第202話 クロゲワ・ギュー
これはこれでアリだと割り切ってしまえば、あとは簡単だった。シャーロットが見張り台でターゲットの選定と索敵。指定されたターゲットを狙うべく、アレク君の指示で俺が飛空艇の位置を調整する。位置が決まればクレアがランペーロを吊り上げ、ベルがソイツを倉庫・大へ持って行く流れだ。
倉庫がランペーロで埋まってしまうが、問題はない。シャーロットが後で巾着袋にしまってくれるそうだ。まぁ奴の巾着袋が一杯になったとしても、一日程度なら飛空艇に置いておいてもいいしな。何なら倉庫・大だけ気温を下げてもいい。それぐらいの設定は可能みたいだし。
そうこうしているうちに、吊り上げたランペーロも四頭目になった。昨日既に二頭は狩っているし、ダリオ達が残したのも合わせると、十頭の大台に乗ったことになる。
いくらマジックバッグがあるとはいえ、流石にこれはやり過ぎか? いや、今度こそ持ち込みで、「十頭ドーン」「こ、これは……」が出来ると思えば、大した事じゃないな。
ただそろそろ他の連中が来てもいい頃でもある。実際シャーロットから、「馬車が二台こちらにやって来ている」との報告もあったし。そろそろ引き上げる頃合いか?
クレア達三人も、引き上げようと言う俺の提案に納得してくれた。だが、シャーロットだけが反対に回る。彼女が続行を主張する理由は、どうしても狩りたい獲物を見つけたからだそうな。
「で、どれを狩りたいんだ?」
「おお、聞いてくれ。コイツだ」
『遠話』の魔道具越しでは埒が明かないので全員で見張り台に移動する。流石に五人も入ると狭く感じるな。だから俺一人で行くと言ったのに、クレアの奴が見張り台もみたいとか言い出しやがったのだ。
尤も、当の本人は索敵ビューモードの見張り台(要は空中に放り出された状態)に腰を抜かしてたがな。今はベルと一緒に展望デッキに行っている。あっちも大して変わらないと思うんだが……。
まぁいい。それよりシャーロットの話だ。彼女が見つけた獲物が拡大される。その姿はウージィやランペーロにそっくりなので、多分ウージィの亜種だか別進化だかなんだろう。
ただしサイズが明らかに違う。周りにいるウージィと比べると、倍とまではいかないが1.5倍ぐらいはありそうだ。ちなみにランペーロだと1.2倍程度だな。
それに何と言っても色が違う。ウージィがジャージー種の茶でランペーロはホルスタイン種の白黒ブチなのに対し、奴は黒毛種なのか真っ黒なのである。
「アレはまさか……」
「あぁ、私も話だけしか聞いたことが無いが、間違いなくアレだろう」
「知っているのかシャーロット!?」
「あぁ、あの巨体、あの黒さ……やはり間違いなどない。あれこそ伝説の『クロゲワ・ギュー』だ」
「くろ……げ……?」
「ショータさん、『クロゲワ・ギュー』ですよ。ランペーロの王様とも言われています」
「おうさま?」
「えぇ、まぁメスでしょうから、正確には女王ですけどね。強さもさることながら、肉の霜降り具合が最高なんです」
「へぇー」霜降りが通じるんだー
「フリュトンも滅多に現れないが、クロゲワ・ギューは更にその上を行くほど滅多に出現しない。十年に一度見れるかどうかとも言われてるほどだ」
「マジで?!」
「あぁ、研究者の話では、進化に必要な花が突然変異でしか現れないうえ、わずか一日で枯れるらしくてな。その為クロゲワ・ギューの出現率がとても低いのだ」
なんでシャーロットがそんな研究結果を知ってるかはツッコむべきなのか? いや、それよりもネーミングにツッコむのが先か?
まぁいい、彼女の言いたいことは分かった。とにかくメチャメチャ美味い奴が現れたから、是非狩りたいってことだ。
勿論、全員一致で賛成が可決された。アレク君は当然だし、クレアも「高く売れるわね」とノリノリだ。ベルも「 」と涎を垂らさんばかりだった。
こうして『クロゲワ・ギューの一本吊り作戦』は実行された。万全を期すためシャーロットまでカーゴルームにやって来るほどだ。おかげで彼女の指示がうるさい事この上ない。
やっと船の位置が決まったと思ったら、今度はクレアを差し置き、シャーロット自らフックを降ろすほどの入れ込みように、俺達四人は只々見てるだけしか出来なかった。
ランペーロと比べても一回り大きい体格にロープが持つか不安だったが、どうにか切れることもなく吊り上げ収容出来た時は全員がホッとしたな。
でも、ホッとしたその瞬間、窒息した筈のクロゲワ・ギューが暴れ出したのには驚いたけどね。まぁビックリはしたがケガなどはない。当たり前のようにシャーロットが切り伏せたからな。所詮ランペーロの王様程度では彼女の足元にも及ばない様だ。
~ある馬車での会話~
「なんだありゃ?!」
「真っ黒なウージィが……飛んでいる?!」
「いや、違う! 上だ! 上に何かいる!」
「あれは……銀色のナニカがランペーロを吸い込んでいるのか?!」
異世界初のキャトルミューテーション、もといキャトルアブダクションが目撃された瞬間であった。
多分馬車にはヤーオイとか居たかもしれない。




