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第203話 雲

 クロゲワ・ギューを仕留めたのはいいが、もしかしたら馬車から見られたのかもしれない。まぁ、見られたとしてもクロゲワ・ギューを吊り上げている所だけだし大丈夫だろう。

 いや飛空艇を透明に設定してたのだから、クロゲワ・ギューが空を飛んでると思われたりしてな。まぁ船が空を飛ぶようなこの世界じゃ、牛だって空を飛んでもおかしくないはず?


 仮にあの馬車の中に探知系のスキルを持つ奴がいたとしても、ソイツが見るのは吊るされたクロゲワ・ギューと、ソイツを引き上げている銀色の飛空艇だけで、俺達の姿までは確認できないだろう。

 ついでに言えばこんな事もあろうかと馬車も既に回収してある。立つ鳥跡を濁さず。このままトンずらと決め込もう。ふ、俺が一生に一度は言いたい台詞第三位『こんな事もあろうかと』を使ってしまったな。いや、まだ言ったわけでは無い。まだまだ使うチャンスはあるだろう。




 とりあえず近付いてくる馬車から逃げるため、遠隔操作のまま雲の上まで高度を上げる。いくら何でもこの高さまで視ることが出来る奴はいないだろう。

 雲に突っ込むとき、アレク君達が「ぶつかるー」とか騒いでたのがちょっと微笑ましかった。彼らの中じゃ雲は硬いものだと思っているようだ。


 雲の上に出た事で一息ついた俺は、このまま(遠隔操作)じゃ負担がキツイので操縦室へ戻ることにした。何故かゾロゾロと付いてくる四人。まぁカーゴルームにいても暇だろうしな。操縦室の中にものに触らなければ好きにすればいいさ。

 あ、そうそう。今日狩った分のランペーロとクロゲワ・ギューは、シャーロットの巾着袋に収納してもらった。計十頭分のランペーロとクロゲワ・ギューが彼女の巾着袋に収まったことになる……入り過ぎじゃね?

 もうアイツの巾着袋は四次元〇ケットだと思うことにしよう。色も似てるし、アレならいくら入っても不思議じゃない。




 暫く雲の上を町に向かって進む。こうしてみると雲の上からの景色は向こうの世界と変わらない。ファンタジーならひょっとして雲の上に乗れたりするのか?

 あれ? さっきは雲にぶつかると騒いだアレク君達を微笑ましいと思ったけど、さっきの雲が乗れるようなヤツだったら飛空艇もヤバかった?


「なぁ……雲って乗れたりするのか?」


 あ、気になったからといって、考えなしに言うんじゃなかった。シャーロットがスゲェ変な顔してる。あれは「ショーちゃんは考え方がお子ちゃまですね」とか思ってる顔だ。


「ショータ……まさか知らずに飛空艇を突っ込ませたのか?」

「はえ?」


 え? まさか本当に乗れる雲があるの? おとぎ話とかそんなんじゃなく?


「まぁ迷い人のショータは知らないだろうから、見分け方をちゃんと教えておいてやろう。いいか? そこの雲の様に、太陽の光が透ける程度の薄い雲なら大丈夫だ。だが、ずっと向こうにあるような厚めの雲に突っ込むのはやめておいた方がいい。

 この船の実力がどの程度かは知らないが、下手な飛空艇なら足を取られるか、場合によっては雲が晴れるまでその場に留まるほどだ」


 飛空艇に足なんかないぞ、とはツッコまない方がいいのだろう。まぁいい、この世界の雲は乗ることが出来るほど硬くもないが、かといって素通りできるほどでもない事が聞けただけでも御の字だ。

 要は車にとっての泥濘ぬかるみ、船にとっての海藻、それが飛空艇にとっては厚い雲だって事か。知らなければ突っ込んでたな。教えてくれたシャーロットがに感謝しておこう。


『MP1を消費して「機能:雲探査」を解放しますか? MP37/50』


 などと感謝してたら、機能解放のウィンドウが出たな。このタイミングでってことは、この機能があれば危険な雲を回避できるのか? いや、探査だからヤバそうな雲が分かるってだけか。まぁあって困るものでもないし、YESを選択する。

 お? 船視点の雲に薄く色が付いた。緑・黄・赤って事は、赤に突っ込むとヤバいって事だろう。それはいいけど、緑や黄色の雲とか違和感しかない。赤は夕焼けで見る色だから大丈夫だ。


 雲に色が付いたけど、実際飛んでいるのはその雲の上なわけで、現状意味があるような無いような機能な気がする。いや、勿論降下する時に変な雲に突っ込まない為には必要な機能なんだけどね。


「そう言えばこのまま飛空艇で町に戻るって事でいいのか?」

「そうだな……もっとゆっくり飛ぶか、あるいは何処かで時間を潰すかした方がいいだろうな」

「だよな。もうすぐ、来る時休憩した場所らしいし」


 上空からだと分かりにくいが、地図によればもうそろそろ通過するらしい。


「もうか……かなり速いな」

「まぁ馬車の倍ぐらいのスピードだってのもあるが、こっちは直線だからな」


 地上の道は真っ直ぐではなく、クネクネと蛇行しているからな。急な丘や森を避けるため、多少遠回りでも平坦な道を進むように道が作られている。

 それに対し空の道に障害物はない。当然真っ直ぐ飛び続ければ、馬車よりも遥かに速く目的地に辿り着ける。


 いわば普通列車と新幹線みたいなものだ。新幹線は速度を出すためになるべく直線になるよう線路を作ったと聞いたことがある。

 尤も、速度が出過ぎるのも善し悪しと思う時もあるがな。新幹線に乗ってた時、富士山を見ようとしたら一瞬で通り過ぎてたし。アレは景色よりも時間を優先する奴らの乗り物なのだ。


「景色……景色か。そうだ、遊覧飛行でもしていくか」

「ゆうらんひこう?」

「あぁ、要は移動するために飛ぶのではなく、景色を楽しむために飛ぶ事だな」

「面白そうね! 雲ばっかりの景色も飽きて来たし、早速やって見せてよ」


 なぜかクレアが食いついてきたし。でも皆乗り気のようなので、高度を下げて遊覧飛行としゃれこむとしよう。

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