第214話 実食! クロゲワ・ギュー
ようやくグロ注意な解体作業が終了した。暫く肉なんて見たくない。コッコゥの解体で慣れたつもりだったが、グロさは格段にランクアップしてたな。あとデカい分、解体の時間が長かったのもあるか。
「おい、どこへ行くんだ?」
「ちょっと……やすんでくる……」
「そうか」
「ショータは解体に慣れていないからな。気分でも悪くなったのだろう」
シャーロットめ、余計なことを……だが事実なので何も言えない。もっとも今口を開いたら、マーライオンになりそうだがな。
まぁいい。とにかく部屋に戻って休みたい。むしろ、もう晩飯なんていらないから朝まで寝ていたいぐらいだ。
「うーん……じゃあコイツは俺達だけで試食するか」
「そうだな」
「いいですね」
――――ピクッ
「内臓系は解体したてじゃないと食えないからな」
「そうだな」
「役得ですもんね」
――――ピクピクッ
「ショータが食わないなら、取り分が増えたな」
「そうだな」
「美味しいんですけどね」
――――ピクピクピクッ
「や、やっぱりもう少し居ようかな」
肉なんて見たくない? マーライオンになる? ホルモンの前には関係ないね。
「じゃあ俺等はコイツを下拵えしてくるから、お前さん達は火の用意を頼むな」
「了解」
「あぁ、私に任せておけ」
そういってガロンさんとアレク君は厨房へと消えて行った。残された俺達はカマドの準備だ。といっても、シャーロットがいつものように魔法でカマドを作り、巾着袋から薪を取り出し火を点けるだけだ。
あれ? 試食だけならワザワザ裏庭にカマドを作る必要も無いんじゃないのか? 厨房に行けばコンロもある訳だし。
「まぁ試食で終わらないだろうからな」
「なるほど」
鉄板を取りに厨房へ行ったときに聞いてみたら、そんな答えが返って来た。確かに昼飯食ってから解体を始めたが、既に日は傾き始めている。そろそろ夕食の支度を始めてもいい時間帯だ。
ガロンさんの頭の中じゃ、今日の夕食はホルモンのBBQに決めてるのだろう。試食といってた割には、明らかに肉の量が多い。
よろしい。ならば迎撃の用意が必要だ。俺は鉄板を持って裏庭へ戻る。なお、カマドよりも鉄板が大きかった問題が発生したが、シャーロットがカマドを作り直すことで回避した。
俺は裏庭の一角にベニヤ板を立て掛けると、バックドアを召喚する。シャーロットも心得たもので、俺に火の番を任せると、そのままバックドアへ消えて行った。イイね、このツーカーな感じ。
十数分後、湯上り状態で戻って来た彼女の姿を見て、二つの意味でがっかりしたのは言うまでもない。
「いや、てっきり長旅で疲れただろうから、風呂でも入るといい、と勧めてくれたのかと」
一泊二日の小旅行、しかも帰りは飛空艇を使ってた旅のどこに疲れる要素があったというのだろうか?
(バーベキューにはビールが付き物だから、その用意のために呼び出したんだが?)
(ならばそう言え!)
(言う前に入ってただろうが!)
「あ、あの……焼けたんですけど」
「「いただきます!!」」
うめぇ。肉の美味い牛は内臓まで美味いんだな。どこかで「牛肉本来の味を知りたかったら赤身を食え」と聞いた覚えがあるが、そんなのはクロゲワ・ギューの前には関係ない。赤身も脂も両方美味いのだ。
さらにクロゲワ・ギューは肉だけでなく、内臓にまでサシ(霜降り)が及んでいる。まぁそんな状態、人間だったら健康上かなりヤバい気がするが、魔物なら大丈夫なのか?
……考えても仕方ないな。そんな事より、食べる方が先だ。シマチョウ(小腸)は脂が乗りが良く、肉自体に甘みがあって美味い。カシラ(頬肉)は特に脂がのってる上柔らかく、試食だからと一切れしか食えなかったのがとても残念だった。
タン(舌)はなぁ……コリコリした食感で、美味いっちゃ美味いけど、サシが入ってなかったから、美味いだけのタンだったな。え? これもタンだから食ってみろ? ……やわっ、しかも脂ものってる。こんなタンもあるのか。へぇー根元の方になるとこんな感じなのか。
だが一番美味いのはハラミ(横隔膜)だな。本来ハラミは赤身が多いはずだが、それでも多少のサシが入っている。赤身の旨みに、サシが加われば百人力だろう。向こうで食べた事のあるハラミとは別次元だ。
あまりの美味さに、試食? そんなの関係ねぇとばかりに、ジャンジャン焼き始めるガロンさん。その手には氷ビールが。シャーロットは既に一杯始めている。勿論俺もだ。
肉の焼ける匂いに集まって来る面々。マデリーネさんとマロンちゃんは宿にいたからまぁ分かる。だが買い物に行ってた筈のクレアとベルまで、丁度いいタイミングで戻って来たのはどうなんだ?
まぁ全員揃ったところで本格的なBBQのスタートだ。すでに始まってただろ、というツッコミは受け付けない。酔っ払いはツッコミなど聞かないのだ。
「じゃあ二人の昇格に、乾杯!」
「かんぱーい」x7




