第175話 ウージィとランペーロ
「見えたわ。あそこがランペーロの現れた草原よ」
おー、遂に辿り着いたか。あんまりにも暇だったんで、俺とシャーロットとアレク君しまいにはベルやクレアも参加して、立てた親指の数を当てるゲームをしていたよ。
テレビとかでも一時期やってた、親番の奴が「いっせーの 2!」とか叫んで、その時立ってた親指の数を当てる奴だ。
ジャンケンを伝えた転移者が居たんだから、これも伝わってるのかと思ったけど、そうでもなかったみたいで、アレク君達の食いつきが凄かった。
クレアもちゃんとやりたかった様だけど、御者があるので予想だけ参加してた。ベルの掛け声? あぁ、彼女の場合は「……!!!」だった。けど、案外分かるもんだな。
さて、そんな暇つぶしもこれにて終了、いよいよランペーロ狩りが始まるのだ、と意気込みクレアの指し示す方向を見たが、何もない。せいぜい小高い丘がある程度だ。
コイツ、御者るのに飽きて適当なこと言いやがったな? と思ったが、アレク君まで「着きましたねー」とか言い出したし。
アレク君よ……いくらパーティーメンバーだからといって、そんな事までフォローすることは無いんだぞ?
「分かってない様だから教えてあげるけど、あの丘に馬車が二台、止まってるのが見えるわよね? 休憩所でもないのに馬車が止まっていて、しかも何人か降りているのも見えるわ」
確かに目を凝らしてみれば、丘の上に馬車っぽいのが止まっているのが見える。けど人影までは見えないし、馬車の台数もよく分からない。クレアの目がいいのか、俺の目が悪いのか。
クレアは街道を外れると、そのまま丘を目指す。これでタダの立ちションとかだったらチョップしてやろう。
「お? おー」
小高い丘から眺める景色は、緑と茶色のツートンカラーだった。緑は草原、茶色は……ありゃ牛だな。どう見ても牛です。それもジャージー牛。あいつがランペーロとやらか?
「ふーむ、ウージィだけで、まだランペーロにはなっていない様だな」
シャーロットが牛を眺めて呟いている。
「ウージィ? ランペーロとは違うのか?」
「そうだな……時間もある事だし、昼食にしようか。その時ついでに教えてやろう」
シャーロットの一声で昼食を摂ることになった。今日の弁当はいつもの串焼きサンド……と見せかけて、なんとライスサンドだ。
丸く握った薄いオニギリ(いや丸いからオムスビか?)をパンの代わりに使っている。だったら普通に中の具として使えばいいのに。何か拘りでもあったのだろうか?
だがその答えは食べた先にあった。これ、内側の面だけ軽く焼いてある。オニギリだと御飯が崩れやすいので、そのままだとライスサンドには向かない。
だが、焼き目を入れたことで崩れにくくなるうえ、焼きオニギリっぽくなるのだ。パンに挟んでも美味い串焼きなのに、焼きオニギリに挟んだら最強だろ……。
ボリュームがあるのに、つい三個も食べてしまったし。シャーロットに至っては五個も食べてやがった。
おい、それって夕食分までガロンさんが用意してくれてたとかじゃ無いだろうな? 違う? ならいいが……もう一個貰っておくか。
昼食が終わっても牛いやウージィに変化はない。呑気に草をハミハミしている。食後にこんな牧歌的な光景を眺めていると、昼寝でもしたくなるな。
というか、ランペーロの説明はどうなった?
「お、あそこを見ててみろ。そろそろ現れるぞ」
シャーロットが示す先はウージィが草を食べてる姿だ。そんなの他にも一杯いるけど、何か違うのか?
問い詰めたい気もするが、シャーロットの目が黙ってみてろと言ってるような気がしたので、大人しく眺めておく。
ん? あれ? アイツさっきまで茶色だったよな? いつの間に白黒のブチになったんだ? アハ体験?
気が付くと茶色だけだったウージィの群れに何頭か白黒のホルスタインが混じり始めた。
「分かったか? ウージィはあの花を食べることでランペーロに進化するのだ」
花? 進化? アイテムを与えると進化するって、それってどこのポ〇モン?
シャーロットが言うには、あのジャージー牛みたいな茶色い牛がウージィで、白黒のホルスタインがランペーロだそうな。
ウージィは人を襲うこともなく家畜として飼われており、搾った牛乳からバターやチーズを作っている、まぁ普通の牛だな。あと食えるけど、イマイチな味らしい。
で、野生のウージィはこうして群れを作り、あちこちの草を食べ歩いている。そしてウージィを進化させる草がこの時期だけ生えるらしく、それを食べたウージィはランペーロに進化するそうだ。
ランペーロに進化すると、人を襲うようになるので討伐の対象になる。というか肉が格段に美味しくなるので積極的に狩られるのだ。進化したとたん狩られるとか憐れ過ぎるな。
強さとしてはワイルド・ボアよりは弱いので、単体なら俺達でも十分勝てるだろうって事だ。




