第171話 旅
シャーロットとの混浴も四度目ともなれば手慣れたものだ。無心で身体を洗い、無心で湯船に浸かる。一度ぐらい背中を流してみたいものだが、例の警告に引っかかりそうなのでヤメておく。
手を伸ばせば触ることのできる全裸美女が居るのに、触ろうとすると強制退去させられるとかマジで誰得なんだよ? あぁシャーロットは得か。
そんな悟りが開けそうな気持ちになるぐらいなら、混浴なんて諦めろと言われるかもしれない。だが、あえて言おう。そんなのは男じゃねぇと。
混浴が嫌いな男なんて、居る筈がないと俺は信じている。もしいるとすれば、ソイツは一人が好きな奴かもしくは男が好きな奴ぐらいだろう。
そんなくだらない思いも湯船に浸かってしまえば、一日の疲れと一緒に取れていく。今日は慣れない御者なんてやったせいか、座ってるだけだったのに普段よりも疲れがたまってた気がする。
広い風呂に浸かっていれば疲れも吹っ飛ぶような気はするが、やはり温泉の誘惑には抗えない。いつか温泉探しにも行ってみたいものだ。
いつか、か……今のところ、この町が拠点になっているが、飛空艇を活かすならやはり旅に出ないとだよな。塩の平原みたいな絶景だって見て見たいし、他の町にも行ってみたい。
地図で見たこの世界は広そうだったが、自らの目で見た世界はもっと広く感じるのだろう。飛空艇があれば世界の果てのその先も、いつか見ることが出来るかもしれない。
そう思うと今すぐにでも旅に出たい衝動に駆られるが、ちょっと落ち着こう。旅に出るのはいいが、先立つものは必要だろう。
飛空艇の食糧が有るとはいえ、出先の美味しい料理や珍しい品物を買うには金が要る。それにこの世界はそれほど安全ではない。モンスターも居るし、人にだって悪い奴らはいる。
命の軽い世界では、己を守るのは己自身だ。護衛を雇ったとしても、その護衛が裏切らないとは限らない。人を疑うのは好きではないが、信じた結果が痛い目をみる程度ならともかく最悪は死だ。
奴隷制度も例の協定があるせいで、一生守ってもらえる奴隷を手に入れるにも、それなりのリスクが伴うしな。
そういった意味ではシャーロットと出会えたのは運が良かったのだろう。ワイルド・ボアを一刀両断できる強さを持った彼女がパーティーメンバーなら心強い。
ただ彼女との関係は、あくまでもメンバーなだけだ。ちょっとどころか殆どの秘密がバレてる状態だけど、一蓮托生の間柄ではない。
もし俺が旅に出たいと言ったら、果たして彼女は付いてきてくれるだろうか……。
「なぁ、シャロは旅に出たいと思う事あるのか?」
「ぐ、不意打ちとは卑怯な……まぁ、あると言えばあるな。この町に来たのだって、旅の一環な訳だし」
そういえば彼女は魔王国から来たんだっけか。ギルドに登録してはいるが、また旅に出ることになっても抵抗は少なそうだ。
「だが、もうしばらくはこの町に居てもいいとも思っている。弟子も出来たしな」
「そうか……」
そういって俺の方を見る。そうだったな。彼女との関係はパーティーメンバー以外にもあったな。色っぽい関係じゃないけど。
「もし俺が旅に出たいと言ったら、シャロは付いてくるか?」
付いてきてくれとは言えないよな。彼女にだって自分の人生があるわけだし、俺に強制できる権利は無いしな。
「ふむ、そうだな……目的地にもよると答えておこうか。私は魔王国に戻るつもりはないから、もしショウが魔王国に行くのなら、ここで別れることになるだろう」
戻るつもりはないか……なにか事情があるんだろうけど、あまり突っ込むのもな。とりあえずこの国を巡る分には付いて来て貰える様だ。
「なら当面の目的地はこの国内だな。そのうち王都ってのにでも行ってみるか」
「王都か。私も城下町には行った事が無いからな。是非行ってみよう」
城下町? そうか王都って言うぐらいなんだから王様がいるんだろう。当然、お城の一つや二つあるよな。某夢の国みたいなお城なんだろうか? 是非見たいものだ。
「まぁ、その前に明日の依頼で旅に出るけどな」
「そうだな。馬車で半日とはいえ、旅は旅だ。ショータも気を引き締めて挑むようにな」
「ハイハイ」
「ハイはいっ――」
「イエスマム!」
そうだった。明日は馬車に乗っての遠出だ。人数が増えたとはいえ、気を引き締めて掛からないと、足を掬われる事になる。
あまり長湯して明日に影響が出ないとも限らない。もう少し浸かっていたかったが、上がるとしよう。シャーロットはもうしばらく入ってるらしいけどな。
明日は早めの起床になる。ちょっと起きられるか不安なので、今夜は飛空艇の寝室で寝ることにしよう。船内なら目覚まし機能が使えるから安心だ。
そういえば寝室のベッドで寝るのも久しぶりだな。本来は俺用のベッドのはずが、なんだかんだで使う機会がなかったんだよな。むしろシャーロットの方がよく使ってる気がする。
だが今夜は俺の独占だ。意味もなくキングサイズのベッドの端から端まで、ゴロゴロと往復する。ゴロゴロしすぎて目が回ったし。
くだらない事をしてないで、とっとと寝よう。お休みー。




