第186話 野営
ランぺーロ討伐の証明部位も俺達の分とアレク君達の分は手に入った。お互いのノルマは達成したし、肉自体もダリオ達の残した分がたっぷりある。
これで町へ引き上げてもいいのだが、そろそろ夕暮れになりつつある。今から帰っても到着は夜中になるだろうから、多分門が開いていないだろう。
しばらく前までロジオノ達もランペーロを解体していたが、彼らも既に近くの村とやらに引き上げ、この場には俺達しかいない。
俺達もその村に行く選択肢もあるのだが、ダリオはともかくギオルギに会うと面倒なことになりそうだし、なによりもロジオノ達とは金輪際関わらない方がいいと俺が主張したため、村へは行かずに狩場からちょっと離れたところでキャンプすることになった。
元々野営する予定だったし、その為の準備はしてあるので問題はない。持ち運びドアも幌馬車の中に設置すれば問題ないだろう。
強いて言えば馬をどうするかってことか。俺達全員がバックドアの中に入ってしまえば、馬を守る奴がいなくなる。かといって馬まで中に入れるのも変だろうしな。
まぁその辺は相談すればいいか。丁度アレク君達は食事の用意をし始めたので、俺とシャーロットは寝床の用意をするといって幌馬車に入る。
彼らもシャーロットがマジックルームを所持している(という設定な)事は分かっているので、特に怪しまれることもなかった。
「馬か……確かに、誰もいないのに外に出しておくのはマズいか。警戒の魔法があるとはいえ、一人ぐらいはついている必要はあるだろう」
「やっぱそうなるよな。となると交代で見張りをすればいいか」
「そうだな。四人ならば負担は少ないだろう」
「四人? 俺達は五人いるんだぞ?」
「……ショータは自分が見張り役に適していると思っているのか?」
「確かにそうかもしれないけど、誰だって初めてはある訳だし、教えてもらえばいいだけじゃないのか?」
「……分かった。ならショータは私と一緒に見張りだな」
「見張りなんて初めてだから、ちょっと楽しみだ」
「ふっ、まぁせいぜい、途中で寝ないようにするんだな」
「その辺は大丈夫だろ。こっちに来る前は夜更かしなんて当たり前だったしな」
「そうか。なら一晩中見張りをしてみるか?」
「それはそれでアリな気がするんだよな。明日は戻るだけだから、道中は寝てるだけだし」
ぶっちゃけ今日だって来る時は寝てただけだし、肝心のランペーロ戦でも碌な仕事してない。この辺で役に立っとかないと、要らない子扱いされてしまうかもしれん。
シャーロットやアレク君はそんなことしないだろうけど、クレア辺りが言い出しそうで、ちょっと怖い。
見張りはともかく、一晩程度の徹夜なら楽勝だろう。そう、俺は夜の男として活躍の場を見つけるんだ。
「それはそうと、ドアを設置しなくていいのか?」
「あ、そうだった」
幌馬車の荷台にベニヤ板を出す。って、どうやって立てよう? 単純に立て掛けるだけじゃ直ぐに倒れそうだよな。
釘でもあれば荷台と固定できるけど、そこまでの用意は無い。板に穴でも開けておけば、ロープを通せただろうけど、それもない。
「ん? どうした?」
「あぁ、どうやって立て掛けようか考えてたんだ」
「別に立て掛ける必要も無いのではないのか?」
「え?」
「昨日も試しただろう? 床に寝かせて使えば問題ないのではないのか?」
言われてみればその通りだ。バックドアは平らであれば地面だろうが召喚できる。建前上ベニヤ板に召喚する必要はあるだろうが、なんなら荷台の床に召喚しても問題ない。
入口で座る必要があるので、出入りに違和感があるだけで、中に入ってしまえば至って普通な空間だ。
「うーん……でも、俺達はともかく、あの三人に変だと思われないか?」
「マジックルーム自体が変といえば変な代物だからな。今更だろう」
「そんなものか」
「多分な」
まぁ悩んでも仕方ないか。取りあえず荷台の床にベニヤ板を敷いて、そこへバックドアを召喚する。
「じゃあ、前回みたいに厨房や操縦室をロックしてくるけど、シャーロットはどうする?」
「勿論一緒に行くぞ? 私が持ち主って事になってるからな」
「あいよ。一応足元に気を付けてくれ」
確かに俺だけ中に入って、このマジックルームの持ち主である彼女が外にいるのは変だよな。だったら一緒に行動してた方がまだマシだろう。
開いたドアの縁に腰かけ足を中の床に付けると、中に転がり込むように体を前に倒す。そうしないと中で起き上がりにくいからだ。どうせなら手摺でもあればいいのにな。
『MP1を消費し「機能:手摺」を解放しますか? MP50/50』
当然YES。入口に縦型の、更に手摺が横に繋がるように廊下まで出現する。丁度手摺が入口の所だけ床までL字に下がってる状態だ(こんな感じ─┐)。これで起き上がりやすくなったな。
シャーロットも同じように手摺を使って中に入ると、前回の時を思い出しながら、部屋や機能をロックしていった。




