第169話 告白
夕食前の女子会に混ざることになったけど、アウェー感が半端ないな。せめてアレク君でも加わってくれれば、男女比1:5から1.5:5.5になるんだけど……うん、大して変わらんな。
まぁ夕食までの辛抱だ。とりあえずクレアの相談事とやらを聞いてみないとか。でも、俺達に相談事ってなんだ? まさかシャーロットの引き抜き? 今朝、彼女とはただのパーティーメンバーだと答えたけど、それなら引き抜いても大丈夫とか思われたのか?
「あのね……シャーロット師匠に聞いたんだけど、そういうのはリーダーであるショータの了解を取れればいいよって言われたの」
「……」
やはりか……シャーロットの奴は引き抜きに乗り気のようだけど、一応リーダーの俺の顔を立ててくれたんだろうな。
でも、ここで引き留めたら見っともないよな。ここは笑って送り出してやろう。なーに、一人でもなんとかなるさ。
「急な話で申し訳ないんだけど、なんとかウンと言って欲しいの。お願い! この通り!」
「……」
クレアがテーブルに突っ伏す様に頭を下げる。併せてベルも頭を下げている。シャーロットをチラ見すると、大きく頷いている。やはりシャーロットもクレア達と一緒に行きたいのか……。
二人は頭を下げたままだ。多分、いや間違いなく俺の返事待ちなんだろう。二人にいつまでも下げさせておくわけにはいかない。さぁウンと返事をしなくては。
「俺は……」
さぁ言うんだ。笑って彼女を送り出してやれ。
「俺は……イヤだ」
「「「!!」」」
バカヤロウ! なんてことを口走りやがった! 男は黙って頷いていればいいんだよ!
「だって、まだシャーロットからは教わることが一杯あるんだ。もっと一緒に居たいし教えてもらった恩だって返さないとだし、彼女に見せたい景色だってある。だから、シャーロットと別れるのは嫌なんだ!」
頭ではウンと言うべきだと考えているのに、口が、心が勝手にしゃべり出す。俺の中にはこんな感情も隠れていたのかと自分で自分に驚いている。
だが、これも俺の本音なんだ。やっぱり一人は嫌だ。この世界に来て天涯孤独となった俺にとって、シャーロットは家族ともいえるべき存在なんだ。そうだ!
「シャーロット! 結婚しよう!」
「ショータ……すまない。こういうときどんな顔すればいいかわからないのだ」
なんと異世界でちょっと違うけど、あのセリフが聞けるとは! これは俺もあの返しをするしかあるまい。
「笑えばいいと思うよ」
「ショータ……ちょっと落ち着こうか?」
シャーロットが大きく振りかぶると、笑顔でガッっとしてきた。
――――ハッ! おれは しょうきに もどった!
「スマン、取り乱してしまった。今のは忘れてくれ」
「断る!!!!」×6
俺とシャーロットを除いた全員が、声をそろえて言い切りやがった。いつの間にかガロンさんとアレク君も加わってるし。こうなったら仕方ない。シャーロットさん、やってしまいなさい!
俺の一言に頷いたシャーロットは、胸元から怪しげな剣を取り出すと、目撃者全てを惨殺する。だが、ガロンさんの最後の一撃がシャーロットの眉間を貫くと、彼女まで倒れる。
そうして残された俺は、町の警備隊に殺人事件の容疑者としてしょっ引かれる。今は檻の中で刑の執行を待つばかりだ。
「はぁ……どうしてこうなったんだろうなぁ……」
――完――
「ねぇ……俺は……の後は何なの? この姿勢だって、いい加減つらいんだけど……」
「ハッ! 今のは一体……」
クレアとベルは頭を下げたままだ。今のは引き抜きのショックが見せた白昼夢だったのか? 俺の反応が無い様子に痺れを切らしたのか、クレアがガバッと起き上がる。
「早く返事を聞かせてよ? 一緒に行くの? 行かないの?」
「一緒に行く? どこへ?」
「どこって、ランペーロ狩りよ! アンタが馬車を借りてるのは分かってるのよ!」
「は? ランペーロ? クレア達も行くのか?」
「だからそう言ってるじゃない!!」
キーッ! と今度はイスに座ったまま地団駄を踏む。殊勝にしたり怒ったりと忙しい奴だな。だが、クレアの話が断片的過ぎて、さっぱり頭に入ってこない。言語理解さんだって匙を投げるレベルだ。
「あのですね、僕達もランペーロ狩りに行くことにしたんですけど、ギルドの馬車が出払ってたんです」
怒るクレアとオロオロするだけのベルを眺めてたら、料理を持ったアレク君が。どうやら厨房の方は一段落したので配膳に回ったらしい。
料理を並べながら説明してくれてやっと話が通じたよ。クレアって丸め込むことは得意なんだろうけど、説明力が微妙だよな。もっとアレク君を見習ってくれ。
アレク君の話によれば、彼らもランペーロ狩りの依頼を受けたそうだ。受けてすぐにギルドの馬車を借りに行ったけど、全部で払っている状態。まぁ最後の馬を俺が借りたんだからそうなるよな。
ランペーロ狩りには馬車が無いと戦利品を持って帰るのにも一苦労になる。というか、マジックバッグでもないと無理。
当然、クレアは馬車を借りた奴を聞き出すだろうし、その中で一番交渉しやすそうな俺に目を付けるわけだ。で、とりあえず師匠であるシャーロットに頼み込んだって事らしい。
シャーロットの言い分としては、借りたのは俺だしパーティーのリーダーも俺。したがって俺の了承が無いとクレア達の参加を認めることは出来ないという。
ここまでの話を配膳する間に終わらせたアレク君、マジ有能。やっと理解が出来たよ。というか、紛らわしい言い方しないでくれ。勘違いした俺も俺だけど。
勿論返事はOK。明日一緒にギルドで馬車を受け取ってから、目的地に向かうことになった。こうなることを見越してシャーロットは馬車を選んだとか? ……まさかね。




