第174話 馬車道
ゴトゴト、ゴトゴト。馬車は順調に進んでいる。天気も上々、街道沿いの為かモンスターの出現もない。荷台から眺める景色も、見慣れれば退屈な風景に早変わりする。
そう、ハッキリ言って暇だ。出発して一時間も経っていないが、風景は基本草原で、たまに森のそばを通る程度。景色に変化が無いってのはこれほど暇だったのか。
こんな時は暇つぶしの道具でもあればよかったんだけど、その辺の用意はしてなかったからなぁ。かといって、他の連中は思い思いに暇つぶし中なんだよなぁ。
ちなみにクレアは何か瞑想中でシャーロットは寝てる。ベルは幌の上で周囲の警戒中だし、アレク君は御者に集中している。俺もシャーロット見習って寝てるか。
仮眠のつもりがガッツリ寝てたようで、起きたら馬車が止まっていた。もう着いたのかと思ったけど、太陽を見たら、まだお昼にすらなっていない。多分休憩で止まっているんだろう。
荷台にも御者にも、勿論幌の上にも人影はない。全員降りたようだ。だったら俺の事も起こしてくれて良かったのに。
「あら、起きたのね。グッスリ寝てたから起こさないようにしてたんだけど、まぁいいわ」
「ここは?」
「休憩所みたいなところね。川と街道が近い所には、こうして木が植えられて休めるようになってるのよ」
「へぇー」
クレアとベルが馬に水をやりながら答えてくれる。まぁ答えるのはクレアだけだけどな。アレク君は木に寄り掛かって休んでいる。流石にずっと御者るのもしんどかった様だ。
あれ? シャーロットの姿が無いな。クレア達に馬の世話を押し付けて、あいつもサボりか?
「師匠ならコッコゥを狩りに行ったわよ。もうすぐ戻って来るんじゃないかしら」
「そうか」
すまん、サボりは俺だけだったようだ。暫くするとシャーロットがコッコゥを片手に戻って来た。巾着袋に仕舞ってくればいいのに、見せびらかす様に戻って来る辺りが「仕事してます」アピールっぽい。
ぬぅ、なんか俺だけ遊んでましたって気がするな。ここは一つ、御者を代わってもらうべきか?
「次は俺が御者をやらせてもらっていいか?」
「えーっと、そうd「それなら私が代わるわ!」……だそうです」
なんだか、あからさまに取って代わられたな。そんなに俺の御者が信用できないのか? これでも一応は合格点もらえたんだぞ?
でもまぁ免許取りたての運転手の車には、誰だって出来れば乗りたくないか。俺だって遠慮するだろうしな。
コッコゥの血抜きを済ませると、馬車の旅が再開される。今度の御者はクレアが務めるので、アレク君は馬車で待機組だ。
馬車で待機とか、どっかのゲームっぽいよな。で、そのうち牧場送りになったりしたっけ。まぁアレク君が送られる前に、俺が送られるだろうけどな。
その後も馬車の旅は順調に進んでいく。一回だけゴブリンの襲撃があった。全速力で振り切っても良かったんだけど、次の誰かが襲われてもなって事で、返り討ちにしたのだ。
ゴブリン六匹に対して俺達は四人だったけど(シャーロットは馬車の護衛に残った)、簡単に蹴散らすことが出来た。数が多いとはいえ、連携も無かったので楽勝だった。
ただちょっと気になったのは、クレアが呟いた「この辺もゴブリンが出るのね」って言葉だ。
ランペーロ狩りを受けた時、ついでにこの辺の情報も聞いてたらしいんだけど、その中にはゴブリンの情報は無かったそうだ。
ただのハグレのようだが、近くに巣があるようなら潰しておきたいらしい。そんなにゴブリンが憎いのか。でも先を急ぐので却下だな。一応決定権は俺にあるし。
ゴブリンの襲撃後は特に何も起こらず、昼を過ぎたころには、ランペーロが目撃された草原に辿り着いたのだった。




