第213話 解体! クロゲワ・ギュー
宿に戻ると待ち構えてたガロンさんと一緒に裏庭に移動した。裏庭ではどこから用意したのか、デカいテーブルが用意されていた。
テーブルの上に色々なナイフが用意されている所を見ると、ランペーロ用の解体会場のようだ。ガロンさん曰く「そろそろ帰って来るだろうと思って準備しておいた」らしい。
まぁ準備がしてあるなら話は早い。流石に厨房じゃあの巨体を解体するのも厳しいだろうしな。早速シャーロットにクロゲワ・ギューを出してもらう。
「こ……こいつは……」
フフフ。ギルドに続いてガロンさんでも「こ、これは……」をやってしまったな。ランペーロが来ると思ってたら、ずっとレアなクロゲワ・ギューが現れたんだからな。ガロンさんの驚くのも無理はないか。
「オメエら、よく狩れたな……」
あれ? レアな獲物を狩って来た事に驚いてたんじゃないのか?
ガロンさんの話を聞くと、それもあるが、それ以上にクロゲワ・ギューを狩る難易度によるものが大きかったらしい。
なんでも、このクロゲワ・ギューはランペーロに比べて、図体がデカくなった分、足が遅くなってるそうなので、『釣り』戦法のような足の速さの違いを利用する釣り方はダメ。
かといって『暗殺』だと耐久性が高いから一撃じゃ倒せないし、『ハグレ』を狙うにも、ウージィ達の王様なので逆に集まって来てしまう。
ガロンさんも昔見つけた事があったのだが、どうやってもクロゲワ・ギューだけを釣ることが出来ずに断念したそうだ。ちなみにその時は百人近い冒険者で、ウージィを先に全滅させてから仕留めたそうだ。
そんな話を聞くと、あの一本吊りがどれだけイカサマなのかが良く分かるな。ガロンさんもどうやって仕留めたのか知りたがってたけど、その辺は企業秘密って事にしてもらった。
「他人のスキルを詮索するのはマナー違反だしな」
「すみません。いつか話せる時が来たらってことにしてください」
まぁ教えてもいいんだろうけど、一応飛空艇自体がバレない限りは秘密にしておくと決めているからな。シャーロットやクレア達には、飛空艇を呼び出してるのを見られた上、言い逃れが出来そうになかった訳だし。
「まぁいい。その分解体で働いてもらうからな」
「あーはい。それぐらいでしたら」
まぁ解体を覚えるのは悪い事ではないだろう。コッコゥを捌いた時もそうだが、獲物を仕留めても解体が出来なければ食べることもままならないのだからな。
魚は切り身で泳いでる事は無いし、動物は部位ごとのブロックで生きてる訳がない。野菜は千切り状態で育つ筈はないし、蛇口をひねれば水が出るような世界でもない。あ、飛空艇なら水は出るな。あとビールも。
幸いというかなんというか、コイツの血抜きは終わっている。あとは捌くだけの状態だ。吊り上げで窒息したはずだったのに、突然息を吹き返しやがったからな。シャーロットがカーゴルームにいなかったらと思うと、ゾッとする。
「じゃあ始めるか」
「あれ? アレク君は待たないんですか?」
「……待ってた方がいいのか?」
「たしかランペーロの解体は出来ないとか言ってましたから、覚えたいと思いますよ」
ギルドで別れる前に、アレク君にはクロゲワ・ギューの解体の事は言ってあるから、そう遅くならないうちに戻って来る筈だ。それからでもいい気がするのは、ただの先送り根性だろうか。
「そうか……そういえばお前らメシは食ったのか?」
「まだですね。昼頃町に着いて、そのままギルドに直行しましたから」
「……だったら先に食っとくか?」
「「はい」」
ガロンさんの好意で昼食を頂く。あくまで好意だ。宿としては食事が出るのは朝夕だけだからね。ちなみに今日のメニューはリゾットっぽかった。どうやらピラフをご飯とお粥の関係の様に、スープ多めで炊いてみたらしい。リゾットというか雑炊っぽいな。
そんなリゾットを食べつつ、ランペーロを狩った時の武勇伝を話していると、アレク君だけが戻って来た。他の二人はもう少し店を回って来るらしい。まぁ解体だけならアレク君がいれば大丈夫か。
「よし、ここだ。ここを一気に掻っ捌け」
「ハイ!」
ガロンさんの指導でクロゲワ・ギューが解体されていく。解体の仕方はランペーロと大して変わらないそうだ。俺とシャーロットでクロゲワ・ギューの向きを変え、アレク君が捌いていく。
時々ガロンさんの解説が入るが、正直グロすぎて正視できなかった。アレク君が真剣に聞いているから彼に任せよう。それよりも吐かなかった自分を褒めてやりたい。そもそも、これから解体があると分かってたのに、なぜ俺は食事をしたのだろうか……




