第208話 降下場所
さて、望遠鏡に夢中になっていた三人も、流石にお昼近くになったせいか町に戻ろうと言い出して来た。
このまま飛空艇で昼食をとってもいいのだが、肝心の食材が碌に無いので、保存食がメインの食事になってしまう。飛空艇で用意できるのも米と小麦粉、あとはカップ麺ぐらいだしね。
オニギリとカップ麺の昼食も悪くはない気がするが、町がすぐ近くなんだし、出来ればガロンさんの料理を食べたい。
ふと町の食事といえば……で、ガロンさんを思い浮かべてたけど、よく考えたら町での食事のほとんどがガロンさん系だった。それ以外だと、例の初めに止まった宿の飯ぐらいか?
あの宿の飯は微妙だったなぁ。二度と泊まることもないだろうから、どうでもいいけど。あ、あの受付の男を殴るの忘れてたな。
大銅貨一枚とはいえ、いつかあの恨みを晴らしてやると心に誓う。みみっちいと笑いたくば笑え。一円を笑う者は一円に泣くって言葉もあるのだ。
そんな俺の心の誓いはどうでもいいな。とにかくサッサと町に戻ることが決定された訳だが、それに伴って少々困ったことが判明した。まぁ大した問題でもない。単にどうやって馬車を降ろすかってだけだ。
何も考えず、ただ馬車を降ろすだけなら問題はない。重要なのはいかに見つからずに馬車をおろすかって事だ。ついでに言えば、降ろした場所から街道までの辿り着く事も大事ではある。
例えば今いる場所で馬車を降ろしたとしよう。この場所は街道からも町からも離れているようで、誰かに見つかる心配はないだろう。その代わり街道までのアクセスがかなりの手間になるがな。
一言で草原といっても、この辺の草は比較的背が高く馬車が進むには向いていない。もし進めるとしたらワザワザ草刈りしなくてはならないレベルだ。
ならば街道付近で降ろせばいいのかというと、それも難しい。昼近くの街道ともなればそれなりに人目がある。仮に人目が途絶えたタイミングを狙うとしても、それがいつになるかは予想もつかない。それに、もし途絶えたとしても、いつまた馬車が来るかも分からない状況では、安易に降ろすことも難しい。
いっそ例の墓標まで行くか、と提案したけど、それはアッサリ却下された。草の高さは無理をすれば何とか進める程度だし、城壁付近まで行けばその草もまばらになる訳だし、馬車で進むのは問題ない。
だが南門から出て行った筈の俺達が北門から戻るのは不自然だし、あの場所から南門に向かったとしても、城壁沿いに北側から南門に来たって事でそれもおかしなことになる。
「アレもダメ、これもダメ。だったらどうしろって言うんだよ? お前のマジックバッグに幌馬車を丸ごと仕舞うとでもいうのか?」
並の牛の1.5倍はあるクロゲワ・ギューやら、ワゴン車サイズのワイルド・ボアまで仕舞えた巾着袋なら、うっかりどころか確実に出来そうな気がする。馬だけならエレベーターで降ろせるだろうし、それはそれでアリか?
「いや、その必要は無い。あの場所なら馬車を降ろすのも、街道へ行くのも容易だろうからな」
「心当たりがあるのか?」
「あぁ、ショータも知ってる場所だぞ」
俺も知ってる場所? どこかあったっけ? 墓標はさっき却下された訳だし、薬草の群生地は森の奥深い場所なので、歩いて帰る事しか出来ない。
場所を聞こうにも、シャーロットはフフン顔をしてて教えてくれそうもない。悔しいが彼女に操縦を任せるしかないようだ。
「じゃあ、操縦は任せた」
「あぁ、任された」
そう言ってシャーロットは躁舵輪を握ると、飛空艇を静かに発進させる。ちなみにアレク君達三人の姿はここにない。彼らはカーゴルームで幌馬車と馬を繋げてもらっている。飛空艇が目的地に到着次第、搬入口から降ろしてもらう予定だ。
「ここは……ひょっとして馬車の練習をした場所か?」
「そうだ。ここなら街道から多少離れているし、馬車を降ろすのにも問題ない」
「そういえばそうだな」
確かにこの場所なら街道からは離れているうえ、馬車の練習が出来る程度の草しか生えていない。奥の方で飛空艇を降ろせば人目に付く心配もないだろう。
船視点で船内モニターを呼び出す。カーゴルームでは馬車の準備も完了しており、あとは着陸するだけだな。
ってシャーロットに操縦を任せたままでいいのか? 彼女の腕前じゃ地面に激突しそうじゃね? ……彼女には悪いが交代してもらった方がいいだろう。だがどうやって交代する? お前の操縦じゃ不安だから、は流石にマズいだろうし。
「あーそうだ。シャーロットさんに頼みたいことがあったんだ」
「なんだ? 突然?」
「飛空艇が見つからないように、見張り台で警戒をお願いしたいんだけど、頼まれてくれるかな? 俺じゃ見落としそうだし、シャロにしか頼めないんだ」
「うーむ……仕方ないな。お前の見張りではイマイチ不安もある事だし、頼まれてやろう」
「助かるよ」
微妙にディスられたが、ここは我慢する。俺は目的の為になら多少の屈辱には耐えられるのだ。




