第207話 望遠
結論から言うと、望遠鏡は好評だった。景観のいい行楽地には必ずといっていい程設置されているのも納得な位の食いつき具合だった。
二台ある望遠鏡をアレク君、クレア、ベル、シャーロットの四人がローテーションで使っている。暗黙の了解にでもなっているのか、1MP分(3分)で交代しているようだ。俺? MP切れですが何か?
あとシャーロットよ。お前、この前散々堪能してなかったか? ナニ? 場所が代われば景色も変わるのは当然だ? 左様ですか。はいはい、邪魔しないから存分に使ってくれ。どうせ俺のMPじゃないし。
暫く望遠鏡を楽しむ四人を眺めていたけど、どうにも暇だったので見張り台に移動することにした。決して仲間外れが寂しくなったわけでは無い。
先程の飛竜のような存在が再び現れないとは限らない以上、誰かが警戒をしてる必要があるだろうし、周辺の警戒をするのなら、見張り台が一番だからだ。
見張り台に移動した俺は、早速索敵ビューを起動すると、意味もなくあちこちを拡大してみる。これなら望遠鏡と違ってMPいらないしな。えぇそうです。望遠鏡を堪能してるアイツ等が羨ましかったです。さっきは強がり言ってました。
つよがってもいいじゃない、にんげんだもの ――しょうた――
よし、自己擁護完了っと。似非詩人にでもならないと自己擁護できないのも情けない気もするが、気がするってだけなので実害はないので良しとしよう。
そんなしょうもない事を考えていると、背後のエレベーターが作動した様だ。誰だろう? そろそろ太陽も真上に近付き始める頃だから、シャーロット辺りが飛空艇を降ろす様言いに来たのかな?
「……!!」
って、来たのはベルだったか。彼女も俺がここにいるとは思わなかったようで、大分慌てている。あー、待て待て。別に取って食うわけじゃ無いから、そんなに慌てないでくれ。
折角この世界で初めて会った(ネコミミ店主? だれの事ですか?)ケモ耳(ココ重要)少女(一応)なんだし、少しは仲良くなりたい。あわよくば、ちょっと触らせてくれたりも……なんてね。
でも、何で来たんだ? ってそうか、シャーロットの話じゃ獣人ってのはMPが低めらしいから、あまり望遠鏡の為にMPを使いたくなかったのだろう。
でもやっぱり望遠鏡を使いたい。そんなジレンマを解消できる見張り台に気が付くとは、彼女もなかなかやるようだな。今朝、この機能を教えたばかりとは思えないほどだ。
え? なに? シャーロットに教えてもらった? なるほど……シャーロットなら散々使ってたし、十分思い付けるか。
まぁいい。とりあえずベルに席を譲るとしよう。物凄く遠慮されたけど、どうにか座らせることに成功する。大丈夫だよ~とか、ちょっとだけだから~とか、言い方が怪しかったのは気のせいだな。
座ってしまえばベルも諦めが付いたのか、あるいは開き直ったのか、早速拡大している。うーん、こうして後ろから見てると、見たいと思うものってやっぱ人それぞれ何だなぁって思うね。
俺の場合、コッコゥはいるかなぁとか、フリュトンまた見つからないかなぁとか、どこに何がいるのか知りたいと思ってみてる。
これがシャーロットの場合だと、ただの森の木だったりどっかの建物だったりで、何が目的で眺めてるのかさっぱり分からなかったな。
で、ベルの場合はというと……一点集中タイプ? さっきからずっと同じところを見ている。何があるのかなぁと俺も見てるけど、どう見てもただの草原です。何かが隠れてる様子もない、ただの草原をじっと見つめている。
それとも彼女には俺には見えないナニかが見えてるのだろうか? 猫とかなにもないところをジッと見るとか言うし、獣人な彼女ならあるいは見えてるとか? 獣人スゲェな。
「……」
あれ? 違うの? え? 俺が言ったから? ……あっ、確かにこうやるんだよって実演した時、この辺を拡大してた気がする。って、そうじゃない。自分が見たいのを見ればいいんだよ。
俺の説得?にやっと趣旨を理解したのか、ようやく色々と見始めた。ベルの場合は……やっぱり草原を眺めているな。まぁさっきと違って花を見てる様だけどそういうのが好きなのかな?
「 」
あぁ、うん。花がね。花が好きって事ね。熊耳美女からの告白か、ってちょっとドキッとしたけど、よくよく考えたら成人してるとはいえ、この子はまだ十二歳、日本なら小学生だもんな。
身体は大きくなったとしても、中身の方が相応に成長してるかは分からない。食事のときとか、たまに子供っぽい仕草とかするし。
そう思えば彼女がちょっとオドオドしてるのも分かる気がする。一応成人だと認められてはいるけど、所詮は十二歳。そんな小学生が大人に混じって冒険者をやってる訳だ。
そりゃぁ多少は怯えるのも仕方ないわな。シャーロットは「もう少し積極性が出るといい」とか言ってたけど、小学生にそれを期待するのは酷じゃないかな?
うん、なんかベルがちょっと体が大きいだけの妹に見えて来たな。俺の場合、姉だけで育って来たから妹がいたらこんな感じなのかね。
クレア? アイツは近所のガキンチョ程度で十分だな。人が休日に惰眠をむさぼってると、なんか勝手に騒いで人の安眠を妨害する奴。うるせーって言いたいけど、ご近所の手前言い出せないんだよな。
とか考えてるうちに、ようやく展望デッキの三人も満足したらしく、下に降りようと言って来た。やっとか、と二人で展望デッキに向かう。その時ベルが、
「ありがとう」
とちょっと小さかったが、それでもハッキリ言ってくれたのが、ちょっと印象的だった。




