第199話 披露
「さて、食事も終わったところで、みんなに話がある」
「アンタのスキルの話ね」
「そうだ」
昨日のうちに話しておいたクレアやシャーロットはともかく、アレク君やベルまで落ち着いてる所を見ると、二人にも事前に話していたようだ。
食事の片づけをしていたアレク君も、その手を止めて輪に加わる。一応シャーロットにお願いして、周りに誰もいない事も確認してもらったが、ウージィやランペーロ以外には誰もいないそうだ。
「さて……さっきも言ったが俺のスキルの話をしよう」
「いいのですか?」
「あぁ、ただし他言無用で頼むな?」
「ハイ!」「分かったわ」「……」
「とりあえず、見てもらった方が速いか。飛空艇召喚!!」
「「「!!!」」」
バックドアは既に消してあるので、飛空艇の召喚は問題ない。声に出したのは気分だな。
草原に突然現れた白銀の船に、三人の息を呑む音がする。
「これが俺のスキル『飛空艇召喚』だ」ドヤァ
「……飛空艇ですか?」
「そうだ」ドヤャァ
「これが?」
「……そ、そうだ!」ャァ
「……?」
「いや、本当に飛空艇なんだからね?」
「だって……ねぇ……」「思ってたのと違ってたもので……」「……」
ぬぅ、折角のお披露目なのに、リアクションがイマイチだ。やはりこの形は斬新過ぎるのか? 俺的には銀色でカッコいい気がするんだけどなぁ。
「私はカッコいいと思うぞ。何というか……見慣れると良さが出る」
「そうか……」
シャーロットの慰めのような同意は、一応ありがたく受け取っておく。気休めにはなるはずだ。
「とりあえず、中に入るか……」
タラップを呼び出し、中層の出入り口から入ってもらう。エレベーターはロックしてあるせいか、起動しなかった。
「これって……」「師匠のマジックルーム?」「……!!」
「ふっ、実はアレも俺のスキルだったのだ!」ドヤァ
「意味分かんないわ」「スミマセン、ボクにはショータさんの言う事が理解できませんでした」「???」
……ま、まぁ確かに、変な形の飛空艇(自称)の内部に入ったと思ったら、さっきまで泊ってたマジックルームに案内されてれば、誰だってそう思うか。
うーん、三人はマジックルームとして先に見ているから、アレが実は送還中の飛空艇内部だったと言われても、信じ難いのかもしれない。となると、どうすっかね。
「ショータ、操縦室か展望デッキを見せればいいのではないか?」
「そうなのか?」
「あぁ、封鎖されていた区画の先というのもあるが、あの二ヵ所なら飛空艇っぽいだろうしな」
っぽいってなんだよ! コイツは立派な飛空艇だよ! ……一応……多分……きっと。
けど、シャーロットの言うようにあの二ヵ所、特に操縦室なら飛空艇感が強そうな筈。
「よし、ここだ」
「なに? ここには壁しかないわよ?」
「まぁ、見れば分かるさ」
やはり俺以外にはタダの壁にしか見えないのか。まぁいいや、操縦室のドアに触ってロックを解除する。
「何で……」「突然ドアが!?」「!!」
「驚くのはまだ早いぞ」
ドアが現れたごときで驚いてたら、この飛空艇じゃやっていけないぞ?
「どうだ! これを見ればコイツが飛空艇だと納得しただろ?」
「へぇー」「これが……」「……?!」
あれ? なんか反応が薄くない? シャーロットですら操縦室を見たら、ちょっとは興奮気味にしてたのに、この三人というかクレアなんか「へぇー」の一言だよ? なんだよ珍しいもの見たわ程度の反応って。
いや、よくよく考えたらこれが普通のなのだろう。俺はテレビの映像としてだが、飛行機のコックピットや船橋を見た事がある。シャーロットも一度だけだが飛空艇の操縦室を見た事があると言ってた。
つまりここが操縦室だと言われても納得できる下地があった訳だ。それに対し、クレア達三人はどう見ても一般人だ。飛空艇はおろか。操縦室があるような中型船に乗ったことがあるかすら怪しい。
そんな彼らがこの部屋を見せられ、「ここが操縦室だよ」と言われても、へぇーとしか返しようがないのではないか? というか、そもそも操縦室だとも言ってたなかったし。
(動かしてみせれば、彼らも納得するのではないか?)
(それだ! 空を飛んで見せれば飛空艇だと実感するだろ)
幸い操縦室からでも外の景色は見ることが出来るしな。よし、それじゃあ……ってなんでシャーロットが躁舵輪を握っている?!
(え? ここは師匠の威厳を出すため、私が飛空艇の操縦する場面ではないのか?)
(ど・う・し・て・そ・う・な・る!)
(えー)
(えーじゃない。ここは俺が操縦して、自分の飛空艇だと主張するところだろうが)
(それもそうだな)
第一印象ってのは大事だからな。初っ端にシャーロットが操縦してる姿を目にしてしまえば、彼女の船だと思われそうだ。ここは何としても俺が操縦してる風にしておかねば。
となると、いつも通りキャプテンシートに座って操縦するのは無しだな。いくら何でも座ってるだけでは、操縦してますと言い張りにくいだろう。まぁ躁舵輪を握っても操縦は出来るからいいけどね。
「よし! 動かすから、その辺に掴まっててくれ」
「え? 動くの?」「分かりました」「!!」「こっちはいつでもいいぞ」
シャーロットは既にキャプテンシート座っている。そこに座られると、お前が船長みたいなんだが? どく気はないですか、そうですか。
クレアとベルは副船長用のシートに座っており、アレク君があぶれた形だ。仕方ないので彼にも躁舵輪に触らせてあげる。
「ズルいわよ」
「仕方ないだろ、他に丁度良さそうなところないし」
「あ、あの。ボク、大丈夫です」
「気にすんな。男の子なら一度は飛空艇乗りに憧れる筈だろ?」
これは俺の勝手な想像だけどな。でもこの世界に飛空艇ってものがあるなら、誰だって一度は操縦したいと夢見るもんじゃないのか?
これはパイロットになりたかった夢を一度は諦め、そして叶えることが出来た俺からの、夢のお裾分けってヤツだよ。いや、それじゃちょっと偉そうか。まぁいいや。飛空艇は夢を抱えて飛ぶもんだからな。
「よし、いくぞ! ダンデライオン号、発進!!」




