第168話 時を計る
シャーロットに言われて、この世界の時間がかなり大雑把なのを思い出す。過去の転移者も流石に時間を制定することは出来なかったようで、夜明け・正午・日没程度の区分しかない。それなのに五分間なんて計りようがないよな。
と、今までの俺は思ってただろう。実際カップ麺を作るのにも飛空艇の時計を使ってたからな。だが今の俺は違うのだ。
「そうだな……シャーロットはMPを1だけ使った『明かり』を作れるか?」
「前にもやって見せただろうが……まぁいい、『灯せ』。これでいいのか?」
「あぁ、それが消えたら五分だ」
この前飛空艇内で魔法の練習してた時、ふと効果時間が気になったのでメニュー機能の時計を使って調べてみたのだ。その際、彼女にも協力してもらったっけか。
その結果、正しく発動した『明かり』は込めたMPに比例して効果時間が長くなるが、使う人によってその比例係数が変わることはないって事が分かった。
つまり、俺が作ったMP1の『明かり』とシャーロットが作ったMP1の『明かり』の効果時間は変わらないし、常に五分で消える。
初めて使った時は一瞬で消えたろって? ありゃ正しく発動しなかっただけだ。便利魔法といえど、慣れないうちは魔力回路の形成に甘い部分が出るので、その部分がロスになるようだ。
とにかく、五分区切りとはいえこれで時間を計ることが可能なわけだ。砂時計ならぬ『明かり』時計だな。どうせなら三分で切れれば、カップ麺のタイマーになったのに。
「『明かり』魔法にこんな使い方があったとはな……あの時の検証はこの為だったのだな?」
「まぁそんなところだ。それより、こっちの検証を終わらせたいんだけど……」
「そうだな……いや、それは止めておいた方がいいだろう」
そう言ってシャーロットは通りの方を見る。つられて俺も見ると、ちょっと人通りが増えたように見える。おそらく俺達のいる路地裏に入ってくることはないだろうが、それでも用心に越したことは無いか。
「わかった。宿に戻ってからにしよう」
重要ではあるが急ぎという訳でもないしな。宿の壁なら災害でも起きない限り大丈夫だろうし。
「よし、じゃあ急いで戻ろう」
「今日の夕食は何だろうな」
……ひょっとして、検証してたら晩飯の時間に間に合うか怪しいから、切り上げたんじゃないよな?
夕暮れ時を通り越し既に日没となった大通りを、心なしか急ぎ足で歩く俺達。俺は早く戻ってバックドアの検証をしたい為だが、シャーロットの場合は早く晩飯にしたい為だと思う。
シャーロットの食い意地は今更なのでどうでもいい。俺だって今日の晩飯は気になるからな。
「「ただいまー」」
「あら、お帰り。もうすぐ夕食らしいわよ」
「……」
宿のドアを二人同時にくぐると、クレアとベルが食堂のテーブルを拭きながら出迎えてくれた。彼女達は既に戻って宿の手伝いをしていたようだ。アレク君の姿が見えないのはガロンさんの手伝い中か。
厨房にも顔を出すと、案の定ガロンさんとアレク君のタッグが忙しく動き回っている。邪魔をしちゃ悪いよな、と声はかけずに自室へ戻ることにした。うっかり声かけると、手伝えとか言われそうだしな。
さて、夕食まで多少時間が出来てしまったが、バックドアの検証をするには微妙な時間だよな。まぁ時間があったとしても、夕食前にシャーロットが協力してくれるかは微妙だけどね。
あ、そうだ! 昨日と同じ失敗はしない為にも、先に防具の手入れをしてしまおう。昨日今日と碌に使ってない気もするが、手入れは毎日しないとだからね。
手入れも終わったけど、まだ夕食の支度が出来ていない様だ。今日は手の込んだ料理なのかな? することも無くなったので、一足先に食堂へ向かう。
どうやらシャーロット達も同じ考えだったようで、既に女子会が始まっていた。うーん……あの輪の中に入るのは勇気がいるな……かといって厨房に行っても邪魔なだけだろうし。
仕方ない、諦めて自室に戻ろう。
と思ったら、クレアの奴に捕まった。何でも、俺というか俺達に相談事があるらしい。シャーロットは兎も角、俺に言われても何の力にもなれないんだが……ま、聞くだけならタダだしな。相談に乗ってやるのも年上の甲斐性ってもんだろう。




