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第196話 闇

祝? 半年!

 SPが枯渇し槍も満足に振るえなくなってしまった俺は、仕方なく焚火の所に戻って来た。鍛錬にはならなかったが、隠密の使い過ぎのデメリットが確認できたのだから無駄じゃなかったはずだ。

 定位置に戻り、吹き出た汗を拭く。なぜ俺は風呂に入ったと言うのに、汗をかくような事をしたのだろうか? いや、元々鶏白湯を作ってた時から汗はかいていたし、今更か。


 汗を拭いた後に便利魔法の一つ「洗浄」の存在を思い出す。そうだよ、この前覚えたんだしMPに余裕はあるんだから、使えばよかったか。


「『すすぐ』」


 思い出したのだから、早速使うことにした。といっても拭いた割にはサッパリしなかった顔周りだけだ。それなら消費MPもちょっとで済むしな。

 洗浄を使う時のイメージは、メントール配合のボディペーパーを頭に浮かべたら使えるようになった。スーッとはするが、これで洗濯はできない気がする。あと寒いときに使ったら最悪だな。

 まぁ今の時期は春先らしく、暑くもなく寒くもない丁度いい季節ではある。それに春先って事は、これから暑くなるだろうしスーッとする魔法なら丁度いい筈だ。寒くなったら、その時はまた考えればいいや。


 魔法のお陰もあって体自体はスッキリしたけど、疲労感というか倦怠感は残ったままだ。これはSPが枯渇したペナルティなんだろう。

 ちなみにMPが枯渇した場合は気怠さや気絶といった精神的なペナルティがある、とシャーロットが言ってた。


 座って焚火を眺めていると、徐々にSPは回復していくが倦怠感は無くならない。ペナルティって結構長いんだな。

 この倦怠感は何をするにも付き纏ってくるので、次第に焚火に追加の薪を入れることもなくなった。だんだんと小さくなっていく焚火に比例するように、周りも暗くなる。

 光源はこの焚火しかないので、焚火から炎が上がることもなくなり、ただの炭火だけになると、本当に闇一色になっていく。


 闇は古来より人に恐怖を与えてきた。だが近代になり夜は闇ではなくなった。俺の生活の中で光が無かった事なんて殆どない。それぐらい闇の怖さとは無縁の生活だった。

 だが今は闇が広がっている。炭火となり炎すら上がらなくなった焚火では、周囲の闇を払う力はない。さっきまではボンヤリとだが見えていた馬も、もう視認できないほどだ。


 闇は俺だけを残して全てを包み込んでしまう。この世界で俺一人になってしまったかのようだ。我ながらバカなことを考えたものだ。

 ちゃんと幌馬車にあるバックドアの存在は感じられているし、その中にはシャーロット達もいる。俺は一人じゃない。


 耳を澄ます。リーリー、ジージーと鳴くのは虫の声か。ブフゥと聞こえるのは馬の寝息か。遠くではブモーと啼いている声がする。ワォーンと叫んでいるのは狼あたりか? 時折吹く風に、ザァーっと草の靡く音が響く。

 これが世界の息吹か。大袈裟かもしれないが、その時俺はそう感じた。不意に頭上を見上げる。月は三日月程度で、光源としては頼りない限りだ。

 弱い月光ではあるが、その分星の輝きを邪魔していない。空は満天の星。雲すら一つもない。塩の平原で見た星々がここにもあった。


 まぁ大して移動してないんだから同じ星空なのは当然か。だが、もう一度あの星空を眺められた。前回は満天の星って事に感動してしまい、きちんと星を見てなかった気がする。

 しかし今回は二度目のせいか、落ち着いて空を見上げることが出来ている。あ、あれは天の川か? スゲェな。天の川なんて生で見たの初めてな気がする。向こうじゃ明るい星ぐらいしか見えなかったし。


 暫く星を眺めているが、見覚えのある星座が見当たらない。分かり易いオリオン座とか北斗七星すら見つけられない事に、本当に異世界なんだなぁと実感する。

 異世界の星空であっても、魅入るには十分な美しさだ。虫の声や風の音をBGMに星を眺める。眠らない都会じゃできない贅沢だよな。


 ――ワンワン


 犬だか狼の声がする。遠吠えにしては近い。もしかしてこっちを狙ってきてる? そばに置いておいた槍を掴むと、周囲を警戒する。


 ――ブモー!


 あれはランペーロの雄たけびか? 多分、狼がウージィの群れに近付き過ぎた事に反応した様だ。暗くて分からないけど。

 当然ランペーロに釣られたウージィも狼に襲い掛かったようだ。暗くて音だけしか聞こえないけど。


 声を聞いた感じ、狼も群れで襲ったようだ。けど、いかんせん相手が悪い。「同族鼓舞」持ちの群れに襲い掛かるのは自殺行為だと、誰かに教わらなかったのだろうか。

 案の定、すぐにキャインキャインと情けない声が上がる。スキルの効果とはいえ、草食動物が肉食動物に勝つのか……この世界の食物連鎖って何だろう?


 幸い、負けた狼たちが俺の方へ来ることはなく、何事もなかったかのように静寂が帰って来た。争う音に聞き耳を立てていた馬も、直ぐに寝息を立て始める。その慣れてる感に、これが日常なんだと思わされる。

 そんな馬の様子に俺も警戒を解く。馬を守るための不寝番なのに、その馬に守られてるようでちょっと情けないが、あの警戒力は当てになるしな。立ってる者は親でも使えとはよくいったものだ。

 緊張が解けたせいか、少し冷えて来たな。焚火に薪を投入し、少し強まった火勢にホッとする。炎を見るて安心するとはヤバい人になった気がする。いや、炎は人類の英知だ。それを見て安心するのはおかしくない……多分。

前書きにも書きましたが、今日でこの小説を公開して半年になります。

大袈裟かもしれませんが、ここまで来れたのは読んでくれる人が居たからだと思っています。

ブクマ、感想、評価を頂き感謝しています。

これからもダラダラ進行だと思いますが、よろしくお付き合いください。

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