第181話 疑惑
俺は全員を一旦馬車の中に集めた。あまりいい話ではないし、誰かというか彼らに聞かれたらちょっと気まずい気がするからだ。
「で、ワザワザこんな狭い中で話そうってんだから、それなりの話なんでしょうね?」
口火を切ったのはクレアだ。確かに幌馬車の荷台に五人も座っていれば結構狭い。それでも外で話してるよりはマシだろう。
「結論から言おう。ギオルギの転倒は多分『暗殺』パーティーの仕業だ」
「……証拠は? 誰かを疑う為には十分な証拠が必要なのは分かってるわよね?」
「証拠は……ない。だが、妙に不自然なことがあった」
「……続けて」
「一つはギオルギの転倒だ。てっきりペース配分を間違えて足でも縺れたんだと思ったけど、その割にはペースが変わってなかったんだよな」
この世界にはステータスがある。スタミナもSPとしてキチンと表示される。釣り役が二人になったせいでハイペースで狩りをしてたように見えたけど、釣り役一人が釣るペースってのは変わっていなかったのは、ちゃんとスタミナを管理していた為だろう。
「釣り始める場所はバラバラだけど、アイツが転倒した場所は戻って来るときに使う道だった。足場が悪くて転倒したのも考えにくい」
まぁ何度も往復したせいで路面の状態が悪くなった可能性はあるけどな。
「……アンタが言いたいのはギオルギ自身の失態で転倒した訳では無いってこと?」
「そんなところだな。まぁグダグダと理由付けしたけど、ぶっちゃけ見たんだよ……いや見てないと言った方がいいのか」
「は? 見てない事が彼らを疑う理由になるっていうの?」
「そうだな。ところで俺は『概観視』っていうスキルを持っている。こいつは視界の端に映ったものでもキチンとみることが出来るスキルだ」
使ってて気づいたんだけど、このスキルって見落としがないんだよな。少なくとも視界に映った情報は全て把握できる。把握した情報を処理しきれるかどうかってだけだ。
あの時、アレク君がギオルギの足にポーションをぶっ掛けた時、俺は概観視を使ってその光景を見ていた。その後クレアとベルの声で振り向いたその時も、ずっと概観視を使ったままだったのだ。
その時の視界に入っていたのは、クレア、ベル、シャーロット(with馬)、そしてダリオ達五人と『暗殺』パーティーの五人。
そう、五人だ。『暗殺』パーティーは全員で六人のはずなのに五人しかいなかったのだ。当然あと一人はどこに行ったんだって話になる。
たまたまトイレに行ってたのかもしれない。あるいは馬車に入ってたのかもしれない。だがあの時、叫び声を聞いて、全員がギオルギの様子を見に行ったのだ。なのに一人だけ聞き逃したってのも考えにくい。
それにアイツ等は隠密系のスキルを使って獲物を狩る『暗殺』パーティーだ。しかも俺では捉えきれなかったほどの隠密系のスキルを持つ奴が三人もいた。そしてそのうちの一人、あの時ヤレヤレと手を上げた奴だけが、見えなかったのだ。
「つまりアンタは、あの時姿が見えなかったソイツが、何らかの方法でギオルギを転倒させたって言いたい訳?」
「そうだ。状況証拠ってヤツだけどな。ただ、俺が言いたいのはギオルギを転倒させたこととかじゃないんだ」
誰かが、他の誰かの邪魔をしてるのなんて、正直どうでもいい。俺に、いや俺達に火の粉が掛かってこなければな。
「俺が言いたいのは、ソイツのせいでギオルギが死んだかもしれないって事だ。正直人が死ぬかもしれないと分かってて、その選択肢をとれるヤツと関わりたくない」
「……」
「俺が言ってるのはあくまでも可能性の話だ。ギオルギが勝手に倒れた可能性だってある。たまたま姿が見えなかっただけ、例えばウージィの群れの中に居たとかな。
ただ少なくとも見間違いとか勘違いの可能性はない。確かにあの時俺はソイツを見ていなかったんだ。」
「そう……分かったわ。とりあえずショータの話を信じたわけじゃ無いけど、彼らと積極的に関わるのはやめておきましょう」
「信じてくれなかったのは残念だけど、そうしてくれ。触らぬ神に祟りなし、だ」
「触らぬ? ショータは時々おかしなことをいうわね」
「ショータは時々どころか、しょっちゅうおかしなことを言ってるぞ」
「それもそうだったわね」
そこはフォローしてほしかった……。
「それとだな……残念なお知らせがある」
「?」
「お客さんだ」
そう言ってシャーロットは幌の外を指さした。




