第193話 保留
ショータは究極魔法「モーウド・ウニ・デーモナ・レ」を唱えた。どこかで何かが起こった気になった!
「何よ。究極魔法って」
「究極魔法とは……魔法を突き詰め極めた、すんごい魔法だ。唱えたら最後、全てが終わる」
「……で?」
「ちなみに究極魔法と対をなす、至高召喚がある。これを唱えると、某料亭の親父を召喚し料理人と女将に当たり散らすことが出来るのだ。なお召喚には微妙な味の料理を生贄にする必要がある」
「……迷い人って、もっと知的な人がなるんだと思ってたけど、アタシの勘違いだったようね」
「はっはっはっ、それはまるで俺が知的な人ではないような言い方じゃないか」
「……自覚してないの?」
「冗談に決まってるだろ。場を和ませるための渾身のボケだろうが」
「そうなの? アンタの事だから、本気で言ってるのかと思ったわ」
「……変な信頼だな」
まぁ究極魔法云々はさておき、クレアに飛空艇の事を話してしまうべきか否か。
保身を考えると、全力ですっとぼけるか、黙っててもらうようにお願いするべきか。
ただクレア達の村にはトマトがある。馬車だと片道三日もかかるらしいが、飛空艇なら一日で行ける。新鮮なトマトをガロンさんに提供すれば、より美味い料理を作ってもらえるだろう。
だけど、縁もゆかりもない俺とシャーロットだけで行ったとして、果たしてどの程度の量が入手可能だろか?
アレク君の話だと、各家では家庭菜園程度しか栽培していないらしい。だとすると、せいぜい一籠とかその程度な気がする。
ならば村出身の彼女達を仲介役として連れて行けば、話はスムーズにかつ簡単に進むはずだ。そう考えるとクレア達にスキルの事を話してもいいかもしれない。
どうすっかね。クレアはジッと俺の反応を窺っているが、とりあえず目の前の事から片付けるか。相変わらず強火で煮たてている鳥白湯スープのアク取りをする。
さっきクレアに味見してもらった時はちょっと白くなってきた程度だったので、彼女も「あんまり味がしないわね」とイマイチな反応だった。けど今は骨も崩れ始めてるし、結構白濁してきている。
お玉でスープをすくい、自分の手の甲にのせる。勿論フーフーしてだ。さっきクレアに味見をしてもらった時、うっかり冷まさずに同じことをしてしまい大目玉を喰らったからな。俺は反省が出来るのだ。
うん。コッコゥの出汁が出て来てる気がする。方向性は間違っていないみたいで、ちょっと安心する。当然クレアにも味見してもらう。これで彼女だけ無しにしたら、鍋ごと持ってかれそうだからだ。
……よし、クレアにも話そう。出来ればシャーロットとも相談したかったけど、俺のスキルの事だしな。俺の心の中のシャーロットも「最終的にはショータ自身が決めることだ」と言ってる気がするし。
「クレア……さっきの話なんだけど、明日の朝話すって事じゃダメかな? どうせならアレク君やベルにも話しておきたい」
はい、ヘタレましたー。だって仕方ないじゃん? 自分の事を洗いざらい白状するなんて、何回もやりたくないだろ?
どうせクレアに話したら、あとの二人にも話さない訳にはいかないんだし、だったら一回で済ませたいと思うのは当然じゃね?
「……いいわ。本当は無理矢理でも聞き出すことも考えてたけど、アンタがちゃんと話すっていうなら待つわ」
「スマンな」
「それにしても、アレクとベルにもって事は、シャーロット師匠はこの事を知ってるのね」
「まぁそれが縁で一緒のパーティーになったみたいなものだしな」
厳密に言えば、彼女の目的は俺の飛空艇ではなく、フリュトンだったんだろうけどね。まぁ合縁奇縁も縁の内ってヤツだな。違うか。
「……よし、聞きたいことも聞けたし、アタシは寝るわ」
「あぁ、お休みー」
「お休みーってアンタは休んじゃダメよ。自分で言い出したんだから、一晩ちゃんと見張るのよ?」
「分かってるって。いい夢見ろよ!」
「何よソレ」
「まぁ知るわけないか。あ、夢で思い出した! クレアはこの前マジックルームに泊まった時、変な夢とか見なかったか? 例えば武器を延々振り回したりとか、魔法を延々使っていたとか」
「見てないわね。せいぜい起きた時に身体の調子が良かったぐらいかしら?」
「そうか……」
「あぁ、そういえばアレクは変な夢を見たって言ってたわね」
「お? それってどんな夢だった?」
「なんか知らない町を歩いていたって言ってたわ」
「知らない町?」
「えぇ、マウルーでもなく勿論アタシ達の村でもない、全く知らない町だったらしいわ」
「ふーん」
なんだろ? スト〇ートビューのVR版とかかな? アレク君に聞いてもいいけど、自分で体感した方が速いか。そのうち他の部屋の効果も泊まって確認しないとか。
「あ、引き留めて悪かったな……あばよ!」
「何よソレ」
クレアルート?
初めからありませんが?




