第191話 煮込む
ねるねる魔女のアレが、実はタダの食事の仕込み中だったかどうかは置いといて、強火でかけておいた寸胴鍋の中身が沸騰し始めて来た。
アレク君の話だと、トリガラスープにするにはここで火を弱めて只管沸騰しないよう煮込めばいいらしい。だが俺が目指すのは鳥白湯なので、このままガンガン煮込み続ければいいはずだ。
グラグラと煮立つ鍋の様子を見ると、アクっぽいのが浮いてきている。こいつを放置しておくと不味くなる要因になるので、出来れば取り除いておきたい。
普通はお玉で地道に掬っていくんだろうが、俺には強い味方がある。その名も「アクトリオタマ~」。何故かダミ声で言いたくなった。前にも言ったが俺は〇山のぶ代派なんだ。あと某昼寝が得意な少年の母親の名前は玉子さんらしい。どうでもいいな。
まぁ飛空艇の厨房で見つけたお玉の一つだ。さっきアレク君が厨房の引き出しをあさった時、色々なキッチングッズの中から見つけたのを、丁度いいとばかりに持って来たのだ。
これは普通のお玉の柄に近い部分が網目になっているので、簡単にアク取りが出来る優れものだ。でも普通に使うと網目から汁が零れて、思ったよりも掬えなそうだよな。
とりあえずアクトリオタマでアクを掬うと、その辺にポイッと捨てる。マナーのなってないタバコ吸いは「地球が俺の灰皿だ」とか言うが、俺の場合は「アルカナが俺のゴミ箱だ」になるんだろうか。
うーん……アクと吸い殻は違うとはいえ、何かモヤモヤする。ニコチンは毒になるが、アクは毒なんだろうか? 人が食べて不味いと感じるのは、基本毒だと聞いた覚えもある。
……考えても仕方ないな。このアクだって元はコッコゥにあったものだ。そのコッコゥだって。俺達に食われなくてもいつかは土に還ってたはずだし。うん、気にしないことにしよう。
などと下らない事を考えてしまうのは、ヒマだからだろう。見張りといっても、シャーロットが掛けてくれた警戒の魔法があるから、夜行性の動物とかが来ても分かるらしいし。
って、そうだ。シャーロットだよ。アイツ、見張り番のやり方を教えてくれるとか言ってたくせに、すっぽかしたのか?
「師匠なら来ないわよ」
振り返れば奴がいた。もといクレアが居た。ちゃんと装備を身に着けてる所を見ると、彼女がシャーロットの代わりに来たのだろう。
まぁ見張りの仕方を教えてくれるならクレアでも構わないか。むしろシャーロットだと、「魔法だ」か「勘だ」で終わりそうだ。
「……そうか。で、クレアが代わりに教えてくれるって事でいいのかな?」
一応確認はしておく。伝言だけって可能性もあるし。
「そんなとこね。取りあえず線香に火を点けておくわよ」
「なんだ。一晩中付き合ってくれる訳じゃ無いのか」
「なんで昼寝してたアンタと、御者してたアタシが同じ条件で見張りしてなくちゃならないのよ」
「そういえばそうだったな」
「本当は疲れてるんだけど、アンタともちょっと話したかったから、師匠にお願いして代わって貰ったのよ」
「どうせならツンデレっぽく言ってみてくれ」
「つんで? 何それ? それより見張りの事を教えていくわよ。覚悟しなさい」
「分かったにゃー」
寸胴鍋の様子を見ながらだが、クレアのレクチャーが始まった。彼女は冒険者になってから日は浅いが、それ以前にも、いつか冒険者になった時の為といって野営は何度かしてたらしい。
そんな彼女がちょっと先生ぶって話してくれたけど、所々アレク君の狩人見習の経験談が入る辺り、彼女も達人って訳でもないのだろう。でも野営経験ゼロの俺よりは遥かにマシなことに変わりはない。ちゃんと聞こう。
焚火に関すること。クレアが言うには、焚火は野生動物は遠ざけてくれることもあるけど、モンスターとかは逆に寄ってくる場合があるから、ほどほどにした方がいいらしい。いや、強火で煮てる最中なんですが……。
匂いに関すること。野生動物やモンスターの中には、匂いに釣られる習性を持つモノもいるので、強い匂いを発するようなことは避けた方がいい。いや、煮込んでるからどうしても美味そうな匂いが出るんだけど。
「なんで野営中にスープの仕込みなんかしてるのよ!」
「何でって言われても……ヒマだから?」
「ヒマだから、じゃないわよ! 外敵に襲われたらどうする気よ!」
「……マズかったのか?」
「マズいわよ! いや、スープは美味しそうだけど。ってそうじゃないわ。心得の問題よ!」
「まぁまぁ。煮込み始めたばかりだけど、ちょっと味見してみる?」
「……するわ」
取りあえず味見で誤魔化してみたけど、クレアの話じゃこの辺にも夜行性の動物は出没するらしいし、少々考えなしだったかもしれない。
でも煮込み始めたんだから、このまま捨てるのは少々勿体ないよなぁ。かといって厨房で煮込んだのでは見張りにならないし、どうすっか。




