塊だと聞いた覚えがある。千代の富士なんてムッキムキだったらしいしな。そういえば両性だと、筋肉の付き方とか変わるのだろうかね。


 別に筋肉フェチではないが、一時シックスパックに憧れて筋トレした事を思い出す。結局割れた腹筋を手に入れることなく、むしろ年々お腹が気になり始めるようになった。

 けれど、こうして異世界に来て、しかも若返ったならもう一度シックスパックを目指してみるのもいいかもしれないな。


 あれ? でもシャーロットは別に腹筋割れてなかったよな? クロゲワ・ギューやワイルド・ボアもアッサリ倒せるだけの力がある割には、彼女は華奢な感じだ。

 大盾を使っているベルだって、見た目は筋肉質ではない。もしかして、ああみえて二人共ムッキムキだったのか?


 ……うん、二人共ちゃんと女性らしい体つきだね。シャーロットのは既に見慣れた感はあるが、褐色スライムさんは相変わらずつやつやプルンだな。

 ベルもお前本当に十二歳なのかと問い詰めたくなる程だ。少しでもいいから後ろにいるクレアに分けてやって欲しい。


 クレアがキャーキャー騒ぎ出すが、他の二人は静かなものだ。シャーロットは浴槽の縁に頭をのせ、外の景色を眺めている。ベルは……いつもと変わらないな。

 そんな三人を見ても、風呂=無心が刷り込まれつつある俺は、動じもしない。気にせずかけ湯をすると、身体を洗い始める。

 遅れて入って来たアレク君も、先客(三人)がいた事に驚いてはいたが、クレア以外騒ぐこともない様子に、戸惑いつつも身体を洗い始めた。

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