第215話 暴食! クロゲワ・ギュー
乾杯したはいいが、やってる事は変わらない。ガロンさんとアレク君はホルモンを焼いてるし、俺やシャーロットはそれをつまみにビールだ。お酒の飲めないクレアとベルはシャーロットが用意したパックご飯を手にBBQを堪能している。勿論マロンちゃんもご飯を装備済みだ。一生懸命お肉を頬張ってる姿が微笑ましい。でも、マデリーネさんからは、ちゃんと野菜も食べなさいと注意されている。
ちなみに焼き肉のタレは無く、基本塩胡椒あとタンにはレモン汁。焼肉といえば醤油ベースのタレのイメージがあるので、ちょっと残念。
まぁ肉の味自体を味わうなら、これはこれでアリだろう。昔やった焼き肉じゃ、タレを一種類しか用意しなかったせいで、別々の肉のはずなのに、食感以外全部タレの味だった事もあるしな。
ただアレク君は変な食べ方してたな。塩胡椒以外になんか油を足していた。俺も真似してみたけど、足した油の香りと風味が加わって、文字通り一味違う感じだ。
あれ? この油の独特の味と香り……これってゴマ油か? そういえばフリュトンのしゃぶしゃぶ食べた時、ゴマダレもどきが出てたな……って事は胡麻はあるのか。
まぁ胡麻があると分かっても、何かが変わるわけでは無いけどね。ゴマを使った画期的なアイディアなんて思いつかないし。あぁゴマ豆腐は食ってみたいな。作り方知らないけど。
胡麻の存在はさておき、タレの味を変えてみたのには理由が有る。単純に言えば飽きだ。いくら美味くても、同じ味・似たような味ばかりでは飽きてくる。
だが考えてみてくれ。一トン近いクロゲワ・ギューの内臓がどれ程あったのかと。そうだよ、可食部だけでも数十キロもあった内臓をたったの八人で食い切れるわけないだろ。
かといって十年に一度とも言われる幻の肉。食べきれなかったから捨てましょう、とは誰も言い出さない。結果、大食い大会(強制)が開催されたのだ。
早々にリタイアしたのはマロンちゃん、マデリーネさん、そしてクレアだ。前の二人はともかく、クレアには期待してたのに。なぜご飯を片手に食べてたのかと問い詰めたい。
残ったのは五人。次にギブアップしたのはアレク君だ。焼き手だった彼は、焼きつつ食べるを繰り返してたが、常に肉を焼く・肉を食う・肉を焼くのローテーションに参ったようだ。
同様にガロンさんもギブアップ。まぁこの人の場合、飲み潰れたともいうがね。肉を焼く・ビール飲む・肉を食う・ビール飲む。そりゃ酔いつぶれるわな。それでもアレク君よりも粘ったのは、クロゲワ・ギューを味わいつくそうとする料理人の根性だろうか。
ここで焼き手の二人がダウンしたので、代わって俺が焼くことになった。結構俺もギリギリだったので丁度よかったともいえる。ここからは二人に頑張ってもらおう。
「あぁ、そこの肉が焦げている。サッサとひっくり返せ」
「………」
「ハイハイ」
俺に代わったとたん、シャーロットからの注意が飛ぶ。前任者の二人の時は無かっただけに、彼らの偉大さが身に染みる。俺にも料理スキルが生えたら、少しはマシになるのだろうか。
更にマズいことに、焼き手が俺に代わってから、二人のペースが明らかに落ちている。だが肉はまだ半分も食べていない。これは……勿体ないけど、諦めるしかないのか?
誰もが諦めかけたその時! 救世主が現れた!




